第6章 その1 若き金欠病の悩み!
第6章
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こうして、合コン……じゃない、クラス有志による銀杏祭の打ち上げの日程は、11月半ばの日曜日に決まった。
それ以上遅くなると何のためのイベントなのか忘れそうだし。12月になれば二学期末試験も近いから、みんなゆっくり遊んでもいられなくなる。
これで悩める青少年、川野昭二からの相談にも応じられた、などと気楽に構えていた、おれなのだった。
しかし、杏子との仲はといえば、同居はしているし一緒に登校もするけれど相変わらずの他人行儀。
だからって喧嘩しているわけじゃない。
むしろ、相手はおれが言ったことをどう受け止めるか、いろんなことを考えて丁寧に気を遣って接するようにしてる。
……実はそこが、他人行儀に感じる一番の理由なのだが。
ライバルの恋愛相談にのってやるゆとりなんて、おれにあるのかね?
ゆとりと言えば、もう一つ、重大な問題があった。
これも葉月姉や充にアドバイスされたことだが、どこかに遊びに行くということは、非常に金がかかる、ということだ。
特に、あの巨大テーマパーク「ですにーらんど」は……入場に加えて園内でレストランを利用したり買い物をするにも、予想外に出費がかさむと覚悟しろという。
ちらっと聞いたところでは、入園料に5千円はかかるという。
入るだけで5千円!?
気が遠くなる…。
冷静に考えれば、この出費は、正直、痛い。
川野のためだと思えばよけいに痛い。
が。みんなで打ち上げに遊園地に行くことを杏子は喜んでくれるかな。
考えに考えて、貯金から資金を用意することにした。
こんなおれだって、お年玉は全部使ったりしないで、貯金もしていたのである。ほんの、ささやかな額ではあるが。
*
「雅人。葉月姉さんから手紙が来てるわよ」
ある日、さりげなく杏子がこう言って、手紙をリビングのテーブルに置いた。
封書を手にして驚いた。
「あなたのメンタリスト葉月より」
と、堂々と書いてあったのだ。
「ねえ、あなたのメンタリスト、って、どういうこと?」
「そ、それはだな。ちょっと進路のことで悩んでて相談に乗ってもらったんだ。そのとき葉月姉がさ。自称メンタリストって」
我ながら苦しい言い訳をする。
「ふーん、そう。まだ1年生なのに、雅人もちゃんと進路のことを考えてるのね」
おお? 意外と好感触?
「でも雅人、だいじょうぶ?」
「え、なんで」
「メンタリストって意味、わかってる? サイモン・ベイカーっていう俳優が主演してる人気の海外テレビドラマがあるんだけど。それによるとね……」
杏子が教えてくれたメンタリストの意味とは。
メンタリズムという学問? によって、
人の心を読み、思考と行動を操作する者だというのだ。
「えっそう!? 知らなかったな~。コンサルタントみたいなものかと思ってた」
「じゃあきっと葉月姉さんもそう思ってたのね」
そうだねと、おれは頷いた。
が、内心では、危惧していたのである。
葉月姉はきっと、その本来の意味でメンタリストと名乗ったのに違いないのだ。
手紙には、こう書いてあった。
「追伸。
お金は計画的に使うのだぞ!」
追伸って、本文もないじゃん!
葉月姉……悩める青少年のおれたちを、超、金がかかる巨大テーマパークにいざなっておいて、それはないよな!
「雅人、ほんとにだいじょうぶ? 遊園地の入場料、よかったら、あたしのお小遣いから二人分出すわよ」
「それはだいじょうぶだから! おれだって貯金くらいしてるって!」
杏子に金の心配をさせてしまうとは!
なんて不甲斐ない兄!
おれは本気で金の心配をすることになる。
「雅人! 中にまだ何か紙が入ってるわよ」
杏子が、封筒から小さなチケットのようなものを取り出す。
遊園地の入園チケットか!?
つい期待してしまったが、そんな甘いことではなかった。
金欠の可愛い弟分よ。
求めよ。されば与えられるであろう…
道は自ら拓くものであるのだぞ。
そんな意味不明な言葉の後に記されていたのは、
電車の隣駅、荻窪の駅前にあるラーメン屋「蓬莱」で皿洗い他のバイトを募集しているという、ごく簡単な情報と、連絡先の電話番号だった。
これは、働けということか!?




