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冬に咲く

作者: 大輝

初投稿、処女作です。

気を付けましたが、もし誤字脱字や句読点・日本語の間違いがあったら申し訳ございません。


では、ごゆっくりお楽しみください。

私のもとに手紙が届いた。

滅多に郵便物など届かないので、訝しげに思いながらも差出人に目をやる。


国からの通知の手紙だった。


中身を取りだして読んでみる。



終わった…やっと終わった

人と人との醜き戦いが…


私は手紙をスカートのポケットに入れ、上着を羽織ってから家を飛び出した。


外に出ると冷たい空気が鼻に突き刺さり涙目になる。

もう十二月だ、寒いのも当たり前か…と思いながら一瞬怯んだ身体に力を込め

少し離れた首都を目指し歩き出す。



首都についた頃には十一時を回っていた。

家を出てから、かれこれ二時間ほどかかった。


ついこの前まで沈み込んでいた暗い雰囲気はどこかへ飛び去り。

街には喜びに溢れている。


戦争は昨日終戦したらしく、私が住む国は勝利したようだ。

そして今日の正午に戦争の立役者、すなわち《英雄》達は凱旋してくる。


私がわざわざ首都まで赴いた理由はそこにある。

【彼】に会うため…


そうこうしているうちに、正午が間近になっていた。


街には一層活気が溢れる

英雄達を一目見ようと群がる人波を掻き分けながら、最前列まで身を乗り出す。


疲弊しながらも、中央通りを笑顔で行進する軍隊が私の目の前を行く。

私は目を凝らしながら必死に【彼】を探す。

帰還した人数は予想より遥かに多い。

必ず【彼】はいるはずだ…

兵士の顔を一人一人確かめていく。

しかし、なかなか見つからない…。



とうとう【彼】を見つけることが出来なかった…


おかしい、そんなはずはない。


会いたい

【彼】に会いたい

会いたい


そんな気持ちが一気に押し寄せる。



街には陽気な唄が響く。


今はそんな気分じゃない

【彼】に会わなければ…


私はその陽気な唄に嫌気がさし鬱陶しさを覚え、耳を塞ぐ。

とりあえず軍隊の基地に向かってみよう。



基地には着いたものの、私は軍人ではないという理由で中に入れてもらえず、門番に【彼】の行方を聞きはしたが、全く相手にされなかった。

そのあとも何人かの人に【彼】のことを尋ねたが、行方を知っている人はいなかった。

結局その日、私は諦め一度帰宅した。



帰宅してからどうやって【彼】を探すか考えよう。と思っていたのだが…

久しぶりの遠出で思いの外体力を削られたらしく、私は帰宅後すぐに眠りに落ちてしまった。




次の日、私は数少ない知人を訪ね【彼】のことを聞いてみた…

【彼】の行方を知る人は、やはりいなかった。


そろそろ日も落ちてきた頃

来客を知らせるベルが鳴った


慌ててよれた服を整え、戸を開けると。

優しい目をした四十代と思わしき一人の男性が立っていた。

男性は軍隊の方らしい。

立ち話もなんだったので上がるように促すが、男性は謙虚な方で断られてしまった。

しかし、私自身立ち話が嫌いなので、半ば強引に部屋へ上げた。


男性を椅子に座らせ紅茶を用意してから、自分もテーブルを挟んで反対側の椅子に腰を掛ける。


暫し沈黙の後、私から用件を訪ねると…

男性は自己紹介をしてから、終戦の喜びと、民衆への感謝を多少語った。

そのとき、男性は笑顔を見せていたのだが、私には少し引き攣っているように見えた。


男性は【上条 武士】さん といい

軍人で、【彼】の所属する一師団の団長をしているらしい。

そして今日は、【彼】のことについて話に来たのだ。



一通り挨拶などが終わった後、一息おき

男性が【彼】のことを語り始めた。

【彼】は徴兵され訓練期間を終えた後、すぐに上条さんの部隊に配属されたそうだ。

上条さん曰く、【彼】はあまりにも優しい性格で軍人には向いてなかったらしい。

まぁ、その優しさに私は惚れていたのだが…とか思いながら、上条さんの話をゆっくり聞いてゆく。

【彼】は自分の国、そして仲間を誇りに思い、そして妻である私のことを、誰よりも大切に思ってくれていた。

そんな【彼】との思い出を、時折笑顔を見せながら話す上条さんを見て、私もそんな【彼】が夫であることを嬉しく思った。


しかし、そんな思い出話が進むにつれて、上条さんの声音が小さくなっていき

ついに、黙ってしまった。


私がどうしたのか訪ねても返事はこない。


沈黙の中、再び声をかけようとした瞬間、上条さんの声がそれを制した。


「【彼】は…【八潮 冬樹】隊員は、この忌々しき戦争の…最後の被害者となりました…。」


私は思わず「えっ…?」と声をあげる。

しかし、上条さんはそれ以上言葉を発しない。

発しないのではない、発せないのかもしれない。


私の思考は停止した―。

頭の中に「最後の被害者」という言葉だけが、反響している。


しばらく呆然とした後、私は我にかえった。


「被害者」とはどういう意味だろう?

そんな疑問が浮かぶ。


すかさず上条さんに問いかける


「【彼】が…【冬樹】君が最後の被害者って、どういうことですか!?」

自分でも驚くくらい声を荒げていた


「それは…」と上条さんが言葉を濁す。


何があったかはっきり言えないの?

そんなに重症なの?

でも、凱旋の時にそんな重症の人はいなかった…


「まさか…」

そう言葉にしてから確信する。

自分で認めるのが嫌で、思考から自動的に排除していたのであろう言葉が浮かぶ。

「…亡くなったのですか?」



私が言葉を放った途端上条さんが涙を流し始めた

「はい…」

短くそう言うと、嗚咽しながら言葉を続けた。


「彼は…我々と共に最終決戦を勝ち抜いたのです…。はっきり言って彼の戦果によって、この終戦はもたらされました。彼こそが、本当の立役者であり英雄です。」


「しかし、勝利後に撤収している最中、敵国の残存兵に奇襲をかけられました。もちろん逃亡を試みたのですが、既に遅かったのです。ひとまず、茂みに隠れ全員で切り抜ける方法を模索しました。」


「…ですが、どの方法も良い結果に導けるものではありませんでした。」


「我々が絶望に打ちひしがれていると、突然、八潮くんは何かを覚悟したように言いました。『自分が囮になるので皆さんはこの【戦果】と共に逃げてください』と。もちろん私は彼を止めました。しかし彼は、『ここで全滅して【戦果】を奪われたら僕たちは、国も、大切な仲間も、大切な人も、全てを失います。僕は大切なものを失うくらいなら自分を犠牲にしてでも守りたい。』そう言ったのです。」


「彼の《覚悟》を見てしまった私は、それ以上何も言えませんでした。部下を止められない隊長なんて…隊長失格ですよね。」


「彼は『最後にみんなで写真を撮りたい』と言い、私の部隊に着いてきていた戦場カメラマンに頼み、写真を撮りました。その後、彼は敵の元へ…。私たちはうまく敵の目を掻い潜り、逃げ延びました。私は彼のおかげで、今ここにいます。…これはそのときの写真です。」



私は不思議と涙を流すことなく上条さんの話を聞き、写真を受け取った。


そこには悲しそうな笑顔で写る隊員達の中に一人…

馬鹿みたいな笑顔で写る彼の姿があった。



その笑顔を見て私は吹き出してしまった。

「ふふっ…これが、《覚悟を決めた戦士》の顔なんですかね?」

写真の中の彼のような笑顔で私がそう言うと、上条さんもつられて「ふふっ」と吹き出していた。


上条さんは目の涙を拭い、身を正してから再び言った。

「…私のせいでかけがえのない者を失わせてしまいました…本当に申し訳ありません。」


これでもかというくらい頭を下げる上条さんを見て、慌てた私は

「やめてください、彼は自分の意志で《大切なもの》と《誇り》を守ったのですから…私は大丈夫です。今日はわざわざ遠いところまで伝えに来てくださって、ありがとうございました。彼のことを知れて良かったです。」


上条さんはその後も泣いたりしながら謝り続けたが、私が「本当に大丈夫だ」と言うと、少し安心したようだった。




「おっと…もうこんな時間だ、すっかり長居をしてしまい申し訳ございません。…私はそろそろ戻りますね。」


「…はい。本当にありがとうございました。」


「そうだ、彼に頼まれたものを渡します。最後の最後に彼が私に託したものです」


「…はい」

私が一言短く返し受けとると、上条さんは戸を開け「お邪魔しました」と一言言って出ていった。



私はしばらく玄関で立ち尽くしてから、居間に戻り上条さんから受け取った小さな袋の中身を取り出す。


中身は彼の使っていた携帯だった

電池パックのカバー裏に貼られた初デートの時のツーショットの写真

電源を入れてデータを見ていく

彼の発信履歴と送信履歴は私の名前で埋まっていた。

小さな笑いが込み上げる

画像データを見ると二人で撮った写真はもちろん

いつの間にか撮られていた私を盗撮した画像がたっぷり入っている


画像を一つ一つ見ていく…

一緒に海を見に行った写真

彼のバイクに私がまたがり変なポーズをしている写真

水族館に動物園…


付き合っていた頃の懐かしい写真がたくさん出てくる


ふと、一枚の写真に目が留まる

「これは…」


その写真には

漆黒のタキシードをまとった笑顔の新郎にお姫様抱っこをされ、幸せそうな顔で写る純白の花嫁が写っていた。



「ふふっ…懐かしいね。結婚式だ…。この後、冬樹くんが体勢を崩して二人して池に落っこちるんだよね…ふふふ」


そんなことをポツポツと言いながら、自分の頬に一筋の涙が流れるのが分かった。


「ふふ…ふ…うぐ…ふ…うぐぅ…うぅ…」


小さな笑い声が徐々に嗚咽に変わっていく


「うぅ…うわぁーん」

ついには子供のように泣いてしまった


「うぐ…うぅ…冬樹くんの嘘つき!ずっと一緒って言ったのに!私を一人にしないって言ったのに…」


【彼】の温もりを思い出し、涙が止まらない。



『ティロリン』


ふと、私の携帯がポップな着信音とともにメールの受信を知らせる。

彼以外に連絡をとる相手が少ない私にとっては、久しぶりの受信。


メールを開く

送信者は…彼の携帯?



内容は


『誕生日おめでとう!一緒に祝えなくてごめんね。来年こそは一緒に!』

という文章と音声ファイルが一つ。


再生してみると音痴なバースデーソングが部屋に響く


時計を確認すると午前零時


日付は十二月三日


すっかり忘れていたけど今日は私の誕生日だった



『はっぴばーすでーとぅーゆー はっぴばーすでーとぅーゆー

    はっぴばーすでーでぃあ【さくら】ぁー はっぴばーすでーとぅーゆー』



ファイルの作成日時は二週間前

彼が予め送信予約していたものだった。


彼の音痴な歌声が耳に染み渡る

「相変わらず音痴だね…」


いつの間にか涙が止まっていた…




いつもそう

私が泣いていると音符が分からないのに変なオリジナルソング作ったり、歌ったりして慰めてくれた…


音痴な彼の歌声は私にとって癒しの音色



彼の歌声を耳に

ふと、窓の外に目をやる



「雪…?」


外に出る

初雪が降っている

凍えるほどに寒いが、今は頬を撫でる北風が気持ちよく感じる。


彼の歌声が終わった携帯から最後のメッセージが響く


『誕生日おめでとう!これからもその笑顔を忘れるなよ!

                   愛してるよ、【桜】。またね!』




庭先の木に目をやると二人で植えた冬桜の蕾が私の顔と共に綻び始めていた。


初めまして、大輝と申します。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

『冬に咲く』いかがだったでしょうか?

感想をいただけたら嬉しいです!


これまで何回か自己満足で試作を書いていたんですが

今回のは多くの人に見ていただきたい!と思い

かねてよりの憧れだったweb公開をさせていただいた次第です。


以前より利用していたこのサイトで

素晴らしい作品を書いているほかの作者さんと同じ舞台に立てたことに感動しながらこの後書きを書きました。


二度目になりますが

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても感動しました(>_<) 名前を【】で表現するのが独特で、【彼】というのがとても印象に残って良かったです! 最後に「またね」というのが切なくて泣けました(ρ_;) 写真は反則で…
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