第一章1
サブタイトルですが、タイトルとか付けるの苦手で毎回用意するのが大変なので、簡略的になっています。もし必要であれば、今後付け直すかもしれませんが、いまの所このまま簡略で行こうと思います。
俺は見覚えのある場所にいた。広い室内は綺麗に磨かれた大理石によって作られ、足下は柔らかくも歩き心地の良い絨毯が敷かれている。壁には美しい装飾のされた品の良いランプ、天井には綺麗で巨大なシャンデリアが飾られ、室内を淡く照らし出している。室内の奥には入り口より数段高くなった場所があり、そこには豪華絢爛なうえ座り心地の良さそうな椅子、いわゆる玉座が設えてあった。つまりこの場所は、謁見の間というやつだ。そして、俺はその場で跪いていた。
「よくぞ戻ったぞ勇者よ! 面を上げよ」
「はっ!」
俺は玉座に座る者の声に、威勢良く声をあげて顔を上げる。視線の先には、恰幅の良い髭を蓄えた初老の男性の姿。威厳を思わせる表情と頭部を飾る冠、まさしく王といった人物である。
「うむ、魔王討伐の任ごくろう! これで世界は平和になるであろう。大儀であった!」
「ねぎらいのお言葉、ありがたく頂戴いたします」
王の言葉に畏まる俺。実際としては、俺はこの世界に無理やり呼び出され・・・もとい、どうしてもと招かれた存在であり、この世界の客人、いわゆる国賓ならぬ世界賓なわけで王といえど俺が畏まる筋合いは無いとは思うが。そこはそれ、大人な俺としては国を統べる王を立ててやるのが礼儀というものだ。日本人は礼儀を大事にするのである。
「勇者様、良くぞご無事でお戻りになられました。魔王討伐の件については、私からも感謝を述べさせていただきます。本当にありがとうございました」
「姫様からももったいなきお言葉を承り光栄です!」
王のすぐ隣には、豪華なドレスを身に纏った絶世の美少女が立ち、王に続いて俺に声をかけてくる。緩やかに波打つ美しい金の髪を持ち、整った顔立ちに海のような深い青の瞳を持ったお姿、鈴のような聞き心地の良いお声とお淑やかさを醸し出す表情と佇まい、まさしく王女様といった美少女。俺が視線を向けると、柔らかい笑みを浮かべながらも、やや頬を赤くしているように見えるのは俺の気のせいか?
「さて、今後のことであるが・・・」
そうこうするうちに謁見は進み、勇者に対しての王の長々とした賛辞も終わるころ、王はそう切り出した。今後、つまり勇者である俺に対してどうするかという話だろう。俺の予想としては、相応の褒美と貴族の位を与えたのちに、国家の守護として仕えさせ、ゆくゆくは王女と結婚、この国の王に迎えるといった流れになると思っている。なにせ、魔王を倒した勇者であり、世界を救った英雄だ。俺がいれば国は安泰、王に据えれば勇者の血が王族に加わることにもなる。正直俺としては、王などは厄介でしか無いが、美しい王女と結婚できるのなら・・・などと少々浮かれ気味か、自重自重。
「魔王も居なくなった今、勇者はお役御免となるな」
「・・・は?」
「ヒトシ・アマチの勇者の任は解き、平民として扱うこととする。今後はお主の自由にせよ。それではワシは今後の国家運営について忙しいので、これにて謁見は終了とする」
「え、いや・・・え? ちょっと! 褒美は? 貴族の位は? 自由にしろって・・・」
「褒美? 何を言っている、所詮魔王を倒すための道具でしかないお主を国民として扱ってやると申しておるのだ、それ以上の褒美などあるわけがなかろう?」
「魔王を倒すための道具って、俺は人間だぞ! お前達のために戦ったんだからな!」
「無礼者! 平民風情が王に向かってなんたる口の聞き方か!」
俺が意味がわからず呆然とする間に、王が玉座より立ち上がり謁見の間から出ようとする。それをあわてて止めようとした俺を、近衛騎士団長だという金ぴかな鎧を纏った男が叱責した。
「ええ!? 俺、勇者だよ? 魔王を倒した英雄だよ? わざわざあんたらが異世界から呼び出した異世界人なんだよ?」
「だからどうした! 貴様はすでに勇者の任を解任された、たんなる平民でしかない! これ以上の無礼を働けば即刻牢にぶち込むぞ!」
「何で俺が犯罪者扱いなんだよ!」
そう騒ぎ立てるうちにも、王はすでに謁見の間を出ていってしまい、その他の重鎮達もすでに終わったとばかりに退出し始める。
「姫様! 姫様からもなんとか言ってください!」
「・・・? お疲れ様でした、それではもうお会いする機会もありませんが、ごきげんよう」
「!!」
王と同じように退出しようとした王女にも声を掛けたが、王女はよくわからないとばかりに小首を傾げたあと、微笑を浮かべつつそう言葉にして出て行ってしまった。さっきまでの、俺を見つめる熱い視線はなんだったの!? てか、まじで勇者じゃなくなったら用済み?
「お、おい、お前らからもなんか言ってくれよ! こいつら魔王退治の苦難なんてまったくわかってないみたいで・・・」
頭の中が混乱しながらも、俺は一緒に魔王退治の旅を共にしてきた仲間に助けを求めようと振り返る。
「おつかれー、いやぁ、ようやく面倒な仕事も終わってもとの生活に戻れるわ」
「おつかれさまです、私も神官としての務めに戻れて本当に良かったですわ」
「帰りにちょっとどこか寄ってかない?」
「いいですわね、久しぶりの王都ですもの色々真新しいものがあるかもしれませんわ」
そこで見たのは、ドワーフの戦士ユーミルと僧侶のアリシアとが、仕事帰りのOLのようなことを話しながら仲良く広間から出て行く姿。お前ら、あまりにさっぱりしすぎだろ! てか、俺のことはやっぱり無視かよ!
「ふざけんなよ! こうなったら力づくでも抗議しないと・・・」
別に勇者の任を解任されたからといって、この世界に来て得た力が失われたわけではない。こうなれば、力に頼ってでも自己主張しなければ、ただの都合の良い存在で終わってしまう。現代日本人は正当な評価を求めるための主張も辞さない!
「所詮は勇者など、都合の良い道具でしかないのですよ。そして、その役割が終われば不要の長物・・・去れ、勇者よ!」
「おま・・・え!?」
そこへ、聞き覚えのある声が響く。いや忘れようにも忘れられない、それこそが一番に俺を裏切った者の声。俺はすぐさまその声のした方へと視線を向ける。そこには、あの日と同じ姿のエルフの魔法使いの姿が・・・。だが、その姿はすぐに身を包む魔方陣の光で見えなくなり、俺は眩い光に包まれた・・・。