序章5
予定より大幅に遅れての投稿、しかも終わりませんでした! もっとがんばらないといけませんね(汗)。
ミトの最後のパーツへ向かう途中、この世界(星)についてを色々聞くことにした。俺は科学文明のほとんど無い『自然文明保護区』から来たということにして、この世界の一般常識も知らないと伝えたところ、ミトは快く俺にこの世界のことを教えてくれる。
「この星の名前は『アエロイデス』と言い、通称『水の惑星』と呼ばれています。惑星の70%ほどが海で、残りは大小様々な島々で出来ており、それぞれに国が作られています。それらの国々を一つに纏めた組織『人類種統合連合』が星全体を管理しており、対外的にはこの惑星全体で一つの国という認識です。人口のほとんどはヒューマン種で占められています。一概にヒューマン種と呼んでいますが、白人・黒人・黄人など様々な人種を纏めてそう呼んでいます。ただし、エルフ・獣人などはこの中に含まれません。続きまして・・・」
ミトは嬉々として長々と説明してくれるのだが、正直全部覚えることはできないと思うので、要点だけ注意して聴いておくことにした。要するに、この星は元の世界の『地球』と似たような星で、星全体を纏める組織『人類種統合連合』を中心に一つの国となっているようだ。将来的な地球をイメージした感じだろうか。かなり科学文明が発達しており、すでに宇宙開発も積極的に行っているらしい。そして、空に浮かぶ三つの月も有人惑星であり、それぞれが一つの国となっているようだ。それぞれの国の名(=星の名)は、緑色の星が『緑の惑星スマラグドゥス』、赤い星は『鉱石の惑星カリュプス』、一際大きい白い星が『人口惑星アダマース』、そして今俺がいる星が『水の惑星アエロイデス』となる。元々スマラグドゥスに住んでいた人類は、カリュプスとアエロイデスに移民することになり、その中継地点として人口惑星を作ったそうだ。そしてそれぞれの星は三つの国に分かれ、人口惑星は三国から中立の立場を取るようになり、いまの状況になったらしい。ちなみに、アダマースが一番大きく見えるのは単純に近いからであり、本来の大きさでは一番小さいそうだ。
「現在ではこれら四国は不可侵条約を結び、争いごとは起きていません。しかしながら、いまだ確執は残っており、宇宙開発においていまだ小競り合いなどが行われている地域もあるようです」
「なるほどな、それでそれぞれの星には行くことはできるのか?」
「中立であるアダマースと、同じ人類国家であるカリュプスとは国交があるのですが、スマラグドゥスだけは他国民の入国を厳しく制限しているようです」
スマラグドゥス・・・たしかエルフが統治している星だって言ってたか。まぁ、今のところは関係無いか。まずは生活基盤を築くことを考えないとな。
「お、夜が明けてきたみたいだな」
その後も少しずつこの世界の常識についての話を聞きながら、ガラクタの山を乗り越えていると、空が白み始めてきた。位置はわかっていたとはいえ、かなり広いこのガラクタ置き場を歩き回っていて結構な時間が立っていたらしい。
「夜が明ける? ・・・いけません!」
「なんだ、どうした?」
「申し訳ありません! ついつい話すのが楽しくて、お伝えすることの優先順位を間違えてしまいました!」
俺の言葉に空を見上げたミトは、なにやら焦った様子で謝ってきた。いったい何のことかわからないが、なんとなく嫌な予感がしてきたぞ。と、思うと同時に足元から小さな揺れを感じ始める。
「実はこのゴミ集積所がある場所は、ジャイアントワームの巣でして。日の昇る頃から、彼らが活動し始めるのです!」
「・・・ジャイアントワーム?」
「はい、ジャイアントワームとは全長100メートル以上ある環形動物で、主に土の中に生息しています。身体は環状の体節が直列に並んだ構造をしており、蠕動運動にて前にすす・・・」
「いや、ジャイアントワームがどんな物かについての説明はその辺でいいから、なんでそんなのがここにいるんだ!?」
つまり巨大ミミズってことだろう!? なんか想像していたSF世界とちょっと違ってきたぞ? いや、未開の星の危険な原生生物っていうネタもお約束の一つなのか!? そんなことを考えてるうちにも足元の揺れが強くなってきた・・・不味い事になってきてるんじゃないだろうか?
「ジャイアントワームの体液は強力な消化効果を持っており、ありとあらゆるものを体内に入れて消化し、それらはやがて土へと還ります。そのため・・・」
「巣にゴミを放置しておけば、勝手に処理してくれるってわけか」
「はい」
ようは生ゴミをミミズを使って土に還すリサイクルみたいなものか。科学技術が発達してるわりに、アバウトなやり方だなオイ!
「それで、この足元の揺れはやっぱりそいつのせいってわけか?」
「そうですね、すでに活動時間に入っているようです」
「対処法は?」
「巻き込まれないことを祈るしかありませんね」
「そういうことはもっと早く言えよ!」
「申し訳ありません~~~~!!」
こんなことなら、悠長に話なんて聞いてないで、さっさとパーツを回収しに向かうべきだった! 俺は、急いで最後の反応へと駆け出し始める。だが、そいつはそれを待ってはくれずその姿を現したのだった・・・。
ドゴーーーーーン!!
火薬によって地面が爆発されたかのような爆音、巻き上がった砂埃の向こう側から、突如地面から生えてきた巨大な塔のようにそれは現れた。やがてそれは、ウネウネと胴体部をくねらせて、ゆっくりと再び地中の中へと消えていく。
「マジか・・・」
「あれがジャイアントワームですね~」
「いや、そんな暢気に頷かれても・・・」
全長100メートルの巨大ミミズは、予想以上に大迫力だった。かなり離れている所から見た今のでさえ、その脅威は一目でわかるというものだ。あんなモノに飲み込まれれば、人間などひとたまりも無いだろう。
「走るぞ! しっかり掴まってろ!」
「は、はい!」
俺はすぐさま走り出した。幸いだったのは、ワームの出現位置が俺達の進行方向とは逆だったことだろう。魔力で身体能力を強化し、ガラクタの山を跳ねるように飛び越えつつ、俺は目的の場所へと向かう。だが、嫌な予感がどうにもしてならない。
「この手の予感って妙に当たるんだよな・・・」
「地面下に熱源反応! こちらに向かってきています!」
「やっぱりな!!」
どういうわけか、勇者になってから俺の嫌な予感というのは良く当たるようになった。これも勇者の恩恵の危険感知能力なのか、とも思うがあまり嬉しいものじゃないな。ミトは胴体を得てサーチ範囲が広がったらしく、地面から迫るワームの位置を把握しているようだ。おかげで真下から突然襲われるという最悪の事態は避けられそうで助かる。とはいえ、俺がガラクタの上を走る速度よりワームが地面を突き進むほうが早いようだ。このままでは、いずれ追いつかれることになるだろう。
「てか、ヤツはなんで俺達に向かってきてるんだ?」
アレほど巨大なモノにとって、俺達など蟻一匹ほどにも気に掛かる存在ではないはずだが、時折方向を変えて走っているにも拘らず真っ直ぐに俺達に向かってきている。明らかに俺達を狙っている様子に、疑問が口から出た。
「それはおそらく・・・私が居るからと思われます」
「なんだって?」
「アンドロイドが動くためのエネルギーを生む機関、通称『エネルギーコア』をどういうわけかジャイアントワームが好む傾向にあるようです。であるため、あのワームが狙っているのは私だと予想されます」
「・・・」
つまり、この状況を何とかするには・・・。
「私を置いていってください」
「おい・・・」
「そうすれば、ワームに狙われる心配は無くなり、無事にこの場所から出ることができるはずです」
「それでお前はどうなる?」
「私はアンドロイドですから、機械に生死の概念はありません。元々、捨てられた存在ですし、この場所にある捨てられた彼らと同じですから」
「あと少しだろうが! もう少しで身体が全部揃って、元に戻れるだろ! 諦めるのかよ!」
「自分ために貴方様を危険に晒すことは、人間のために作られたアンドロイドとして許されないことです。ここまで手伝ってくださったのに、申し訳ありませんが・・・」
「・・・」
「っ! 足下に熱源反応が近づいてます! 早く私を置いて逃げてください!」
地の底から響いてくる激しい振動に、俺は渾身の力を込めて前へと飛び退る。もちろん、ミトを抱えたままだ!
「くっ!!」
その直後、先ほどまで立っていた場所が爆発し、巨大ワームが姿を現す。粉塵と弾かれたガラクタが爆風に乗って襲ってくるのに、思わず頭を腕で庇い声を漏らしてしまう。そして天高くそそり立ったそれは、やがて鎌首をもたげてこちらに頭部を向けた。その頭部はポッカリと開いた口だけがあり、大型トラックすら軽く一飲みにできそうだ。
「いけません! このまま私と居ては、巻き込まれてしまいます!」
「嫌だね! ここでお前を見捨てたら、俺はあいつと同じになってしまう!」
そうだ、こんなところでミトを見捨てて逃げ出したら、俺を裏切ったあいつと同じ裏切り者になってしまう! そんなのは絶対に嫌だ!
「危ない!」
ワームが凶悪な質量で俺達を飲み込もうと向かってくる。俺はそれをガラクタの山を飛び跳ねながら避けるが、ワームはお構いなしにそのガラクタの山を飲み込みながら、俺達を追いかけてきた。速度的にはさほど差は無いが、あらゆる物を飲み込み無視して突っ込んでくるワームのほうが有利であると思わざる得ない。正直、このまま逃げ切れる自信は無い・・・。
「しかたないな、やるしかないか」
「・・・?」
俺の呟きに、不思議そうに首をかしげるミト。俺はそれに答えず、ワームが地中に潜ったタイミングを見計らって、ミトを地面に降ろした。
「あ、はい、私は大丈夫なので置いていってください。今までありがとうござ・・・」
「勘違いするなよ。俺は、お前を置いてく気なんてさらさら無い」
「え、でも?」
「ちなみに、お前の『エネルギーコア』だっけ? それはどこにあるんだ?」
「それは、左胸の奥、いわゆる人間の心臓と同じ場所にありますが?」
「じゃあ、それを一時的に無くしたとして、お前が動かなくなることは?」
「短時間であれば、『エネルギーコア』が無くても大丈夫ですが、現状1時間ほどで起動停止になると思われます」
「1時間か、十分だな。じゃあ最後に質問、『エネルギーコア』を抜き取られても元に戻せば修理は可能か?」
「損傷具合にもよりますが、修理は可能です。ですがいったいなに・・・を!?」
だったらやるしかないわな。俺は一つ決心して、自分の手をミトの左胸に当てる。けして、やましい気があるわけではない。抜き手の状態で添えた手を、一気にミトの左胸に突きこみ内部へと差し込むと、人の心臓の場所にあるソレを掴みこんで引き抜く。狙った通り、俺の手の中には一つの塊、金属とも宝石ともわからない淡く光る不思議な塊が握られていた。これが『エネルギーコア』というものなのだろう。
「ちょっとコイツを借りてくぞ!」
「ま・・・まって・・・くださ・・・い・・・」
ミトの挙動がやや怪しいが、今はそれを気にしている余裕は無い。修理できるという言葉を信じて、俺は俺のできることをする。
「さぁ! こいつが欲しいんだろ! だったら俺についてこい!」
俺は『エネルギーコア』を持ったままその場を急いで飛び退いて、ミトから距離を空けるように走り出した。すると狙い通り、ワームは明らかに俺を追いかけてミトから離れる。
「ちゃんと残っててくれよ・・・オープンボックス!」
幾度と無くワームの突進を避け、ある程度距離を稼いだあと、俺は前の世界で使っていた道具が仕舞ってあるはずの亜空間を開いた。そして、詳しく中身を確認する暇も無く、亜空間に手を突っ込むと今必要な物を取り出す。そして替わりに『エネルギーコア』を仕舞っておいた。
「良かった、ちゃんと残っててくれたな。これを握るのも久しぶりか」
そこから取り出したのは、一本の刀。刀身が150cmを越え、柄も含めれば2メートル近い野太刀とも言える物で。前の世界にて、俺がわがままを言ってドワーフの鍛冶師に打ってもらった刀のうちの一つである。魔王を倒すための聖剣を手に入れる前までは、俺のメインウェポンとして使ってきたものだ。ちなみに、聖剣はこの世界に来る直前に手放してしまって、こちらの世界には持ってこれなかったようだ。
「悪いが巨大モンスターと戦うのは、これが初めてじゃないんだよ!」
勇者の旅の中では、巨大なドラゴンを退治したこともある。ただの巨大なミミズにビビってなどいられないな! 俺は太刀を中段に構え、一瞬だけ目を瞑り気を落ち着かせる。そして、自分の魔力を太刀に籠めるように念じ、目を開けた。太刀からは、俺の魔力がオーラのように立ち昇り、淡い光を放って揺らめいている。それを確認した俺は、太刀を大上段に振りかざし、俺を追ってきた巨大な怪物に視線を向けた。どうやらワームは、自分が追っていたものが突然消えたことに戸惑っていたようだが、すぐに標的を俺に戻し大口を開けて突っ込んでくる。いま地中に潜られていないのは好都合だ。
「この世界でこの力がどれほど異端かはわからないが、俺は守りたいモノのためにこの力を振るう! ハァァ!」
気合と共に、俺は振りかざした太刀を一気に振り下ろす。2メートルの野太刀とはいえ、大型トラックよりもデカイものには効き目は薄い。だが、魔力を籠められた太刀からは、眩いばかりの光が放たれ、その光が帯のように天と地の間に伸びていく。やがて光の奔流となったそれは、巨大ワームを真っ二つに断ち切った。
「鎧袖一触とはこのことか・・・なんてな」
巨大な質量が地面に倒れる音を立てて、ワームが動かなくなるのを確認した俺は、余裕の呟きを漏らしつつも小さく息を吐いた。実際のところ、この技が通じなかった可能性もあったので、けっこうドキドキしてたのは内緒だ。
「さてと、あいつのところに戻るかな」
俺は持っていた太刀を亜空間に戻し、『エネルギーコア』を取り出すと、ワームの成れの果てを横目にミトの場所へと戻るのだった。途中、数百メートルまで続いている地面の断層があったが、気にしないことにする。
次で本当に序章最後のエピローグになります。