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異世界から戻ってみれば異世界!?  作者: 緑野
序章 異世界から戻ってみれば異世界!?
2/17

序章1

「う・・・ここは・・・?」

 浅い眠りから覚めたように朦朧とした意識が徐々にはっきりしていく。どうやら俺は、固い地面の上にうつ伏せに倒れているようだ。初めて異世界に呼び出されたときも、こんな感じだったな・・・。

「戻って・・・きたのか?」

 ダルい身体をゆっくりと起こし、辺りを見回してみる。どうやら今は夜のようで、周囲は薄暗くて良くは見えないが、月明かりのおかげかうっすらとシルエットを見ることはできた。

「冷蔵庫? テレビ? あ、あれは電子レンジかな? は、はは・・・ずいぶんと懐かしい気がするな・・・」

 周りにあるものは、自然に生えた木々ではなく、明らかに人工物と思われる物体。打ち捨てられ山のように積み上げられたガラクタの数々。俺のいた元の世界では当たり前にあって、そして中世ファンタジーのようなあの異世界には存在しない・・・壊れた電化製品というガラクタ。

「戻ってきた・・・戻ってきたんだ・・・。俺は元の世界に・・・戻ってきた!」

 誰に聞かせるでもなく自分に言い聞かせるように一人呟き続ける。そうだ、戻ってきたんだ、『このガラクタは異世界には存在しない』のだから俺は戻ってきたに違いない!

 ここが元の世界のどこなのかはわからない。あたり一面に広がるゴミの山から、ゴミ集積所の埋立地のように見えるが、ここが日本であるとは限らない。だがしかし、ここがどこの国であろうと、元の世界に戻れたのならきっと日本に、俺が住んでいた街に戻れるはずなんだ!

「ははは・・・戻ってきた・・・」

 そうだ、戻ってきた! あの魔法使いが使っていたのは、俺が異世界へと召喚されたときと同じ魔法だ! 異世界から送還されたのならここは元の世界なんだ!

「そうだ、戻ってきた・・・戻ってきたはずなのに・・・、なんで・・・。なんで、月が三つもあるんだよ・・・!!」

 今まで目を背けていた空に視線を向ければ、そこにはやたら大きな赤い月と緑の月、そして白い月の三つの月が浮かんでいた。俺の元居た世界の月は一つだ、だったら『この三つの月は元の世界には存在しない』ってことになる。だったらここはどこだ!? 電化製品があるんだから前の異世界ではない。三つの月があるから元の世界でもない。ならここは・・・?

「別の異世界ってことなのか・・・」

 『このガラクタは異世界には存在しない』? 誰がそんなこと決めたよ。『異世界から飛ばされたら元の世界』? 世界が『あの世界』と『元の世界』しか無いなんて誰が言った! 信じたく無い、認めたくない!! ようやく異世界の魔王を倒したと思ったら、仲間に裏切られて異世界から送還され。元居た世界に戻ってこれたと思ったら、・・・そこは別の異世界。そんな理不尽なことってあるのか!? 無理やり召喚されたのに勇者として戦ったんだぞ!! 世界を救った英雄のはずだ!! それが賞賛されることもなく、利用されるだけされて捨てられて、捨てられた先はどことも知れない異世界だなんて!!! 俺がいったい何をしたって言うんだ!!?

「うぁああああああ!!」

 頭の中で渦巻く怒りや悲しみ、その他わけのわからない激しい感情が、叫びとなって口から吐き出される。俺はただただ三つの月が浮かぶ空へと向かって、意味の無い叫びを張り上げるのだった。


「これから先どうしたらいいんだ・・・」

 しばらくして、ようやく落ち着いてきた俺だが、正直色々と絶望して冷静に物事を考えることはできない。

「復讐か・・・?」

 いや、無理だ。裏切られたことを復讐しようにも、相手は別世界に居るわけだし手段がある訳が無い。そもそも、そんなものがあるなら俺は元の世界へと戻ることを求める。

「くそ、誰も助けてくれないのかよ!」

 前の異世界のときは、俺を呼び出したという者達が色々便宜を図ってくれたおかげで、異世界生活にはさほど困らなかった。まぁ、無理やり呼び出したんだし、それぐらいしてもらわないと、とは思うが。しかし、今回は周りに誰もいない。あるのはガラクタばかりで、人の気配どころか生き物がいる様子も無かった。完全に一人ぼっち、ここがどんな場所でどうやって生活すればいいか知るすべは無い。

「自分で何とかするしかないか・・・」

 前の世界では勇者の力や仲間がいたとはいえ、一年近くを魔王退治の旅という冒険生活を送ってきたのだ。生きていくだけなら何とかできる自信はある。ここがどんな世界なのかはわからないが、明らかに人工物であるガラクタが山のように積んであるのだ、人がいることは間違いないだろうし、人が生きていけるだけの相応の文明も発達しているはずだ。

「よし、とりあえず人が居る場所を探そう・・・」

「あの~・・・」

「あ、そのまえに、勇者の力がどうなったのか確認しておいたほうがいいか?」

「もしもし~、聞こえていますか~?」

「魔王を倒したときの装備品は無くなってないし、魔法と亜空間の道具がどうなっているか・・・」

「も~しも~し! お願いですから返事してください~!」

「あー! いま考え中なのに誰だよ! って、人の声!?」

 これからのことを考えていると、ふと誰かの声が聞こえてくる。気配を感じなかったから、俺一人だと思っていたのだが、慌てて周囲を見渡す。

「なんだ? やっぱり誰も居ない?」

「あ、気づいてくれましたか! 貴方は人間様ですよね?」

「っ!? 様つけるような立派なものじゃないけど、人間だよ・・・。それより、あんたはどこに居るんだ、姿を見せてくれないか?」

 薄暗いガラクタの山の中で、若い女性の声が響く。俺は声のするほうをしきりに見つめてみるが、人影などを見つけることはできず、とりあえず声を掛けてみることにした。

「え~と、それなんですが・・・。ちょっと、いま動くことができなくて・・・。それで、貴方様に助けて貰いたいのですが」

「動くことができない? もしかして、ガラクタに埋もれているのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが」

 この声の女はいったいなんだというのだろうか。ガラクタに埋もれているのなら、すぐに助け出さないといけないだろうが、暢気な声の雰囲気ではそういうわけでもないようだ。とりあえず俺は、声のするほうへと近づきつつ前の世界で持っていた力を試してみることにする。

「月明かりだけじゃさすがに暗いしな、まだ使えるといいんだが・・・『ライト』」

 前の世界ではごく普通に使えていた力の一つ『魔法』。俺の意思ある言葉に呼応し、手のひらから野球のボール程度の発光する球体が生み出された。球体は俺の意思で自在に動き、周囲一帯を明るく照らし出す。どうやら魔法は使えるようだ、これで随分とこの世界で生きていくのが楽になるだろう。

「おお!? 自立浮遊型の照明球とは、随分と最新型をお持ちなんですね!」

「最新型? よくわからないが、とりあえずこれでどこにいるかわかるは・・・ず?」

 驚いたというよりは、感心したといった感じの声に、魔法は特に珍しいものではないのかと思いつつ。俺は声の主を探そうと明るくなった周囲を見渡して・・・絶句する。

「見つけてくださってありがとうございます、わたしは・・・」

 積み重なったガラクタの上にちょこんと乗っかっていたそれ。楕円形のボールのような輪郭のそれは、横に倒れたままの状態でニッコリと微笑を浮かべる。

「な、生首だと・・・!?」

 そう、そこにはニッコリと微笑む若い女の頭部だけがあったのだった。

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