第一章7
誤字修正 飛行車→飛空車
「なるほどね、それであなたは森を出てきて、そこのアンドロイド・・・ミトちゃんだっけ、を見つけたわけだ」
「ああ、あとはミトの案内でこの都市に着いて、こうやって登録の手続きをしてるわけだな」
それから数十分ほど、有ること無いことでっち上げてここまで来る経緯を話した俺に、受付の女性は呆れた様子で俺を見つつも頷く。
「わかったわ、サクセサーがアンドロイド持ちとか普通ならありえないけど、そういうことなら別におかしなところも無いかな。まぁ、たまたまガラクタ置き場でアンドロイドを見つけるとか、運よくジャイアントワームに襲われなかったとか、ちょっと信じがたいことだけどね」
「信じる信じないはそっちの勝手だけど、俺としてはID登録されないと困るな」
ミトと出合ったあたりのくだりぐらいしか本当じゃないからな。とはいえ、本当のことを言っても信じてもらえないだろうし、余計面倒なことになりかねないからしかたない。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。その歳で未登録っていうのは、この文明社会ではサクセサー以外ありえないし。問題があるような人物が、のこのこと役所にやってくるわけないしね」
「じゃあ、なんでわざわざ話させたんだよ」
「だから私が聞きたいだけって言ったじゃない。サクセサーの生活とかちょっと気になってたしね。ここは保護区と隣接してる都市だから、サクセサーと関わることもあるんだけど、それでも年に数人ほどだからね」
「ああ、そうかい」
「それにしても、アンドロイドまで捨ててあるなんて、やっぱりあのガラクタ置き場は問題よね。行政がなんとかしなくちゃいけないんだけど・・・」
「問題?」
「そ、あそこは不法投棄・・・って言ってもわからないかな。まぁ、本来捨てちゃいけない場所にゴミを捨ててるのよ」
門の守衛も似たようなこと言ってたが、やっぱりあそこは違法なゴミ捨て場だったのか。ミトもそのことは知らなかったのか、少し驚いたように目を丸くしている。
「そうなのか? けど、ジャイアントワームがゴミを処理してくれるんだろ? 何が問題なんだ?」
「捨てる側の言い分としてはそうなんでしょうけどね。ぶっちゃけ、あなたみたいな人が出てくるから問題なのよ」
「う、捨ててあるものを拾って使うのは悪かったのか?」
「んー、正規のゴミ捨て場に捨ててあるものを拾って使うのは違法よ? 逆に違法に捨ててあるものを拾うのは、特に咎められることは無いわね。私が言ってる問題っていうのは、あのゴミ捨て場が保護区の近くだっていうことなの」
「あ、なるほど、本来科学文明の持ち込みができない保護区の近くに、捨ててあるとはいえ科学文明の産物が置いてあるのは、色々問題ってことか」
「そういうこと、何かの拍子に保護区にそれらの科学製品が持ち込まれれば、面倒なことになりかねないのよ」
「じゃあ、なんで厳しく取り締まらないんだ?」
「まぁ、お金の問題でしょうね。それにあそこはジャイアントワームの巣だから、よほどのバカじゃない限り近づくなんてことはないって思われてるし」
「・・・それは俺がよほどのバカってことか?」
「世間知らずであることは間違いないでしょうね。一応このことは報告しておくから、それがきっかけで行政が動くかもしれないわね」
「世間知らずで悪かったな」
「っと、そろそろできたみたいだから準備するわね。ちょっと待ってて」
「ん、わかった」
そう言って彼女は立ち上がり、どこかへ行ってしまった。まったく、あまり堅苦しいのも困るが、こうフレンドリーすぎるのもどうかと思うぞ。
「あの、ヒトシ様、指のお怪我のほうは大丈夫ですか?」
「ん? ああ、ほらもう血も止まってなんとも無いぞ」
俺達が話している間、後ろで控えていたミトが先ほど血が出ていた指を心配したように声を掛けてきた。だが、あの程度の傷なんて常人でさえすぐに治ってしまううえ、俺の勇者の特性として自然治癒が高くなっているから、本当にあっという間に直って今では痛みも何も無い。
「そうですか、よかったです~」
その様子を見たミトは、ホッとしたような表情を浮かべるが、どことなく残念そうでもある。そんなに俺の指を舐めたかったのか!? もしかして、変な性癖持ってる? って、アンドロイドだしそれはさすがに無いか。
「あんまり過敏に反応しなくても大丈夫だぞ? 俺は人より頑丈にできてるしな」
「あ、す、すいません・・・」
「別に責めてるわけじゃない。心配してくれるのは嬉しいけれど、あんまり過保護になられても困るってだけだよ」
「は、はい! わかりました!」
俺の言葉にショボンと肩を落とすミトに、俺は少しかわいそうになってポンポンと頭を撫でる。それで機嫌が直ったのか、ミトは嬉しそうな笑みを返してきた。
「はぁ、随分人間っぽいアンドロイドね。というか、あなたの扱い方も完全に人間と一緒よねそれ」
「うお、戻ってたのか!?」
「人間っぽくても、その子はあくまでアンドロイドなんだから、ほどほどにしておきなさいよ。でないと、変な目で見られることになるわよ。それでなくても、サクセサーとか珍しいのに」
またそれか、まぁ今回は変な誤解されているわけではないだろうけど、やっぱりこの世界ではアンドロイドを人のように扱うのはおかしいらしい。
「なぁ、なんでここの奴らはそんなにアンドロイドを差別したがるんだ? 俺には人間もアンドロイドも一緒に見えるんだが」
「差別? アンドロイドはアンドロイドでしょ? あくまで人間のために作られた機械なんだから、機械らしく扱うのが普通なのよ。アンドロイドに人権を、なんていう変な団体もあるにはあるけど、関わらないほうがいいわよ」
「そうかい」
機械・・・ね、俺にはどうしてもそういう風には見えないんだけどな。まぁ、俺がアンドロイドをどう扱おうが、俺の自由ってことにさせてもらおう。
「それで、これがあなたのデータを入力したナノマシンの入った機械ね。利き手とは逆の手をここに入れれば、自動的にナノマシンを注入してくれるわ」
「ちゅ、注入するのか?」
改めて考えて、わけのわからないものを身体に入れるのは、なんとも嫌なものがあるな。受付嬢の持ってきた穴の開いた機械を見て、俺は引きつった笑みを浮かべる。
「なにビビッてるのよ、男でしょ。大丈夫、別に痛くないし危険なことは無いわよ。まぁ、最初はちょっと違和感を感じるかもしれないけど、すぐに慣れて気にならなくなるし。どのみちこれをしないと、この文明社会じゃ生きていけないんだから早くしなさい」
「わ、わかったよ」
俺は恐る恐る機械の穴に左手を入れる。学生時代に旅行で行った、ローマの真実の口に手を入れるときのような、大丈夫だとわかっているが不安という気持ちをわかってくれるだろうか。
「っ!」
機械に手を入れると、固定するように金具が手を押さえつける。もちろん、痛みなどはないのだが、どうにも心臓に悪い。そして、プシューと空気が抜ける音と共に、左手に何かが注入されていく感じがして。やがて、手を押さえていた金具が外れた。すこしムズムズとするが、見た目には変化が無く痛いとか気持ち悪いといった感覚は無いな。
「はい、これでオッケーね。ふふ、さっきのあなたの表情・・・」
「う、うるさいな。それでこれをどうすればいいんだ?」
ホッとしながら機械から手を抜き出すと、受付嬢は面白そうに笑みを零す。そこは思ってても、表情には出さないものだろ!
「はいはい、左手を意識しながらアクセスって頭の中で唱えてみて。慣れないうちは、口に出して言ってみるといいわよ」
「はぁ・・・それじゃやってみるか。・・・アクセス」
睨み付けてもニヤニヤとした笑みを浮かべたままの受付嬢に小さくため息をつき、俺は言われたとおり左手を意識しながらアクセスと唱えてみる。すると、何も無かったはずの左手の甲に徐々に紋様のようなものが浮き出てきた。それは二重の円の間に謎の幾何学模様のようなものが描かれ、円の内部には漢字で・・・。
「なんでそこで『勇』なんだよ!」
そう、漢字で『勇』の文字が描かれていた。せっかく魔方陣っぽい見た目だったのに、色々台無しだよ!
「へぇ、なかなかに面白い形ね。その真ん中のは絵? 文字? どっちにしてもクールじゃない」
「え・・・?」
しかし、俺の紋様を見た受付嬢は、なにやら感心した表情で頷いている。クール? いや、漢字だよ? しかも勇者の『勇』だよ?
「あ、そうか・・・」
「・・・?」
そういえば、外国人からすると漢字とかは意味がわからないけど、形がかっこいいとか言われることがあるって、現代日本に居た頃に聞いたことがあるな。おそらくこの世界でも、漢字の意味はわからなくても、見た目がかっこいいとか思われるのかもしれない。しかし、漢字に馴染み深い俺としてはなんとも微妙な気持ちになるのはしかたないだろ。
「ほら、私のシンボルはこんな感じよ」
落ち込む俺を無視して、受付嬢は文様の浮き出た自分の右手を見せる。へぇ、彼女は左利きなのか。いや、そうじゃなくて、彼女の紋様は菱形にいくつもの線が重なって、雪の結晶のような綺麗な形だった。
「へぇ、綺麗だな。人によって随分と形が変わるものなんだな」
「指紋などと一緒で、同じ形は二人と無いって話だわ」
「これって、自分の意思で決められるの?」
「それは無理だそうよ。どうやって決まってるのかは、私も詳しくは知らないんだけどね」
「それは残念」
「いいじゃない、それも悪く無いわよ」
「・・・」
勇者印とか勘弁してくれ。
「それで、その状態からステータスって念じてみて。そうすれば、登録されたあなたの情報が表示されるわよ」
「なるほど、ステータス・・・おお!?」
俺が言葉と共に念じると、紋様の浮き出た真上あたりに、半透明のモニターのようなものが現れ、そこに色々なデータが表示される。
名前:ヒトシ・アマチ
性別:男
年齢:25歳
生年月日:未登録
出身地:トランクィッルスの森(自然文化保護区)
国籍:アエロイデス
職業:未登録
所持金:0ペク
etc・・・
モニターはどこから見ても真正面に見え、意識してみると拡大縮小も可能のようだ。所持金なんて欄もあるが、ペクというのはお金の単位だろう。
「消すときは、消えろって念じればオッケーよ」
「これは他人も見ることができるのか?」
「意識すれば見せることもできるわよ。もちろん、見せたくないデータは見せないようにすることも可能。ほら、こんな感じ」
そう言って、受付嬢は自分の右手に出たモニターを俺に見せてくる。
名前:フェーレ・コンシリア
年齢:23歳
出身地:プリンキピウム
国籍:アエロイデス
職業:公務員
なるほど、たしかに自分のデータと比べて表示されている欄が少ないな。まぁ、所持金とか見せるわけにもいかないから、当然といえば当然か。
「フェーレ・コンシリア、23歳か・・・」
「あ! ちょっと、人の年齢とか見ないでよ!」
「見せたのはお前だろ」
「う、でもわざわざ口に出すこと無いでしょ!」
「別に年齢ぐらいいいだろ」
スリーサイズ見たわけじゃないし、とは口にしないでおく。いや、知りたいわけじゃないぞ。
「女の子は年齢を気にするのよ!」
「女の子って歳か!」
「あんた・・・言っちゃならないことを言っちゃったようね・・・」
やべ、ついつい売り言葉に買い言葉(?)で余計なことを言ってしまったようだ。呼び方が「あなた」から「あんた」に変わってる・・・。
「サクセサーの初登録時には、援助金が支給されるんだけど、どうやら必要無さそうね」
「ちょ! 金が無かったら何にもできないだろうが! いくらなんでも横暴だぞ!」
「あら? お金については知識があるんだ。まぁ、それはともかく、たしかにこっちの社会ではお金が無いと何もできないわねぇ・・・」
「す、すいませんでした・・・あなたは若くて美しい女の子です」
抗議しても、ニヤニヤと笑みを浮かべながら撤回しない様子に、俺はさすがに折れて謝った。いや、お金は大事ですよ?
「わ、わかればいいのよ・・・。それじゃ、援助金を渡すからそのまま左手を出しててね」
俺が付け加えた言葉に受付嬢は顔を少し赤らめつつ、コンビニのバーコード読み取り機のようなものを俺の左手に当てる。
「もう一度ステータスを確認してみて、所持金の欄が増えてるはずよ」
所持金:100,000ペク
たしかに所持金が0ペクから100,000ペクに変わっている。この世界の物価がわからないので、多いのか少ないのかわからないが、とりあえずお金が手に入ったのは間違いないだろう。
「それで、普通に生活しても一ヶ月は暮らせるはずよ。まぁ実際は、衣服やらなんやらと買うことになるだろうから、それなりに切り詰めて生活することになるでしょうけどね」
「ふーん、とりあえずその一ヶ月のうちに、お金を稼ぐ方法を見つけろってことか」
「そういうことになるかしらね。まぁ、一応その後も生活保護を受ければ、なんとか生活できるだけのお金が支給されるけど、色々と不自由になるわね。アンドロイドの所有もできなくなるし」
「生活保護・・・ね。アンドロイドの所有ができなくなるのはなんでだ?」
「まぁ、知らなかったとは思うけど、アンドロイドって普通は高価な品なのよ。一般家庭じゃ、なかなか持ってるとこは少ないわね。具体的だと高級飛空車二台分ぐらい?」
「マジか・・・なんでそんなものがゴミ捨て場に」
実際にその高級飛空車がどれくらいの値段なのかは知らないが、現代地球の常識から考えると相当な金持ちじゃないと無理ってことになる。まぁ、なんでもやってくれるボディーガードや秘書、家政婦さんを雇うようなもんだしな。
「よほどお金に困ってない人が捨てたんでしょうね。それか、逆に処分代にも困ったのかな」
「なるほど・・・な」
車やパソコンだって処分するには金が掛かるんだし、アンドロイドとなると色々処分にもお金が掛かるんだろう。処分しようという考え自体が信じられないが。
「そんなわけで、生活保護を受けるなら、そんな高級品の所有はできなくなるわけ。他にも別の都市への移動も制限されるし、場合によっては強制労働なんかも課せられるから、安易に生活保護を受けようとか思わないほうがいいわよ」
「ん、わかった」
現代日本の生活保護みたいに、やろうと思えば遊んで暮らせるような雑な内容では無いということだな。
「ついでにそのアンドロイドの所有者登録もしておくわね」
「所有者登録? 一応ミトと会ったときに、登録みたいなのはしたが」
「それはアンドロイドとの登録でしょ? それとは別に、アンドロイドを管理している場所にも登録を申請しないといけないのよ」
「なるほど、それでそれはここでできるのか?」
「ええ、本来は別の窓口の仕事だけど、ついでだしここでやっちゃうわね?」
「そういうことなら頼む」
「それじゃ、左手出して。そこのアンドロイドも、こっちにデータ送ってね」
「はい、わかりました~」
受付嬢は俺とミトのデータを読み取ると、手元のタッチパネルを操作する。
「ん、どうやらちゃんとアンドロイドの前の所有者の登録は抹消されてるようね」
「されてない場合はどうなるんだ?」
「あんたの所有が認められない、場合によっては盗難扱いになってたかもしれない」
「げ・・・」
「まぁ、逆に前の登録者は不法投棄の容疑が掛かるけどね。さすがにそんな間抜けじゃなかったようね。っと、はい、これで登録は完了。公的にもそのアンドロイドは、あんたの所有物になったわ」
「そうか、良かったよ」
いまさら、ミトを手放すことになったら色々困るしな・・・。
「さて一応、うちでも仕事の紹介とかはしてるから、明日辺りまた来なさい。正直、サクセサー向けのいい仕事は無いんだけど・・・」
「そうか、まぁ手探りで仕事探すよりよほど助かるし、お願いするよ。でもなんで明日? 今日じゃまずいのか?」
「だってほら」
そう言って彼女は隣の窓口を見るようにと視線を向ける。それに従い隣を見てみると、窓口終了のお知らせがモニターに表示され、受付の人が席を立っていく様子が見て取れた。
「ご覧の通り、終業時間なのよね。そんなわけで、今日はこれでお終い! また明日来てね」
「わかった、それじゃ・・・」
「あの、申し訳ありませんが、少しだけよろしいでしょうか?」
彼女の言葉に、俺も頷いて席を立とうとした。そこへ、ミトが声を掛けてきた。
「ん? 少しだけなら、別にいいけど」
「これ、ここに来る前に狩った危険生物のDリソースですが、これを換金していただけませんか?」
「Dリソース? んー、本来うちの窓口の仕事じゃないけど、もう閉まってるし。しかたないから、やってあげるわよ」
ミトがなにやら左手を差し出してそう言うと、受付嬢は少し苦笑を浮かべつつも、バーコード読み取り機をミトの手に当てた。そして、再びタッチパネルのようなものを触っている。
「うそ、アーマードウルフ10匹にバードトレイター3匹、ヘレティックモンキーまであるじゃない。その他にも色々とまぁ・・・。これ、このアンドロイドだけで狩ったの?」
何かを確認して驚いたように声をあげる受付嬢。どうやら、ここに来る途中で襲ってきた危険生物のことらしい。
「ああ? 最初は俺が狩ってたけど、ミトに任せたりもしたなぁ」
「つまり、あんたとアンドロイドで狩ったってことよね。それにしても、一人と一体でこれだけの量を狩るとか、思ったよりもあんたって強いのね」
「そうなのか? 他の奴らがどれほどか知らないけど」
「普通、これだけの数を狩るなら、熟練ハンター5人は必要なんじゃないかしら? ともかく、これのDリソースを換金すればいいのね? それじゃ手を出して」
「え、俺? ミトじゃなくて?」
「当たり前でしょ、アンドロイドに直接渡せるわけないじゃない。ほら、いいから出して」
「お、おう・・・」
俺は言われるままに左手を差し出すと、受付嬢は再びバーコード読み取り機を押し当てた。
「それじゃ、また所持金を確認してね」
「ん・・・んん!?」
所持金:238,000ペク
なんだ? お金が13万も増えてるぞ? てか、最初の援助金より多いんだが。
「Dリソースの代金が13万8千ペクよ、間違いないわね?」
「いや、なんでこんなにお金増えてるの?」
「なんでって、あんたが狩った危険生物の賞金みたいなものよ。アンドロイドがしっかりとDリソースを確保してて良かったわね」
ふむ、どうやら外の危険生物を狩ったその証明を持ち帰ればお金に替えてくれるらしい。それでミトは、危険生物の死体を触ってたのか。とりあえず、儲けたな!
「ミト、お前のおかげで金に余裕ができた。ありがとな」
「い、いえ・・・お役に立てて何よりです~」
とりあえず俺は、ミトにお礼を言って頭を撫でた。ミトは恐縮しながらも嬉しそうな笑顔を浮かべて、気持ち良さそうに頭を撫でられる。
「はぁ、アンドロイドが所有者に尽くすのは当たり前なのに・・・」
「それでも、ちゃんとお礼は言ったほうがいいだろ?」
「そんなこと言うのはあんたぐらいなの。とにかく、これで全部ね! もう時間だから、これで終わりよ?」
「ああ、終業時間なのに悪かったな、色々助かった。たぶん明日も来ると思うからまたよろしくな」
「ふん、これが仕事なんだから別にいいわよ。ああ、そうだ、これ渡しとくわね。左手出して」
「ん? 何だこれ?」
差し出した俺の左手の甲に彼女の右手の甲が軽く触れたと思うと、モニターに彼女の名前と「IPアドレスを登録しました」の文字。
「私のIDアドレス・・・まぁこれがあれば遠くにいても連絡が取れるものよ。詳しくはそこのアンドロイドに聞きなさい。あんたのアドレスは、次に来たときにでももらうわね。それじゃまた明日!」
どうやら、現代地球のメールアドレスみたいなもののようだ。なんで突然渡されたのかわからないが、たぶん名刺交換みたいな感覚なのかな。その後、すぐに席を立った彼女は、そのままその場を後にした。まぁ、なんだかんだと終業時間を延長させてしまったようだし、彼女もすぐに帰りたいのだろう。
「それじゃ、俺らも行くか」
「はい、ヒトシ様」
とりあえずID登録とやらは終わったし、役所も終わりみたいなので、俺達は建物を後にした。さて、お金も手に入ったことだし、今日の寝床と飯でも探しましょうかね。