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異世界から戻ってみれば異世界!?  作者: 緑野
第一章 水の惑星アエロイデス
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第一章6

 さて、俺達が門を出たすぐそこに街が広がっている・・・ということは無く、一キロほど歩いた先にようやく都市が見えてきた。まぁ、防御膜があるとはいえ、危険生物の徘徊する外に近い場所に住居を構えるのは危険だろうから、当然のことかもしれない。

「おお! これがこの世界の都市か!」

 そんなわけで、しばらく舗装された道を歩いていくと、人の作ったであろう建造物が見えてきた。そして、道を歩く人々の姿。俺はこの世界で初めて見る町並みの様子に感嘆の声をあげる。

「はい、ここが都市プリンキピウムです」

 そう言ってミトは頷き、俺に微笑ましいものを見るような笑みを向けた。う、子供みたいに思われたのだろうか。だが仕方ない、この光景はなんとも未来世界のような様子なのであったから。

「いったいこれ、どうなってるんだ?」

 町の様子は一見して、現代地球の大都市のような高層ビルの立ち並ぶ普通の光景であった。しかし、そこには現代地球にはあって当然であるものが無く、逆にありえないものがあった。

「車が走ってない・・・」

 そう、道を行くものは人間だけであって、それを運ぶ乗り物が走っていないのだ。通りはどこかの歩行者天国のように、見渡す限り人ばかり。では、乗り物が無いのかといえば、そんなことは無い。地を走っていない、ということは・・・。

「車ですか? 車ならほら、あちらに」

「うお! なんだあれ!? 宙に浮いている!!」

 ミトの指差す先、それは空。高層ビルの隙間のようになっている空には、流線型の筒のような何かが浮いており、いくつものそれが大都市の道路を連なって走る車のように、空を規則正しく並びながら飛び回っている。

「飛空車です。あれに人が乗り込み、街中を移動するんですよ」

「うわぁ、どうやって飛んでるんだあれ・・・」

「半重力ユニットを搭載してるのですが、その理論は・・・」

「あ、理論とか難しいのはどうせわかんないからパス」

「そ、そうですか・・・ヒトシ様が聞いたのに・・・ブツブツ・・・」

 空を見上げて、飛空車とやらが飛び回る様子を眺めては呆ける俺。ミトが自慢げに説明しようとするが、さすがに未来世界のトンデモ理論を聞かされてもわかるわけが無い。ミトがなにやら不満そうに呟いているがスルーだ。

「あれ? 影が無い?」

「影ですか? ちゃんとありますよ?」

「いやそうじゃなくて、ビルとかあの飛空車とかの」

 ふと空を見上げていて不思議に思って地面を見てみると、足下に映る俺の影。しかし、それはおかしいはずだ。すでに午後もそれなりに時間が経っている時に、高層ビルが立ち並ぶこんな場所では、ビルに太陽が遮られて道は薄暗くなるし、自分の影もビルに隠れてしまう。そもそも、空にあれだけの遮蔽物が浮いているのだ、路地裏並みに暗くてもおかしくないはず。だが、まるで遮るものが無いかのように、太陽の光が満ち行く人を照らしている。

「ああそれは、建物に使われている建材が、太陽の光を通すようにできていますので」

「!?」

 なにその未来素材! ミトはこともなげに言うが、ガラスとか透明なプラスチックではなく普通に塗装されたコンクリ壁に見える建物が、光を通すとか言われても普通信じられない。

「その代わり、景観と日陰などのために、街路樹が植えられています」

 言われてみれば、道にはいくつもの木々が植えられており、涼しげな木陰も作り出されている。道だけ見れば、どことなく公園の敷地のようにも感じられるようだ。

「なるほどな・・・」

 未来科学文明恐るべし・・・。改めて、ここが異世界なんだと思い知らされる。

「ヒトシ様、これからどういたしましょう?」

「んー、そうだな。門の守衛さんに言われたように、役所で登録とかいうのをしてくるか?」

「そうですね、そのほうがよろしいかと思いますね」

「それにしても、いまさらだけど随分あっさり門を通してくれたよな。検査したからといって、町に入った後、登録とかしないでどこか行っちまうかもしれないのに」

「いえ、その心配は無いと思いますよ~」

「なんでさ?」

「守衛さんもおっしゃってましたが、IDを登録しないとこの街では何もできないからです」

「え?」

「食事も買い物も、それこそ寝ることも用を足すこともできないのです。場合によっては犯罪者扱いされて拘束されてしまうこともありますよ」

 女の子が用を足すとか平気で口にしちゃだめだぞ。それはともかく、どうやら本格的にこの街はIDとやらで管理されているらしい。

「じゃあ、本気で真っ直ぐ役所に向かわないといけないじゃないか」

「そうですね~」

 そうですね、とかじゃないよ! そもそも選択肢も何もないじゃないか・・・。そんなわけで、俺達は教えられたとおりに近くにあるという役所へと向かうことにした。


「13番窓口へお向かいください」

 ミトの案内により、途中で道に迷うことなく役所へと着いた俺達は、受付の案内に従って13番窓口という場所へと向かっていった。役所の様子はあまり現代地球と変わりは無いようで、清潔感がありながらもどこか無機質で機能的なデザインのロビーに、ちらほらと役所に用事があるであろう人々の姿が見える。

「ん? そういえば、ここに居る人って青い髪が多いな?」

 ふと気づいたのだが、さきほど案内された受付の女性も髪が青かったし、いまロビーにいる人々も青い髪がほとんどだった。

「もちろん彼らはアンドロイドですよ」

「・・・あ、そうなんだ」

 まるで当たり前のように言うミトの青い髪を見て、俺はある疑問を口にする。

「もしかして、アンドロイドってみんな青髪?」

「はい、人類種にはありえない青の髪はアンドロイドの印です」

「なるほど・・・でも人間でも、やろうと思えば髪を青く染めることもできるよね?」

「よほどの物好きでない限り、アンドロイドと同じ青髪にしようとなさる人間様はいらっしゃいませんよ~」

「・・・」

 あはは~っと、おかしなことを言うと言わんばかりに笑うミト。しかしそれは、この世界の人間がアンドロイドをどう見ているかの、一つの証明なのかもしれない。ともあれ、青い髪を持つものはアンドロイドということか、それ以外の見た目はほとんど変わらないからこれを目印にするしかないな。そのための髪の色なんだろうし。客側のロビーにもアンドロイドが多いのは、面倒な手続きとかを任せているからか?

「と、ここが13番窓口か」

 いくつも並ぶ窓口の一番端にある窓口のプレートに13と書かれていることを確認し(文字も魔法により理解している)、俺はその窓口の前で立ち止まった。

「はぁ、暇だなぁ~。早く就業時間終わらないかな。うう~、あと一時間以上あるよ・・・。またこっそりゲームでもしてようかな?」

 窓口の前にはテーブルが付けられ、客用の椅子が置かれている。そしてその対面には、窓口受付の所員であろう女性が座っているのだが、なにやらだらけている様子で机に突っ伏して退屈そうに独り言を呟いていた。その頭部から生える髪は茶色であることを確認しつつ、俺はその女性に声を掛ける。

「あの、すいません、案内のほうでここで手続きするよう言われたんですが」

「あ~も~、年に数人くるかこないかのサクセサーのための窓口専属って、明らかに嫌がらせよね・・・いい加減この仕事やめちゃおうかしら・・・。でもがんばって手に入れた公務員の仕事を、こんなことで手放すのはねぇ・・・」

「おーい、聞こえてますかー?」

「それに、あんなヤツの思惑通りになるのも癪だし。いっそ、ここを私の天国にしてしまうのもアリ?」

「おいって!」

「さっきからうるさいわね! ここは一般の人が来る窓口じゃないのよ! ちゃんと案内聞いてきなさいよ!」

「いや、その案内聞いてきたんだけど・・・」

「・・・」

 何度も声を掛けて、ようやくこっちを向いた女性と目が合う。女性は最初、俺を鬱陶しそうに眺めていたが、何かに気づいたように何度も俺の服装と俺の顔に視線を往復してから、ビシッと人差し指を俺に向けた。

「あなた、もしかしてサクセサー!?」

「サクセサーってなんだ?」

「ヒトシ様、サクセサーとは自然文化保護区出身者、または科学文明を捨て保護区で生活しようとする者の通称ですよ」

「なるほど、サンキュ」

「いえいえ~」

「で、どうなのよ!」

「ああ、そういうことなら、俺はそのサクセサーだ」

「うわ、本物!? それじゃ、この窓口に手続きしにきたのよね!」

「そのつもりだったんだけど、なんか来ちゃ悪い窓口だったみたいだし、別のとこにお願いするわ」

「わぁ! ダメダメ! ここ! ここでしかサクセサーの手続きできないから!」

 俺はさきほどの言葉を根に持ったフリをして、女性に背を向けて別の受付へ向かおうとする。そして、それを聞いて慌てて必死に引き止める女性の様子に、思わず悪戯な笑みが浮かんでくる。

「冗談だよ。だけど、役所の所員がさっきの態度は無いんじゃないか?」

「う・・・しかたないじゃない、ここには人なんてぜんぜん来ないし、来たとしても間違えか冷やかしなんだもの。本当に用事のあるサクセサーの人なんて、私がここの担当になってから初めてだし・・・」

 再び振り返り、窓口の前に戻った俺は、一応忠告としてさっきの態度を諌める。女性はばつが悪そうに俯くと、ぶつぶつと言い訳めいたことを呟いた。ちょっとそんなイジけた態度が可愛いとか思ってしまう。茶色の髪をポニーテールにした活発そうな女性で、やや幼さを残した顔立ちは綺麗というよりは可愛いといった感じであるが十分美人である。少し釣り上がった瞳と先ほどの態度から、どことなくネコ科のイメージを感じられた。

「それで、IDだっけ? それの手続きをお願いしたいんだけど」

「はい、いらっしゃいませ~。本日はどのような手続きをいたしましょう?」

 とりあえず登録を済ませてしまおうと用件を告げる俺に、彼女は改めて営業スマイルを浮かべて用件を聞いてきた。たぶん、テンプレ的対応をしようとしたんだろうけど、タイミングが悪かったな。

「いや、だからID登録を・・・」

「・・・もう! せっかく所員っぽく対応しようとしたのに、先に用件言うな!」

「俺のせいかよ!」

「そういうときはまず、すいませ~んサクセサーの手続きはここの窓口へと案内されたのですが、とか言うものでしょ!」

「一番最初に言ったよ! ぼやいてて聞いてなかったのはそっちだろ!」

「聞いてなかったって気づいてたんなら、最初からやり直しなさいよ!」

「なんでだよ!」

 と、言ってることはむちゃくちゃな彼女だが、その顔が恥ずかしそうに赤らめている様子から、たんなる照れ隠しなんだろうなぁっとニヤニヤと笑みを浮かべてしまう。

「と、とにかく! IDの登録ね! 知ってるからここに来たんでしょうけど、一応確認のためにID登録について説明するわね」

 そう言って、IDについての説明を開始する彼女。話の内容としては、だいたい守衛さんとミトに聞いたものと同じようなことで、身分証明と財布、その他ありとあらゆる場所での利用認証などに使われるとのこと。

「それで登録にはあなたの名前、年齢、出身地、その他もろもろと、遺伝子情報が必要になるの。遺伝子情報の採取はともかくとして、名前その他は用紙に書いてもらうことになるけど、文字とか書ける? 書けないようなら、代筆するけど」

「あー、うん、たぶん大丈夫かな?」

「なんか心配な言い方ね。ともかく、これの各項目に記入をお願いね」

 渡されたのは液晶パッドのような四角い板と、携帯ゲームに付属しているようなタッチペン。その画面には、登録に必要な項目がずらりと並んでいる。

「これ・・・紙?」

「なに? 使い方がわからない? その画面にある項目にペンで文字を書くだけなんだけど」

「あ、いや、まあいいや。でも、正確な身長や体重まではわからないぞ」

「そこらへんは、だいたいでいいわ。せいぜいジェットコースターの身長制限ぐらいにしか使わないだろうし」

 あるのかジェットコースター? それはともかく、俺はときおりわからないことを確認しながら液晶パッドの画面に書き込んでいく。もちろん出身地は自然文化保護区ということにしておいた。

「とりあえずできたけど、これでいいのか?」

「・・・うん、まぁこんなものでしょ。サクセサーだったわりに、随分とちゃんとした字を書くのね。言葉もしっかりしてるし、あんた本当にサクセサー?」

「言葉や文字は、一緒に暮らしてた爺さんから教えてもらっただけだから、何が良くて悪いのかわからないな」

「ふ~ん、まぁいいわ。遺伝子情報を確認すれば全部わかるんだから。いまさらただのコスプレ男ですとか言っても遅いからね」

「言わねえよ。そもそもコスプレって何だよ」

「知らない? コスチュームプレイの略で、固有の職業衣装や民族衣装を身にまとって、その職業や種族になりきるのよ。あ、エッチな話じゃないからね!」

「知らねえって!」

 いや、知ってますけど、そう言っておかないと怪しまれる気がするしな。てか、自分の言葉で自爆して顔真っ赤になるな!

「そ、それじゃあ、最後に遺伝子情報を登録するために、血液を採取するわね。この機械に、親指を押し当てて。ちょっとチクッとして血が出るけど、男なんだから我慢しなさいよね」

「わかったよ、これに指を押し当てればいいんだな?」

 言われる通り、用意された小型の箱の、出っ張り部分に親指を押し当ててみた。一瞬チクリと痛みが走り親指から血が流れ、出っ張り部分に赤いインクのように残った。

「はい、それでいいわよ。絆創膏とか張っとく?」

「いや、これくらいなら、舐めておけば直るだろ」

 箱から親指を離すと、指に赤い雫が浮き出る。それを俺は口に入れて軽く吸出してから、空気で乾かすことにした。いやミト、なんで俺の指を物欲しげに見つめてるの!?

「それじゃこれで登録するべき情報は取り終わったわね。あとは、登録したIDをあなたの身体に埋め込むだけよ」

「う、埋め込むのか・・・」

「心配しないで、埋め込むといっても痛みもなにも無いから。ナノマシンって知ってる? 目に見えないぐらい小さな機械で、それをちょっと利き腕とは逆の手に入れるだけだから」

 ナノマシンと言えばミトのあれか。ミトのは泡のように見えたけど、あれはそれこそ兆とか京とか、数え切れないほどのナノマシンの集合体らしいしな。

「さて、出来上がるまで少し時間が掛かるけど」

「どれくらい掛かるんだ?」

「ほんの30分ぐらいかな。その間、あんたの話を聞かせてもらいましょうか。ここまでどうやって来たのかとか、何をしてたのかとか、そこのアンドロイドはどうやって手に入れたのかとかね?」

「え、それって登録に必要?」

「いや、私が聞きたいだけ」

「お前のためかよ!」

「でも、その内容によっては、登録できなくなっちゃうかもなー。もちろん、話さないとか、すごく怪しいから警備員とか呼んどく?」

「おい、いまさらそういうこと言うかよ。まぁ、別に隠すことは無いから話すけど・・・」

 むしろ隠すことばかりで、嘘八百になるがそれを確かめる手段は無いだろ・・・。そんなわけでID登録のナノマシンが用意されるまで、俺は彼女にここまでに来る経緯と、ミトについての話をするのだった。

 時間が掛かったわりにいまひとつのような気がする・・・。未来都市の描写があまり未来感が無かったかもしれません。まぁ、ここは地方都市みたいなものなので、首都はもっとすごい感じにしたいなとは思います(汗)。

 あと今回出てきた受付の女の子は、今後メインキャラの一人にしたいなと思ってます。実際にどうなるかはわかりませんが・・・。

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