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異世界から戻ってみれば異世界!?  作者: 緑野
第一章 水の惑星アエロイデス
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第一章5

「へぇ、随分と趣がある作りだな。でも、いったい何の材料でできてるんだ? 石じゃないし、金属とも違うような気がするし、ゴム? いや、まさかな・・・」

 都市への入り口だという門へ近づいてみると、黒曜石のような光沢に美しい装飾のあるなかなか凝った作りの門だということがわかった。だが、初め石か金属で作られたと思われたそれは、触ってみると妙な弾力があり俺の知ってる材質とは違うことに気づく。手触りは滑らかだが、力を籠めれば押し返すような弾力を持ち、柔らかいかといえばそうそう傷つく様子はない。摩訶不思議な未来材質だとでも言うのか? いや、現代地球の最新建材に詳しかったわけではないが。

「あー、ちょっと、キミキミ」

「あ、はい、なんでしょうか?」

 興味深そうに門を触ったり叩いたりしていたところ、恐らく門の守衛さんみたいな人に声をかけられた。年齢的には30代後半といった感じの赤茶髪の男性で、がっしりとした体格とゴツゴツとした顔立ちで威圧感はあるが、どことなく人の良さそうな雰囲気を醸し出してる・・・気がする。いや、正直わからんけど。

「もしかしてキミは、自然文化保護区から来たのかい?」

「はい、そうです」

「やっぱりそうか、さっき門以外で都市に入ろうとして転んでいたのを見ていたよ」

「げ、見られてたのか・・・いや、お恥ずかしいかぎりです。こういった人が多く住んでる都市は初めてなもので・・・」

 うわ! マジで恥ずかしい! 男性は厳つい顔に笑みを浮かべ、生暖かい視線を向けている。

「はは、あまり気にすることは無い。たまにキミのような保護区からくる人が居るが、みんな似たような経験をしているよ」

「そ、そうですか、あはは・・・」

 俺は乾いた笑い声をあげつつ、恨みがましくミトへと視線を向ける。だが、当の本人はニコニコと微笑んで俺達の様子を見ていた。いや、お前にも責任があるだろ!

「それで、今回はどんな用事でこの都市へ?」

「あ、はい、えーと・・・」

 こういうときってなんて言ったらいいんだ? 出稼ぎ? 都会へ上京してきました? おら東京さ行くだ?

「保護区から出て生活したい? 仕事を探してる? あー、どう言ったらいいんだろうミト」

「はい、自然文化保護区から出て、こちらで生活したいということでよろしいかと思います」

「ということです」

 ミトの説明をそのまま肯定するように、男性に伝える俺。男性は、俺とミトを何度か見返して少し険しい表情を浮かべた。なんだ? 俺達の関係を疑ってるのか? 俺達は健全な関係です!

「ソレはアンドロイドだよな? キミのか?」

「ええ、まぁ、そうですけど」

「しかしそれだとおかしいな、保護区ではアンドロイドどころか一般家電すら持ち込み不可になっている。保護区から出たばかりのキミが、アンドロイドを所有しているのはおかしいのだが?」

 なるほどそういうことか、まぁたしかに機械文明を捨てて生活しているはずの場所に、アンドロイドがいるわけないよな。それにしても、ミトのことをソレとか、完全に道具扱いか・・・。まぁ、そういう常識なんだろう、それにとやかく言うほど俺は子供じゃない。

「ミトはここに来る途中、ガラクタ置き場で拾ったんですよ。所有者が居ないってことなんで、俺の所有物にしました」

「あ、ああー、なるほど、あそこか・・・。アンドロイドまで捨てるなんて、まったく困ったものだ。しかし、よく無事だったなぁ。あそこはジャイアントワームの巣だろう? 一歩間違えれば食われてお終いだったぞ」

「そ、そうなんですか、じゃあたまたま運が良かったのかな」

 返り討ちにしたけどな! しかし、困ってるとか言ってるが、あそこは正規のゴミ捨て場じゃ無いのか?

「まぁ、ともかく、そういう事情ならしかたない。ただ一応、登録されていないかチェックさせてもらうよ。とりあえず、こちらに来なさい」

 登録されていないことをチェックするのか、変な感じだな。そう思いつつ、俺は男性に促されて門の方へと向かう。どうやら、門の中身は守衛室か何かになっているらしく、自動ドアのような扉の前で、男性が左手の手の甲をかざすと音を立てて扉が開いた。そしてそのまま、中に入っていく。

「さあ、こっちだ。この機械でキミのDNAを検査して、危険人物などに該当しないか調べるからな。なに、ちょっと皮膚を擦るだけだよ、危険なことは無い」

 そう言って、男性は手に持ったセンサーのような機械を俺の手に押し当てた。俺も別になにかやましいことがあるわけではないので、されるがままにしておく。

「ん? おかしいな?」

 え? なになに? もしかして異常発生!? もしかして、この世界の人間と、元の世界の人間では何か決定的な遺伝子の違いがあったりするのか!?

「なにか問題がありましたか!?」

「ああ、いや、上手く皮膚が取れなかったみたいでな。悪いがちょっと強めに擦ってもいいか?」

「あ、はい」

 なんだ、脅かすなよ。俺は内心かなりビビリながら、男性がセンサーを俺に当てて引っかくように動かす様子を見ていた。しかし、どうにもなかなか皮膚の採取ができないらしい。何度かそれを繰り返している様子に、俺はあることを思い出した。そういえば、勇者になってから永続的に防御魔法を掛けてたな。とりあえずそれを解いてみよう。

「見た目のわりに妙に頑丈な皮膚だな・・・」

 ガリ!!

「痛!」

 ちょうど魔法を解いたとき、タイミング悪く男性が思いっきり皮膚を引っかいてきたため、俺は思わず痛みに声を上げてしまった。

「大丈夫ですかヒトシ様!」

「おっとすまねえ、少し強くやりすぎちまったな。だがおかげで皮膚の採取もできたようだ」

「いや、ちょっと驚いただけだから。あ、血が・・・」

「血! いけません! すぐに消毒しないと!」

「別にこの程度たいしたことな・・・」

 手の甲の皮膚が切れて血がにじみ出てきたが、こんなものはすぐに直ると言おうとしたとき、ミトが何を思ったか顔を近づけて舌でその血を舐めとった! しかもそのまま何度もペロペロと舐め続けている。

「ちょ! ミト! 何してんの!」

「ひゃい、私の唾液には(ぺろぺろ)生物と同じように(ぴちゃぴちゃ)消毒作用がありまして(ぺろん)」

 いや! 消毒作用があろうがなかろうが、女の子に舐められるのはちょっとマズイ!

「・・・キミ、アンドロイドに何をさせているんだい」

「あ、これは、ミトが勝手に!」

「若いからしかたないとはいえ、あくまでアンドロイドは機械人形なんだからほどほどにな。なんなら、ちゃんとしたそういう店を紹介してやろうか!」

「だから違うってー!」

 その様子を見ていた男性は、何を勘違いしたのか俺の肩を叩いて苦笑を返した。若いからとか、何言ってんのこのおっさん! あ、でも、そういう店は興味があります。

「うははは! まぁ、それはともかくだ。調べてみたところ、キミのデータは特に該当するものは無かったよ。IDも無いようだし、保護区の人間で間違いないだろう」

「はぁ・・・問題が無くてよかったです。ところでIDとはなんですか?」

「まぁ、保護区で暮らしていたなら知らないだろうが、こっちの世界では全ての国民が国のデータベースに登録することを義務付けられている。そして、登録者に配布される番号がIDだ。ここんところにデータチップを埋め込んでな、それで個人を認証するようになっている」

 そう言って、男性は自分の左手の甲を指差した。初めは何も変わりが無かったが、少しすると手の甲になにやら紋様のような物が浮き出てくる。

「これがIDチップだな。普段は見えないようになっているが、見えるよう意識するとこうやって浮き出てくる。個人認証以外にも様々な効果があるが、詳しい説明は役所のほうで聞いてくれ。こっちで暮らすなら、これは絶対に登録しないといけないからな」

 なるほどね、戸籍登録とか身分証明書なんかの役割、その他さっきの様子だと扉の鍵とかにもなってるのかな。まぁそんなことより・・・。

「これ、すっげえかっこいいですね! 俺のこの手が光って燃えるとか! ドラゴニックエンブレムでアベルストラッシュとか憧れる!」

「お、おう、そうか? いやそのなんとかエンブレムとかは知らないが、まぁお前さんもすぐに付けられるようになるさ」

 俺はついつい、男性の左手に浮かび上がった紋様に飛びついて、じっくりと眺め見てしまった。いや、男の子ならやっぱり手の甲の紋章とかには憧れるだろ! しかし、男性はちょっと引いた様子で、紋様はすぐに消えてしまった。

「あー、それでちょっと気になったんだが。キミは保護区の人間のわりには、随分と流暢な共通語を話すね。誰に教わったんだい?」

「え? ああ、そうですか? 森で爺さんと暮らしてたので、爺さんに教わったんですが」

 引き続き、お爺さんと二人暮らし設定で行く。実は魔法でペラペラなんですとか、言えるわけがない。ちなみに、俺には相手のしゃべっている言語を理解する魔法が永続的に掛かっている。こうやっていま話していることを俺としては日本語のように感じているが、実際はその世界の言葉で話しているのだ。魔法の理屈としては、なんでも全ての生き物が無意識に繋がっている共有意識の中から、言語の知識を引き出して理解しているとかなんとか、案外すごい魔法らしいが俺にはよくわからない。ただ、一般的ではない言葉などは完全には理解できないようだ。さっきミトが言っていた古代語とやらは、俺にとってはラテン語に聞こえるが、そのラテン語を俺は理解しきれてないので意味まではわからないという状況である。ともかく魔法のほとんどは、使えればいいレベルでしか覚えてないので、詳しく説明できないのだ。

「なるほど、いや保護区からきた者は結構共通語が苦手な者が多いみたいでね、しゃべれないわけじゃないが、片言になってしまってるのが多いんだよ。それに比べて、キミはまるで長くこっちで暮らしてたかのように流暢な共通語だからね、少し驚いたよ」

「そ、そうですか・・・」

「ああ、勘違いしないでほしいのは、疑ってるとかそういうことじゃなく、純粋にキミの言葉遣いを褒めてるだけさ。すでにDNAの確認は取ってあるしね」

 俺を安心させるためか、再び厳つい顔に笑みを浮かべてポンポンと肩を叩く。

「とりあえず、これでここの検査は終了だ。都市へ入ることを許可しよう。この後は、早めに役所でIDを登録するように、そうしないとこの世界では何もできなくなってしまうぞ。それとその服装だな、いつまでもそんな格好じゃ不審者扱いされてもしかたないぞ」

「わかりました、お世話になりました」

 その後、都市に入る際の注意事項やら役所の場所やらと必要なことを聞いてから、門を通って都市へと入る。そしてそこには、まさしく未来都市といったような風景が広がっているのだった・・・。

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