プロローグ
「これで・・・おわりだ!!」
俺は渾身の力を込めて聖剣を振り下ろす。その一撃が、先ほどの大技を受け体勢を崩していた魔王の身体を切り裂いた。
「ぐ、ぐぉぉぉぉおおおお!!」
「やったか!?」
おいやめろ、それは負けフラグだ! 魔王の断末魔に、仲間がそう言うのを聞いて一瞬焦ったが、どうやら何事も無く魔王は倒されてくれるようであった。
「お、おのれ人間め・・・いずれ我は・・・復活し、今度こそ・・・に、人間を滅ぼして・・・くれようぞ・・・」
実にお約束な捨て台詞を残し、聖剣に切り裂かれた魔王は、黒い霧となって霧散する。これで魔族によって脅かされていた人間の社会は平和となるだろう。そして、俺は『勇者』から『英雄』となったわけだ。この異世界に召喚されてから約一年、長いようで短い時間だったなと、これまでのことに思いを馳せて勝利の余韻を味わう。
「勇者様!」
「ああ・・・俺達の勝利だ!」
一緒に魔王に立ち向かった仲間の声に、余韻を振り払って仲間達へと振り向くと、聖剣を振り上げてそう宣言した。仲間達は嬉しそうな表情を浮かべてこちらを見ていて、今にも駆け寄って来そうな雰囲気だ。
「・・・これで役目は・・・今が最良・・・」
ん? 一人だけ、なにやら真剣な顔つきで俺を見ているやつがいる。そいつはエルフの魔法使いの男で、普段は物腰が柔らかく誰にでも優しいが、いざとなれば強力な魔法で敵を打ち倒す頼れる仲間なのだが・・・。まるで、いまだ敵が残っているかのように切れ長の瞳を細めて俺を見つめている。俺は少し不安になって、周囲を警戒するように見渡した。
「ゆ、勇者様!?」
「え・・・?」
そのとき、ようやく俺は足元になにやら紋様のようなものが浮かび上がっていることに気づいた。と、同時に俺の身体が光に包まれていく。お、おい・・・、これってまさか・・・。
「魔王が倒された今、汝の役目も終わった、去れ勇者よ!」
魔法使いの男がそう告げる。なぜ? いまここで? 俺達、仲間だったはずじゃ・・・!?
「勇者様!!」
仲間の裏切りとも取れる行動に混乱する俺の頭に、覚えのある感覚が広がる。これは俺が元の世界からこちらの世界へと来たときに感じたものだ。他の仲間は突然のことに、ただその場から手を伸ばすことしかできない。やがて俺の身体を取り囲む光が強まり、不意に足元から地面が消失したような感覚を感じる。そして、俺はこの世界から消失した・・・。