第十一話 好き[2]
ちくしょー、俺は照れ屋でシャイなんだ。
三次元女子には免疫ないんだ。
だから、頼むから谷間は見せるな!
太もも見せるな!
パンチラすんな!
見られたくないなら、何故見せる!
それとも、嫌よ嫌よも好きの内!?
俺を変態扱いしたり、殴ったりするくらいなら、見えてるそれをちょっと隠せ!
全裸よりもチラチラ見える方が気になんだよ!
まるで見ろと誘っているようにしか見えないじゃないか!
バカ法子!!
「うぅ、痛い……」
凶悪すぎるよ、バカ法子。
恐すぎるんだよ、強すぎるんだよ。
そんなで俺が好きだなんて信じられるか!
やっぱりからかってるんじゃないのか!?
くそ、目から汗が。
うぅぅ、汗が流れて視界が歪むぜ!
助けて母ちゃん!
この凶悪で狂暴な生き物、なんとかして!
俺には正直、手に負えないよ!!
「うっ、うっ」
「なんであんたが泣くのよ!」
法子が激昂する。
力任せに殴っておいて、よくも言う。
「……法子なんか嫌いだ。俺をいじめる」
最低だ。
心の中の一番弱くて柔らかいところに侵入して、掻き回し引き裂いて、グチャグチャに傷付ける。
「嫌いなら嫌いって言えよ」
俺が言うと、噛みつくように言い返す。
「だから好きだって言ってるでしょ!? 何度言わせたら、納得するの!!」
「じゃあ、なんで殴るんだよ!!」
それが理解できない。
「殴る事はないだろ!! なんで殴るんだよ!! 法子は殴るのが愛情表現だってわけ!?」
「そんなわけないでしょ!!」
「だったら、態度で示せよ!! 殴ったりしないで!! お前、本当にわけ判らないんだよ!!」
畜生。
なんか俺、すげー振り回されてる。
心も頭もグチャグチャだ。
目から汗まで流れるし。
フランダースの犬の最終回を初めてCATVで見た時並に、分泌物が溢れてるよ。
「恐いよ、法子……」
声がかすれる。
「信用なんかできねーよ……」
だって俺、容姿はいたって普通で地味だし。
頭の中身も標準並だし。
運動神経良くないし。
体格とかも、いたって普通。
法子は派手だし、それなりに可愛いし、俺より断然モテそうなのに、なんで俺?
女に免疫なくて、からかいやすいからか?
法子の言動に、いちいち振り回される。
不意に、法子の顔が近付いてきた。
あれ?
なんで?
ってえええ〜っ!!
ちょっ、法子!!
……唇に。
柔らかくて甘いものが。
ええとこれってリップか何かの味ですか。
つか、やわらけー。
なんて柔らかさなんだ。
びびった。
マジでびびった。
硬直する。
……だけど、法子が震えてるのに気付いて、びっくりして身を離す。
まぶたを、睫毛を震わし、目を閉ざす法子。
中身魔獣のくせして、まるで脅える小動物。
騙されてる。
俺、絶対騙されてる。
なのに俺は法子を抱きしめ、もう一度キスしていた。
今度は俺から。
ちゅ、と音を立てて唇は離したけど、柔らかくて温かい法子の体を離せなくて、ぎゅ、と力を込めてしまう。
柔らかい膨らみが、胸から腹辺りに触れて押し付けられる。
ヤバイ。
こんなことしたら殴られる。
殴り飛ばされるのに、俺の頭の中は、法子の唇と胸で、いっぱいになった。
だけどヤバイ。
これ以上はマズイ。
絶対確実に殴られるのに。
もしかしたら殺られてしまうかもしれないのに。
なんかすごく触りたい。
触って、触って、触りたおして、特に胸辺りを揉んだりなんだりしてみたい。
ヤバイ。
「……法子」
頭がクラクラする。
名前を呼ぶと、法子はビクリと身体を震わせた。
俺を見上げたその顔が、ドギュンとくるほどそそられる。
つか、ナンデスカ!
その濡れたアヤシイ誘うような目つきは!
ギャアアァ、なんて目で見るんだ、法子。
俺を、俺を、殺す気ですか。
「孝弘、好き……!」
ギャアアアアァ!!
物陰から突然、ジェイソン・フレディ・貞子・ターミネーターが現れて、タッグを組んで襲ってきても、こんなに激しく動揺しない(たぶん)。
母ちゃん、ヘルプ!
誰でも良いからヘルプ・ミー!
いや、マジ死ぬ!
本気で死ぬ!
ああ、頼むから俺を助けて!
いったいこの状況はどうしたら良いんですかっ!
どうするのが正解なんですかっ!!
ぎゃあああああああぁっ!!
もう、ダメ。
もう、死ぬ。
殺されるッッ!!
ジタバタ暴れる俺に法子はしがみつき、逃れようと腕を払おうとしたら、羽交い絞めにされた。
好き?
好きなんですか?
これが好き?
だけどなんか俺、肉食獣に狙われ食い付かれそうな気分で、楽しい嬉しいよりむしろ恐いよ!
恐いですよっ!
つか愛!?
愛なの!?
愛情表現!?
いや、無理。
俺、無理。
絶対無理!!!
つか法子!!
お前、女のくせになんでそんな馬鹿力なんだよ!!
マジ死ぬ!!
本当に死ぬ!!
死んじゃうからっ!!
嘘だ。
こんなの絶対嘘だ!!
恋愛ってこんなに恐くて痛いもの!?
つかそれ以上絞められたら、違う意味で昇天しちゃいますから!!
法子の暴走は止まらない。
お願い、五條さん!
早く帰ってきて!!
俺を助けて!
ヘルプ・ミー!!
引っ張ってばかりですみません。
そろそろ展開変わるはずです。←孝弘があまりにヘタレで自信なくなってきた。
いや、ヘタレキャラ好きですけど。
恋愛ネタで主人公がヘタレだと展開遅すぎです。