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第25話:泥濘(でいねい)の再会と、皇帝の断罪

 ガルディニア帝国の国境付近、厳重な検問所。

 そこに、かつてサンクチュアリ王国で「王の側近」を気取っていた貴族たちが、見るに耐えない姿で集まっていた。


 彼らは魔獣に滅ぼされた国を捨て、流浪の末に「帝国の皇后が、かつて自分たちが追い出したリーゼロッテである」という衝撃の事実を耳にしたのだ。


「――通せ! 私はリーゼロッテ様の遠縁の叔父だぞ!」

「私は彼女の教育係だった! 彼女を育てた恩を、帝国は金貨で支払うべきだ!」


 厚顔無恥な叫びが響く中、検問所の奥から一頭の漆黒の馬が現れた。

 騎乗しているのは、黄金の瞳に冷徹な殺気を宿したヴァルター陛下。

 そして、その腕の中には、陛下のマントに包まれるようにして守られているリーゼロッテの姿があった。


「……陛下、わざわざお越しいただかなくても……」

「ならん。ハイエナ共が君の名前を呼ぶだけで、この国の空気が汚れる。私の目の前で、完全に息の根を止めてやる」


 陛下は馬を止め、跪くことも忘れて縋り付こうとする元貴族たちを、ゴミを見るような目で見下ろした。


「……あ、ああ! リーゼロッテ! 私だ、覚えておいでか!?」


 一人の男が、泥にまみれた手を伸ばした。その瞬間――。


 ドォォォォォン!!


 ロザリンが愛用の大盾を地面に叩きつけ、凄まじい衝撃波で男を吹き飛ばした。


「不敬なり! 皇后陛下の御髪おぐしに触れようなど、万死に値する! その汚らわしい指を、今すぐ私が切り刻んで差し上げましょうか!?」


 ロザリンの咆哮に、元貴族たちは震え上がった。

 リーゼロッテは、陛下の腕の中から静かに彼らを見つめた。


「皆様。……サンクチュアリが滅びゆく時、私は一人で結界を張り続けました。……その時、皆様は『魔力が足りない』と私を罵り、宝石を持って真っ先に逃げ出しましたわね」

「そ、それは誤解だ! 国のために、再興の資金を確保しようと……!」

「……もう結構です。今の私があるのは、私を見つけ、愛し、守ってくださったヴァルター様のおかげ。……あなたたちの知っているリーゼロッテは、あの雨の夜に死にました」


 リーゼロッテが指先を掲げると、白銀の光が天に昇り、巨大な「拒絶の壁」が国境に展開された。


「……この結界は、私を傷つけた者を通しません。……一生、その壁の向こうで、自分たちが何を捨てたのかを悔いて過ごしなさい」


 その言葉を合図に、ヴァルター陛下が右手を軽く上げた。


「――聞いたか。リーゼロッテは『生かせ』と言った。……だが、私はそんなに甘くない。エドムント、マルコ」


 背後に控えていた二人が、不敵に笑う。


「ひっひっひ。こいつらの持っている隠し財産、すべて帝国の『皇后様のための福祉基金』として没収させていただきやしょう」

「お任せを。一生、魔力を抽出され続ける『魔力電池』としての労働刑、手配済みですぞ」


 絶望に叫ぶ元貴族たちが引きずられていく。

 彼らが最後に見たのは、自分たちが「無能」と笑った少女が、大陸最強の皇帝にこれ以上ないほど甘く、独占的に抱きしめられている光景だった。



 ***



 帰りの馬車の中。

 陛下はリーゼロッテを膝に乗せ、その首筋に顔を埋めて深く呼吸した。


「……リーゼロッテ。あんな連中のために、君の魔力を使わせたことが悔しくてたまらない。……今夜は、君の指先から溢れる魔力も、その吐息も、すべて私一人で飲み干してやる」

「陛下……。皆様が見ていらっしゃいますわ」

「ロザリンには背を向けさせ、エドムントには耳を塞がせた。……ここは、私と君だけの、誰にも邪魔されない聖域だ」


 陛下の重すぎる愛が、馬車という狭い空間で熱を帯びていく。

 

 過去の亡霊はすべて消え去った。

 これからは、迫りくる出産の時、そして新しく加わった仲間たちと共に、より深く、より甘い「帝国の守護」の物語が続いていく。


「……愛しています、ヴァルター様。……もう、私の目には、あなたしか映りません」


 リーゼロッテの誓いに、陛下は狂おしいほどの接吻で応えるのだった。

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