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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
離島での不幸編

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十六の巻 祟り神

    [十六]



 日香里の話によって騒然とする中、貴堂沙耶香の声がお構いなく響いた。

 

【お静かにお願いします。では次に、小早川様、話して下さい】


 小早川は居住まいを正し、静かに語り出した。


「次は私ですか……では。私にとって辛くて苦しい事というのは……そうですね、私がなによりも大事にしていた、どんなモノより美しい宝物が、無残に壊れてしまった事でしょうか。どんなモノかは語れませんが、私はそれ以来……魂が抜けてしまったようになりました。何を成し遂げても……もうソレが無いのだと考えてしまうようになったのです。私はそれ以来、何も満たされなくなってしまいました。何を成し遂げても、全然満たされません。ソレを無くして以降、私には情熱というモノが消え失せてしまったのです……これが、私の辛くて苦しい話です」


 小早川という男は、そう語った後、額に手を当て、塞ぎ込むように俯いたのである。

 我が見たところ、演技ではない。

 本当に辛いようじゃ。

 どうやら、相当にショックな出来事だったのじゃろう。

 一体、どんな宝物なのやら。


【それでは次に、権田様、よろしくお願いします】


 権田は背筋を伸ばした。


「はい。では、お話させていただきます。私の辛い事というのは、大河内先生の御息女である大河内沙織様が、この八王島で行方不明になった事です。先生は今も、沙織お嬢様のお帰りを待っておられます。そんな先生をずっと見続けてきまして、私は胸が締め付けられる思いであります。秘書としての業務を行う私にも、その余波は来ております。選挙期間中も選挙後も、そして今もです。これが私の辛く苦しい話でございます」


 ふむ……最後の方は、その所為でとばっちりを受けていると言いたげではあったが、まぁ辛いのは事実のようじゃ。

 恐らく、秘書の業務が苦しくなるくらい、この件で色んな面倒事を押し付けられておるのじゃろう。

 わかりやすい心の叫びじゃ。


【では次に、佐々木様、よろしくお願いします】


 面白くなさそうに、佐々木は口を開いた。


「次は私の番ですか。良いでしょう。私には弟がいましてね、その弟にはここ最近、行方不明になった娘がいるのですよ。それがあってからというもの……弟の悲しい顔を見るのが、非常に辛くてですな、冷徹と陰口を叩かれる私も、時折、胸が苦しくなるのですよ。親が死んだ時も、そんな風には思わなかったんですがね。やはり、若い身内の失踪というモノは、年長者には堪えるのですかね。早く見つかってほしいところです。これが私の辛い話ですよ。以上です」


 どうやら、こ奴の娘ではなく、弟の娘が行方不明のようじゃ。

 まぁ噓偽りはないじゃろう。

 実際、こ奴が話した後から、陰の気が発せられていたからのう。


【では次に、中津川様、よろしくお願いします】


 幸太郎に絡んでおった時とは違い、中津川は深刻な表情をしていた。


「次は私の番という事ですので……お話しさせていただきます。実は……私も妹がおりまして、この八王島に友人と遊びに来た後、行方不明になっているのです。各所を回って探しましたが、今もまだ見つかっておりません。無事なのか、どこにいるのか……未だ手掛かりすら掴めてないのです。これが私の……辛くて苦しい不幸な話になります」


 中津川彩菜は、話し終えると涙ぐんでいた。

 そして、この女子(おなご)も同じような理由であった。

 幸太郎は既にそうではないかと考えていたみたいじゃが、ここまで当たるとはのう。

 やりおるわ、幸太郎は。

 流石、自慢の弟子じゃな。


「ちょっと待て! ……なんでこんなに、行方不明者の身内がいるんだ。どういうことだ、これは……」


 春日井は立ち上がり、動揺しておった。


「そうだ……なぜこんなにいる。どういう事なんですか、貴堂さん!」


「こんな偶然あるわけない。どういうことだ……」


 他の者達もそれに続いた。

 その直後、貴堂沙耶香の声が、空洞内に反響したのじゃった。


【海藤様、春日井様、小早川様、お静かに! 私が良いというまで、口は噤んで下さい!】


 この場はその一喝で静まり返った。


【失礼しました。では続けさせていただきます。次……西岡様、よろしくお願いします】


 西岡は疲れた表情で、大きく溜息を吐いた。


「順番なら仕方がない。では話しますかな。私の辛くて苦しいところは……会社についてだろうか。このご時世、建設会社経営はなかなか大変だ。特に地場ゼネコンはな……まぁ多くは語るまい。恐らく、貴堂グループなら私の言っている事がわかるだろうからな。私からは以上だ」


 どうやら経営が色々と大変なのかもしれぬ。

 わざわざ輩を使って、北条達を脅し、開発権を手に入れようとしてたくらいじゃ。

 色々と苦労があるのじゃろう。


【次にスタッフの北条さん、お願いします】


「私も先の方々と同じです。5年前に妹が、この八王島で行方不明になりました。警察も捜索しましたが、未だに見つかっておりません。妹が今どこにいるのか、心配でなりません。どこかで生きていてほしい……そして元気な姿を見せてほしい……そう願う日々です。これが私の辛く苦しい話です」


 明日香は日香里と同じじゃから、何も言うまい。


【では最後に、スタッフの三上様、よろしくお願いします】


 不幸の真打ち登場じゃな。

 一体、何を話すんじゃろうのう。

 おうおう、幸太郎の奴、ニヤケとるじゃないか。

 ここで笑うって……どういう心境かサッパリわからぬわ。

 まぁでも、何かおっぱじめる顔じゃな。

 刮目するとしようかの。


「私がトリのようですね。それでは……積もり積もった不幸話があるので、折角ですから、皆様にお話ししようと思います。というわけで、テンション上げる為に、ちょっと立って話させてもらいますね」


 なんかようわからんが、幸太郎は突然立ち上がり、雄弁に話を始めたのじゃった。


「実は私……今から10年ほど前、つまり中学生の頃なのですが、人生最大の転機と遭遇したのです。勿論……悪い方向で、ですがね。さて……当時の私はですね、今からでは考えられないほど、筋金入りのアホの子でして、するなと言われる事をついついしてしまう、超がつく馬鹿なクソガキだったんです。それはもう、神をも恐れぬクソガキでした。で、そんな中学時代、私は学校の帰りに、とある道路工事現場の前を通りかかりました。ちなみにそこは、県道のド真ん中に一本の大木がある所でして、そのすぐ隣には、注連縄が巻かれた細長い石がありました。まぁたまに、そういう場所ってありますよね。で、そこを通りかかったのですが……その際、作業員と現場監督の会話を、私はたまたま聞いてしまったのです。そう……たまたまね」


 幸太郎はそこで話を切った。

 当時を思い出し、また後悔しておるのじゃろう。

 額に青筋が浮かんでおるわ。ウケる。


「で、その時ですが、作業員の方はこんな事を言っていたのです……『なぁ監督、県の土木事務所の奴等は、なんであの木を残したがるんだ? あんな大木が道のド真ん中にあったら、どう考えても邪魔じゃねぇか。中途半端な分かれ道になるのによ』と。すると現場監督はこう答えました……『ああ、それか。あの木はな、絶対に切っちゃいけないという迷信があるんだとよ。なんでもその昔、木を切ろうとした奴がいたそうなんだが、祟りにあって酷い目に遭ったらしい。だから残すんだそうだ。まぁ噂だから、考えすぎだと思うんだがな。それと、あの木の横にある細長い石も、絶対に動かすなって言われたよ。アレが祟り神の供養塔なんだとさ。だからお前も、余計な事はしないようにな』と。しかし、悲しいかな……当時の私はそれを聞き、こう思ってしまったのでした。『え? 本当に? なんか面白そうじゃん。つか、祟りなんてあるわけねぇだろ。バッカじゃねーの! なら俺がやってみるかな。いや……やるか、やらないかだ。試しは必要ない! よし、絶対やるぅぅ!』と」


 幸太郎はそこで一旦話を止めた。

 弁士のように声色を変え、ノリノリで話したので、疲れたのじゃろう。

 しかし……相変わらず、空気読めない奴じゃのう。

 聴衆が全員、ドン引きしておるわ。

 その表情はまるで、『まさかお前、やったのか?』と言わんばかりじゃ。

 そんな中、幸太郎は話を再開した。


「で、遙か彼方の銀河系にいる賢者みたいに、その結論を導きだした私はですね、とうとう行動を開始してしまったのです。私はとある日の夜……誰もいない工事現場に、スコップと金梃子(かなてこ)を持って忍び込みました。そして……供養塔解体工事を始めてしまったのです。私は学校の授業よりも、一生懸命頑張りました。そして長い格闘の末……私はようやく、供養塔を倒す事が出来たのでした。目的は達せられました。ゲームでラスボスを倒したくらいに、感無量です。すると、どうでしょう? 何も起こらないではあ~りませんか! 何も起きないその状況に、私は落胆しました。そこで、当時の私は1人呟きました。『なぁんだ、別に何も起こらないじゃないか。馬鹿馬鹿しい、や~めた。帰ろ、帰ろ』と……。そう考えた私は、持ってきたスコップと金梃子を回収し、帰る事にしたのです」


 幸太郎はそこで皆の顔を見た。

 すると、全員がポカンとした表情で、幸太郎を見ておった。

 その表情は明らかに、『何言ってんだコイツ……頭おかしいのか?』といった感じじゃった。

 まぁそうなるわな。

 アホじゃ。

 ホンマにアホの子じゃわい。


「話を続けます。で、私は罰当たりにも、ほじくり返した供養塔の石をそのままにし、帰ることにしました。ですが、その時でした! 背後から……奇妙な声が聞こえてきたんです。それは女性の声でした。その声はこう言ってました。『我の眠りを……妨げるのは……其方か……』と。私はその時……近くで誰かが寝ていたのだと思いました。まぁ今から考えると、女性が夜中に、あんな所で野宿してるなんておかしいのですが、この時の私は気にならなかったのでしょう。そればかりか、この時の私はあろう事か、起こしてしまったのを謝る為、後ろを振り返ってしまったのです。だがしかぁし! そう思ったのも、その時まで。なんと目の前には、宙に浮かぶ、若い女性がいるではあ~りませんか!」


 幸太郎は空洞内を歩き回り、雄弁に語っていた。

 何を考えとるんじゃろうのう。

 今までこんな話をする事はなかったが、どういう心境の変化なのやら。


「ちなみにその女性は、卑弥呼のような古代の祈祷師の姿をした、不気味で禍々しい気を放つ、不吉な若い女性でした。とはいえ、意外と綺麗な女性でした。でも、怖い女性でもありました。そして、私はソレを見るなり、腰を抜かし、地面に尻餅をついてしまったのです。当たり前です。宙に浮かぶ不気味な女を見たら、誰だってそうなるでしょう。しかも、その若い女性は事もあろうか、次の瞬間、私に向かって突進してきたのです。私は恐怖のあまり、金縛りに遭ったように身動きできません。声を上げることもできず、ただそれを見詰め続けるのみ。だが……それだけでした。その女性はなぜか、衝突する寸前で、視界からフッと消えてしまったのです。『なんだったんだ今のは……』私はこの突然の現象を前に、暫く動けませんでした。しかし、それ以降、特に何も起きません。私はそこで、何とか立ち上がりました。そして、恐怖のあまり身震いし、逃げるように、その工事現場を後にしたのです。ですが……ここからが、本当の不幸の始まりなのでした……」


 幸太郎はそこで話を切り、皆の顔を見た。

 暫し無言の時が続く。


「み、三上さん……続きは?」


「そうだぜ……その後はどうなったんだ? 気になるじゃないか」


 日香里と春日井が、催促をしてきた。

 他の者達ももどかしいのか、コクコクと首を縦に振っておる。

 どうやら続きが気になるのじゃろう。

 幸太郎は意外と弁が立つのう。ほほほほ。

 まぁそれはさておき、幸太郎はそこで鉄格子へと視線を向けたのじゃった。


「さて、続きを話そうと思いますが、その前に……貴堂沙耶香さん……取引しませんか?」


【取引? どういう事です?】


「今から私が……貴方達が探っている謎を解いてあげますよ。流石に、1カ月もここにいるのは疲れるのでね。どうです?」


「え?」


「謎を解くだって!?」


「突然、何を言い出すんだ、三上さん!」


 この場にいる者達は目を見開き、驚きの声を上げていた。

 少し騒然としてきおったわい。

 まぁ無理もない話じゃ。

 さて……お手並み拝見といこうかのう。


【どういう意味です? その前に……貴方は突然何を言うのですか! 我々が探っている謎を解くと言いましたが、一体、何を解くと言うのです!】 


 貴堂沙耶香の声色が変わった。

 意外にも、少し動揺している風であった。


「言葉通りの意味ですよ。探しているんでしょ? 行方不明者と犯人をね。私が今、この場で、犯人を暴いてさしあげますよ。但し……条件がありますけどね」――


 ほうほう、幸太郎の奴、もうココでケリをつけるつもりのようじゃ。

 見させてもらうとしよう。

 どう料理するのかをの。ほほほほ。

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