異世界と異世界のルール
おはようございます!
今回は流石にということでナレーターを異世界ではなく勇者側のナレーターにしました。
これで産業廃棄物とか書いても違和感ないなぁって思いました。
それではご覧ください。
鼻腔を焼くのは、慣れ親しんだ教科書のインクの匂いではない。
それは、引き裂かれ、煮えくり返る内臓から立ち昇る生温かい湯気と、垂れ流された排泄物が混じり合った、肺の深部まで汚染する「死の熱気」だった。吸い込むたびに、喉の粘膜に鉄錆のような血の味がへばりつく。
周囲を見渡せば、かつての日常はどこにもない。人型モンスターの青臭い体液が、粘膜のような唾液にまみれた死体の上で、油膜のようにどろりと虹色に光っている。その極彩色の輝きが、この世のものとは思えないほどに醜悪で、美しかった。
「君には……力があるんだろ。あの子たちが、あんな……っ」
聖夜の声は、自分でも驚くほど震えていた。彼の視界の端には、未だに「現実」として処理しきれない光景がこびりついている。治癒魔法という名の冒涜によって、無理やり心臓を拍動させられ続けながら、生きたまま「損壊」させられていた同級生の姿。それはもはや人間としての形を失い、ただの脈打つ肉塊へと成り果てていた。
だが、目の前に立つ男の瞳には、それらすべてを映しながらも、磨き抜かれた硝子のような、底冷えする「虚無」しかなかった。男の外套には返り血一滴すら付着していない。その清潔さが、この地獄においては何よりも狂気的に映った。
「見ていただろう……! 助けられたはずだ! 君がその指をたった一度、振ってさえいれば! 誰もあんな死に方をしなくて済んだんだ!」
絶叫は、降り注ぐ雨と濁った空気に吸い込まれ、霧散する。 男はその激昂を、まるで道端に転がる石ころを無造作に避けるような足取りで聞き流した。一瞥すら与えず、ただ淡々と、そこに存在しているだけだった。
「ああ、見ていた。それがどうした」
その声は、あまりに静かで、透明だった。
「どうしたって……! 誰かが、君のような力を持つ誰かが、その無関心を止めていれば、繋がった命があったんだ! 見殺しにしたのは、君が殺したのと同じだ!」 「繋いで、その先はどうする。明日の朝、別の怪物に食われるまで怯えて過ごさせるのか? それとも、俺が一生こいつらの手を引いて歩けとでも言うのか」
男はゆっくりと聖夜に向き直った。その眼差しは、哀れみすら含んでいない。
「俺に理想という名の寝言をほざく暇があるなら、今この瞬間も、あっちの路地裏で咀嚼されている連中を助けに行け。自分の正義を他人に投影して、免罪符を得ようとするな、ガキ。お前の薄っぺらな倫理観は、この泥の中では一文の価値もない」
沸点を超えた怒りが、聖夜の思考を焼き切った。 地べたを蹴り出し、男の胸ぐらを掴もうと踏み出した――その瞬間だった。
不意に、右掌からそれまで感じていた「重み」が、霧が晴れるように消失した。
心臓が跳ねる。恐る恐る振り返れば、そこには先ほどまで聖夜が必死に握りしめ、励ましの言葉をかけ続けていた負傷者の指先があった。
指先は、泥の中で一度だけ、魚が跳ねるように小さく痙攣した。そして、すべての緊張を解くように弛緩する。肉が、ただの「物」へと変わる瞬間。魂が抜けた肉体は、物理法則に従って静かに泥へと沈んでいく。あまりに呆気なく、あまりに無機質な重力の導き。
「……あ、……ぁ」
聖夜の口から、掠れた吐息が漏れた。
「この世界にあるのは、惨めな死か、幸福な死だけだ」
男は冷淡な足取りで歩み寄り、泥に沈んだまま動かない聖夜の指先を、死刑宣告を下す判事のように指差した。
「助ける力があると言い張りながら、俺をなじり、その隙に守るべき相手の手を離した。……わずか三秒だ。お前がその安っぽい自己陶酔に浸り、高みから正義を語っている間に、この男の呼吸を止めたのは他でもない――お前自身の怠慢だ。俺を責める言葉を紡ぐために、お前はこの男を死なせたんだ」
言葉の刃が、聖夜の心臓を正確に貫いた。
聖夜は爪が掌を突き破り、自らの血が溢れるほどに拳を握りしめる。
教室の清潔な机で教わった平和への祈りも、道徳の教科書に踊っていた暴力の否定も、目の前にある「沈黙した肉」という圧倒的な現実の前では、ただの無意味な記号の羅列に過ぎなかった。
祈りは腹を満たさず、倫理は流れる血を止めない。
『聖夜』。
聖なる夜に生まれた、闇に沈む人を救う光になりなさい。 両親が願いを込めて付けたその名は、今や彼を永遠の暗底に縛り付ける、この世で最も残酷で、呪わしい記号へと成り果てていた。 彼は泥にまみれた手を見つめ、ただ、声にならない悲鳴を上げた。その横で、男は興味を失ったように、再び歩き出した
いかがでしたでしょうかいかがでしたでしょうか。
こちらの回はまだい未完成ですが途中経過は乗せたいと思い掲示いたしました。
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