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父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳パンダ
全国編

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第47話 プレオープン 後編

 午後からは記者向けのプレオープンが始まる。


 店の扉が開き、最初の雑誌記者が入ってきた。

 名刺を受け取り、事前のリストと頭の中で照らし合わせる。

 出版社の肩書はあるが、彼は本職のライターというより記事を売り込むタイプだったはずだ。


 奥のカウンター席に案内する。

 豚骨醤油を運ぶ。希望者には味噌も出す。

 ひたすら、その繰り返しだ。


 ここに来ているのはプロの記者たちだ。

 挨拶を交わしている。多分顔見知りなんだろう。だが雑談はしない。

 店内に響くのは、麺をすする音だけだった。


 たまにコメントを求められるので、手短に答える。

 事前に全員へQ&Aを送ってある。だから話が早い。


 少し手が空いたタイミングで、遥香ちゃんと小声で打ち合わせる。

 運営は想像以上にスムーズで、俺は内心ほっとしていた。


「うん、いい感じだね」


 実はラーメンライターは辛口の人も多い。

 今日来た連中が丁寧でおとなしいのは、少し不思議だった。


「主要誌のほとんどに、コラボカップ麺の広告をお願いしておいたからね」


 黒幕は遥香ちゃんだった。彼女は悪戯っぽく笑う。

 なるほど、スポンサーにしてネガキャンを避ける根回しか。なかなかやる。


 前橋食品に頼んで、ラーメン雑誌に広告を出しまくったらしい。

 そういう依頼をするなら、社長の俺を通してほしかったな。

 テレビ広告に比べれば誤差みたいな金額だろうけど……。


 関西からの進出だ。しかもカップ麺コラボという反則に近い広報をしている。

 反感を買うのも分かる。メディア対策を厚めにするくらいが、ちょうどいいのかもしれない。


 次はテレビ局の番だ。映像を撮る必要があるから、各局ごとに一時間枠を取っている。


「この後はテレビ対応だけど、大丈夫?」


 俺は念のため確認した。


 インタビューは遥香ちゃんが基本的に対応してくれるらしい。

 俺は店の端で腕を組んで立っていればいい、とのことだ。

 女性である遥香ちゃんが前に立つのは、メディア対策の一環らしい。


 遥香ちゃん曰く、俺のテレビ番組での受け答えが一部で反感を買っているらしい。

 全く、俺は人柄のいい大和男児だと言うのに。

 まあ、テレビ越しじゃ細かいニュアンスは伝わらない。そう思って納得することにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日、俺は雑居ビルのオフィスから神保町店の様子を眺めていた。

 このオフィスは東京での活動拠点として新設したものだ。面接やメディア対応など、ちょっとした活動拠点が必要だった。

 ちっさい雑居ビルのオフィスだが、大阪本社の事務スペースより広いのが、少し笑えない。


 本社は今月中に引っ越す予定だ。増えた社員を収めきれない。今はレンタルオフィスに分散して回している。


「おぉ、結構行列ができてるねぇ」


 ラーメンマニアも並んでいる。だが、あまり見たことのないタイプも混じっている。

 列慣れしているのに、ラーメンマニアの空気と違う。

 俺の知らない別の人種だ。


「あれはアキバから来た昼飯難民たちよ」


 横から遥香ちゃんの声がした。いつの間にか戻ってきていたらしい。遥香ちゃんがそのまま説明を始める。


 アキバ――秋葉原。日本最大の電子街。

 この当時は萌え文化はそこまで入り込んでいない純粋な電子街だ。

 電子工作・ガジェットオタクの聖地は甘い蜜で全国から人々を集めるが、致命的な弱点がある。飲食店が足りないのだ。

 店はある。だが土日に押し寄せる人数を捌けるほどではない。

 行列を眺める遥香ちゃんの目には、憐れみすら浮かんでいた。


「というわけで、流れてくるのは当然ってわけ」


 深刻そうな顔でアキバの昼食事情を語る遥香ちゃん。

 なんか、やけに詳しいな。

 俺はそれを軽く受け流して口を開いた。


「なるほど、平日はサラリーマン、休日は秋葉原の難民ってわけなんだね」


 神田神保町は出版社が立ち並ぶオフィス街で、日本最大の本の街だ。

 平日は活発に動くオフィスワーカーが、休日には減る。

 そこを秋葉原からの客で補う――そういう構図だ。


「というか、秋葉原って同じ千代田区なんだね」


 俺は今さら気づいた。


「二ヶ月くらい関東にいたのに敦史くんは何も知らないんだね」


 俺は茨城県の工場からJRの切符で東京に行くことしかできない。

 地下鉄を使えば便利なんだろうが、営団や都営が入り乱れていてよく分からないのだ。

 面倒だから都内は大体タクシーで移動している。タクシーチケットも山ほどあるしな。


 行けるのに、時間がかかる。東京はそんな街だ。

 俺の感覚だと、どうにも散らばりすぎている。

 地下鉄御堂筋線の沿線に一極集中している大阪を見習ってもらいたいものだ。


「あ、開店したみたいよ」


 行列が吸い込まれていく。

 五十席のカウンターが、目の前の行列を一瞬で飲み込んだ。

 事前に券売機で注文を取っていたんだろう。


 これが券売機の力だ。そして圧倒的な提供速度。

 令和のラーメン屋の技術の集大成だ。


「もちろん、行列を処理する能力だけがラーメン屋の本質じゃないんだけどね」


 だけど、それも大事な能力だと思う。

 行列店を作ってる俺が言うのもなんだけど、基本的に行列は嫌いだ。

 公道や他人の敷地を使うことになる。何より客の時間を奪う。


 ウチのラーメンの価格が高いのは、原価が高すぎるのもあるが、並ばせないためでもある。

 そのせいで評判が悪いらしい。けど、供給が足りないなら需要を絞るしかないと思うんだけどなぁ。


 まあ、行列も価格も副次的な要素にすぎない。

 大事なのは結局のところ――味だ。


 俺の作り直したラーメンが東京で、全国で受けるかは、彼らが決めてくれる。

 再びでき始めた行列を眺めながら、俺はそう思った。

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