表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳パンダ
全国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/49

第41話 ガンガン行こうぜ

 俺は湾岸部にあるスープ工場兼本社、その二階で唸っていた。


 幹部会議――と言っても、正社員が集まった会議だ。店を開ける都合で、副店長と母を除いた正社員が全員参加している。


 参加者は、俺、遥香ちゃん、タケシくん、美山くん、それに事務の女の子――武見ちゃんだ。

 ちなみに武見ちゃんは、最近は総務全般を回している、やり手だ。一般の会社でいうなら、総務部長みたいなポジションな。

 たまに爪切りを大量に買ってくるような天然さはあるが、基本的には頭の切れる女の子だ。


 ここにいないメンバーも含めると、社員は八人だ。


「資金は十分なんだから、今のうちに新しくテナントを借りて店を開きましょう」


 相変わらずイケイケドンドンな遥香ちゃんが、東京進出を主張する。


 武見ちゃんも同じ意見だ。というか、遥香ちゃんと仲がいいから、基本的に足並みが揃う。


「カップ麺の宣伝効果を使うなら今ですよ!」


 会社には十分な現金がある。

 さらに追加融資も引っぱれる。

 大和銀行からは、もっと借りてくれという営業まで来ていた。

 決算書を渡している以上、向こうも状況を把握している。


 銀行は晴れている時に傘を貸す、という。

 まさに今がそれだ。

 世間では景気の先行きが怪しくなっているが、ウチのバランスシートはもの凄く綺麗だ。

 日本全体の曇り空の下でも、ウチだけは陽が差して見えるんだろう。


 俺としても関東進出に異存はない。問題は足掛かりだ。


「賛成だけど、セントラルキッチンのコストを考えると一日千杯は出したいんだよな」


 ウチの新しい麺は、それなりにいい製麺機を使ったものに切り替わっている。

 スープの原価も笑えないくらい高い。スケールメリットが効かないと、あっという間に原価が四〇%を超えてしまう。


 都市型の店を出したい。

 ロードサイドもやってみたが、やっぱり都市型のほうが効率がいい。地価の高いこの時代、広大な駐車場を用意するのは簡単じゃない。


 遥香ちゃんは、前から推している賃貸物件の資料を配ってきた。

 中古什器屋は、閉店や居抜きの情報にやたら詳しい。廃業時には什器の取引が必ず動くからだ。


「この店にしない? 一階は厨房とカウンターで二十席。二階もカウンターに改築すれば三十席はいけるよ」


「でも、やっぱ家賃がなぁ」


 五十坪で月百五十万円。駅から徒歩五分ほどで、前は居酒屋だったらしい。

 遥香ちゃんは熱弁を続けている。


「ウチは調理スペースが少ないから、重飲食扱いをギリギリを外せる。なかなかこんな良い条件はないよ!」


 什器で七百万円ちょっと、改築で千七百万円。

 敷金と権利金が十二か月分で――初期費用は五千万円ってところか。


「金は問題なく引っぱれる。問題は人員だよな」


 美山くんがチャンスを逃すまいと勢いよく手を挙げている。


「僕、店長やりたいです!」


 彼は関西にあまり愛着がないみたいだ。

 一人確保できたのは嬉しい。だが、他のメンバーを見渡しても誰とも目が合わない。


 さっきまで遥香ちゃんと一緒に勢いづいていた武見ちゃんも、急に目を逸らした。


「美山くん以外がなあ。バイトの応援は関西から出せない。スープ工場の人員も一から集めないといけないし」


 まあ、とりあえず関東に店は出すか。

 最悪の場合でも、関西からスープを運んでも赤字にはならない――そんな試算も出ている。


 その会議では、さらに大阪市内の駅前に小型店を三店舗ほど出すことも決まった。

 俺は経営リソース的にあまり乗り気ではなかったが、遥香ちゃんが直轄で何とかしてくれるらしい。

 相変わらずイケイケ経営だ。


 まぁ、俺は、あんまり経営者らしい仕事はしてないしな。今日もカップ麺の新作を試作してただけだし。

 彼女がやりたいなら好きにしてもらおう。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 会議終わりに武見ちゃんが思い出したかのように言った。


「あ、社長。お中元でカップ麺が大量に届いているんですが、配ってもいいですか?」


「あぁ、別にいいけど、配るほどあるの?」


「朝届いたんですけど、保管場所に困ってて」


 へえ。そういや、通用口の外に段ボールが何個か放置されてたな。あれ全部がお中元だったのか。


 一階から運ばれてきたのは、馬鹿みたいにでかい段ボールだった。

 側面には、でかでかと『日露食品』の文字がある。


「えぇ、日露さんから送られてきたの……?」


 日露食品は、カップ麺でコラボしている前橋食品のライバルメーカーだ。


「あと、同じ段ボールが四箱あるんですよ」


 嫌がらせだろうか。

 いや――BtoBの贈り物としては普通の量だ。

 たぶん向こうは、ウチの本社の狭さを知らない。


 この会社は世間的な知名度はあるが、本社の実態としては倉庫すらまともにない中華料理店の二階だ。

 本社機能は、そのうち移転する予定だ。だって、さっきの幹部会議だってかなり狭かった。


 遥香ちゃんが『そういや……』という顔で言った。


「この前、西中島にある日露さんの本社に行ったけど、日露さんはウチとのコラボ、まだ諦めてないみたいだったよ」


 まぁ、そうだろうな。俺を前橋食品から引き剥がすだけでも、日露食品としては大儲けだろう。


 ライバル会社の多種多様な袋麺やカップ麺が箱から出てくるのを見ながら、量を嘆けばいいのか。

 あるいは、この程度の段ボールで身動きできなくなる本社の狭さを嘆けばいいのか。

 俺は小さく天を仰いだ。


 ちなみに大量のお中元は各店長が箱ごと持って帰り、バイトに配りまくったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ