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父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳パンダ
躍進

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第29話 ブラック企業爆誕

 新店舗は、順調にいってるように見える。

 開店から二週間。最高の日は一日1600杯売れ、平均も想定以上だ。遥香ちゃんのテンションはかなり高かった。


「今月の売上は4000万円行きそう!」


 売上はかなりの額だよなぁ。ざっと計算すると、営業利益は1500万円ほどになる。内訳はこうだ。

 人件費は600万円、原価は1300万円、光熱費・廃棄費・賃貸料などは300万円。消費税(仕入税額控除後)は90万円ほど。

 さらに固定費として、建物と厨房(計約1.5億円)の減価償却も乗る。月に90万円弱だ。


「初月からここまで来ると、なんか悪いことが起きないか不安になるなぁ」


 俺はそう呟きつつ、遥香ちゃんの計算表をもう一度見直した。そこには減価償却まで織り込まれている。

 ちなみに減価償却というのは、高い買い物をした時に一気に支出として計上するのではなく、何年かに分けて支出したように記載する会計上のやり方だ。

 例えば、1.2億円の建物なら20年間かけて計上する。0.3億円の厨房設備なら7年だ。

 このあたりの処理も、遥香ちゃんが全部織り込んでいる。


 それでも、ボロ儲けに近い。席数が多いとはいえ、ここまで売れるラーメン屋はなかなかない。


 ただし、順調に見えるのは売上だけだ。遥香ちゃんがまとめた券売機の記録に目を通すと、店の歪みが見えてくる。


「なんか、変な店作っちゃったなぁ」


 1600杯も出て黒字ラインは余裕で超えている。――なのに、数字の中身はいびつだ。


 別の資料を読んでいた遥香ちゃんが、ぽつりと呟いた。客層をホールスタッフが記録した資料だ。


「ファミリー層、全く来てないね」


 そう、狙いの一つが完全に不発だった。


 問題点その一。テーブルを用意したのに、全然使われていない。ほぼ相席用のカウンターとしか使われていない。

 40席あるのに、カウンター代わりに使うと実質20席分になってしまう。ファミリーでラーメンに来るという習慣がないのかなぁ。

 このあたりはキャンペーンを打ってテコ入れが必要だろう。


 別に致命傷ではない。……問題はむしろ、時間帯だ。


「トラックドライバーしか来ないのが悪いわけじゃないんだけど、深夜がすごいし」


 券売機の記録によると、18時から朝3時まで大忙しだ。ほぼ常に待機列ができている状態だ。

 その後はいったん落ちるが、5時台からまた来客数が戻ってくる。そう、早朝もかなりの来客がある。


 遥香ちゃんはため息をついた。


「ランチタイム、酷いよねぇ」


「店長からも、暇すぎるからなんとかしてくれって苦情が来てるんだよなぁ」


 「ランチが酷い」。店長の苦情も同じだった。14時から16時の稼働率は30%。昼が死んでいる。

 なんだこの変な店。あまりに極端すぎる。


 原因は単純だ。客がトラックドライバーに偏りすぎている。

 長距離を走るトラックドライバーは、昼間は仕事をしている。昼メシは適当にコンビニで済ませてしまう。


 ここまで売上が偏ると、頭が痛い。致命的なのは人繰りだ。シフトが組めない。これは割増賃金の話じゃない。


 しかもウチは女性バイトが多い。この時代は労働基準法に女性保護という規定があり、深夜労働や残業に強い制限があった。

 だから深夜帯に人が寄せられない。結果、女性スタッフは暇で仕方ないのに、男性スタッフは過労死ラインを超えかねないほどのブラック職場になってしまっているわけだ。


 俺も最近は、深夜帯の穴埋め要員みたいになっていた。


「ああ、労働環境がどんどん悪くなっていく……。24時間営業なんて無理だったか……」


「大丈夫! 敦史くんが給料を弾みまくってるおかげで、社員の士気は最高潮だよ!」


 この年の大阪府の最低賃金は523円。

 だが俺はブラック環境へのお詫びも含めて金を出しまくり、深夜の時給(割増込み)は1300円に達していた。

 それが600万円という異常な支出の正体だ。


 士気は保てている。女性バイトが深夜帯に働きたがって直談判してくるのに困っているくらいだ。

 だが、この環境は持続可能ではない。

 金で無理をしてもらっているだけだ。労働環境が終わっている……。

 早めに人材募集をしなければいけない。

 彼女は「今までがぬるすぎたくらい」と呟きながら俺を励ましてくれる。


「遥香ちゃんも、俺の頭痛の種の一つなんだけどね……」


 もう一つ厄介なのが、遥香ちゃん自身だ。俺が夜に新店舗の応援へ出ている隙に、こっそり残業しまくっているのだ。


「えー、でも私、月に50万も給料もらってるし、一割も株もらっちゃったし」


 給料の多い少ないの問題じゃないんだよ……遥香ちゃん。俺は何度目になるか分からない説教を始めた。健康のためでもあるし、法的にも面倒だ。


 労基法の母体保護規定が遥香ちゃんに適用されるかどうかはグレーゾーンだ。管理職への適用は労基署の裁量次第だった。

 それでも彼女の健康に悪い。俺も捕まるかもしれない。いろいろ問題がある。


 遥香ちゃんは笑顔で返事をしてくれた。


「これから気をつけるね!」


 いつも返事だけはいいんだよなぁ。


 そろそろ規模も大きくなってきたので、経理や申告まわりは会計事務所に頼んでもいいかもしれない。というか、頼みたい。

 頼みたい理由は一つ。遥香ちゃんが働きすぎるからだ。愛社精神に溢れすぎていて、歯止めが効かない。


 この時代の人々は俺から見ると、あまりにブラック体質だ。割増賃金を払うだけで大喜びするし、時給をはずめば深夜労働も喜んで行ってくれる。


 そんな空気の中で、遥香ちゃんだけは上機嫌だ。その隣で、俺はずっと憂鬱だった。

 はぁ、問題だらけだ。


 駄目だ、この会社。早くなんとかしないと……。

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― 新着の感想 ―
労働環境が昭和過ぎる…もう平成だけど
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