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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

勇者をやめられなかった男は魔王へとなり果てた

作者:
掲載日:2026/01/06

俺は勇者。

俺は生まれ変わったら木になりたい。

あの堂々と立ちつくし、人々を見守るような木に。

そしてのんびりと過ごしたい。


俺は勇者。

いつまで勇者を続ければいいのだろうか?

いつまでこの無意味な殺戮を続ければいいのだろうか?

魔王はとうに討伐したというのに。

何故人々の言われるままに逃げ惑う非力な魔族を殺さなければならないのか?

だが、勇者という枷を背負った俺にそれを拒否することは不可能だった。

勇者という枷は、確実に俺を蝕んでいった。


俺は勇者...

何のために勇者をしているのだろうか?

勇者となってどれくらい経ったのだろうか?

もう、何も思わなくなった。

ただ、疑問だけがある。

しかし何故かその疑問は俺の心を冒していった。


俺は勇者?

最近は俺を見るなり人々は逃げ出すようになった。

代わりに魔族の一部が俺を崇拝し始めた。

何故だろうか?

俺は人々の言うままに魔族を殺戮していたというのに。


俺は勇者?

勇者を始めて数百年と経った気がする。

人間の寿命はこれ程ではなかった気がするのだが、勇者だからだろうか?

しかし勇者を始めたばかりと比べて闇が心地よなくなった気がする。

気付けば俺の為に暗闇に包まれた城が用意されていた。魔族から。

何故だろうか?

魔族に人を殺すように指示をしていた気がする。


俺は勇者。

魔王と否、先代の勇者と対峙している。

奴からは敵意を感じない。

ただ哀愁だけを感じる。

不思議と奴に憎悪の念は湧いてこない。

救ってやりたいという気持ちすら湧いてくる。


俺は勇者?

俺は気高い雰囲気を纏った黒髪碧眼の青年と対峙している。

彼の視線からは強い意志と物悲しさを感じる。

彼とは会うべくして会った、運命のようなものを感じる。

しかし、彼とは分かりあえる未来が想像できない。

本能的が殺せと命令する。


俺は勇者。

先代は、身動きひとつ取らない。

しかし、こちらを見つめる6つの白い目からは背筋を凍りつかせるような重厚さを感じる。

優に10メートルはあろうかという体躯、緑色に染まった肌、胴から伸びる8本の腕は言い伝えの勇者とは似ても似つかない。

幼い頃憧れたその背中は、そこにはなかった。


俺は勇者?

体が勝手に動く。

俺の右側の腕は眼前の青年を捕らえるべく素早く彼の元へと伸ばされた。

しかし、彼は自信の体の何倍もの高さへと飛び上がり、俺の腕を躱すと4本の腕を切り落とした。

痛みはない。

俺は何故か安堵した。


俺は勇者。

先代の腕を切り落とすと俺は、奴の懐へと走り込んだ。

それを防がんと残りの4本の腕が振り落とされた。

そこには殺意はなかった。

俺は全て躱すと飛び上がり、奴の腕に乗り、駆け上がった。


俺は勇者?

青年が俺の一番上の腕を駆け上がり首元へと迫ってきた。

彼は何か俺に語りかけてきた。

「先代、俺はあなたを解放するために来た。もう苦しまなくていい。楽になってくれ。偉大な勇者よ。そして済まない。俺たち人間のエゴがあなたをこんな姿にしてしまった」

何を言ってるのか全く理解が出来ない。

だが何故だろうか?全身から力が抜け、目からは涙が溢れてきた。


俺は勇者。

目から涙を流し、力なく項垂れる先代の首に剣を振り下ろす。

先代の首は紫色の液体を撒き散らしながら舞い、力なく地に落ちた。

俺は倒れる先代の体から降り、落ちた首の元へと向かった。


俺は勇者だった。

俺の首を切った彼は俺の元に来ると語りかけてきた。

「勇者様、何か言い残すことはありますか?」

今までの人生で感じたことのない程優しく包み込むような口調だった。彼こそが勇者なのだろう。

言い残すことか...

「木になりたい」

薄れゆく意識の中で俺の口からそう発せられたのが聞こえた。


俺は勇者だった。

数十年前、魔王と化した先代の勇者を討ち取った。

彼の最後の言葉は「木になりたい」だった。

だが、俺にその願いを叶えることは出来ない。

代わりに崩れてしまった彼の城があった場所に種を植えた。

今、あの決戦の地には何よりも高い大木がそびえている。

いつも思う。あれは彼なのだろうか?否彼であって欲しいと。彼の人生が報われて欲しいと。

今もそう思いながら、遠い大地にそびえ立つ大木を俺は眺める。

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