メスガキ勇者は俺にだけ
このパーティーには俺とカレン以外に二人のメンバーがいる。
勇者パーティーと言うのにメンバーが少ないのにも理由があり、人数が多ければかかる金額も増えるのだ。依頼達成の報酬は山分けになっており、母数が増えるほど個人の報酬は少なくなる。そうなれば不和が生まれ、魔王討伐どころではなくなってしまう。それに装備の新調やその日の飯すらも怪しくなるとあってはモチベーションが保てない。
そんな理由があってパーティーメンバーが四人しかいないのだ。
「ノックスさん、レイラさん。報告ありがとうございました」
カレンが近寄った後、フランも後を追うようにして残り二人のパーティメンバーの元へと歩いていった。
「待たせたな」
ノックスは大きい身体には不釣り合いな小さい紙をフランに手渡していた。そこに書かれていたのはギルドの印が押された依頼書。無事に依頼の達成がギルドに認められたということだ。
「お待たせしました。カレンちゃんは大人しく待っていましたか?」
「子供扱いしないで。これでも勇者なんだから」
レイラに頭を撫でられながら小さく暴れているカレンをみるとただの子供のようにしか見えない。
子供扱いをするなとカレンは言っているが、フランや他のメンバーからすればカレンはまだ子供。齢も15を超えていなかったはずだ。そんな子供を勇者に仕立て上げ、戦わせていることに思うところがないわけではなかった。
「いやガキだろ」
「そんなガキに守られてるフランくんはなに?赤ちゃんかな?」
レイラに撫でられている隙を見ていつもの反撃を試みたフランであったが返ってくるのはいつもの煽り文句だった。言い返すことも出来ない。
「こら!カレンちゃん。いつも言ってるでしょう?フランくんを煽るようなことは言っちゃ駄目ですよ」
カレンがフランのことを煽るのはいつものことであり、同時にレイラに叱られるのもいつものことだった。
毎回叱られているのに懲りることもなく、フランものことを煽ってくるカレン。
そして――。
「フランもフランだ。なぜ言い返さない」
叱りの矛先はカレンだけけではなく、フランへも向いてしまう。レイラがカレンを叱るのならば、ノックスはフランのことを諭してくるのだ。
「(俺はただ煽られているだけで仕掛けてはないだろ。言い返さないも何も言われたことが事実だから言い返せないんだよ)」
心のなかで自分に対して悪態をつく。その言葉を外に出してしまえば自分の不甲斐なさが皆に伝わってしまいそうで喉から言葉が出ることはなかった。
その姿をじっと見ていたのは諭していたノックスでも叱っていたレイラでも無く、叱られているはずのカレンだった。
「フランくんに言っても無駄だよ。私、本当のこと言ってるだけだしぃ」
「ですから言い方というものがあるでしょう?パーティーメンバーなんだから不和を生むようなことは――」
「ふたりには迷惑かけてないでしょ?私もフランくんにしか言わないよ」
「それなら尚更言わなければいいじゃありませんか」
「んー。それは無理かな」
レイラとカレンは押し問答を繰り広げていた。渦中の中にいるはずのフランは既に蚊帳の外。ノックスと一緒に2人の言い争いを見ていることしか出来なかった。
「今日の依頼での怪我は大丈夫だったか?」
「あんなのかすり傷だよ。俺がちゃんと魔物を倒せていれば何の問題もなかった訳だし自業自得だ」
「守れなかった俺にも責任がある。それは俺の役目だった」
「それを言うなら魔法を使って魔物を倒すのが俺の役目のはずだ。ノックスは他の二人を守ったんだから役目は果たせているさ」
カレンは魔物を殲滅したし、ノックスはみんなを守るように立ち回っていたし、レイラは傷付いた俺のことを治療してくれた。このパーティーの中で何も出来ていないのはフランだけだった。
ノックスの影になっている手を強く握りしめ、自分の不甲斐なさが脳裏に映る。このままではパーティーメンバーに迷惑をかけてしまう事は間違いないとフランは思っている。
「(いっそのこと追放をしてくれれば俺も楽になれるのに)」
フランがそんな事を考えているとは露知らず、パーティーメンバーは依頼の配分もしっかりと四等分し、次の依頼の頭数にフランをいれるのだった。
「ねね。フランくん強くなりたいんでしょ?なんでそんな顔してるの?」
「あっまだお説教の途中ですよ」
レイラと問答を繰り広げていたはずのカレンがフランの元へと近寄ってきた。俯きながら考えていたフランの目線の先には顔を覗き込むように目を見てくるカレンの姿があった。
自分のことを考えるあまり、近付いてくるカレンに気付かず不甲斐ない顔を見せてしまったことでフランは勢いよく顔をあげた。
「別にいつも通りの顔だ」
「いつも冴えない顔してるのにもーっと冴えない顔してるからどうしたのかなって」
「余計なお世話だ」
「ふーん」
フランはカレンからの抱えている劣等感を見通すような目に、視線をそらすことでしか答えることが出来ない。
カレンはフランのことを煽ってくるが、その煽りはフランにとっての課題を突きつけてくるようなものが多いのだ。
「ま、フランくんが強くなっても強くならなくても私のほうが強いことには変わりないし」
「カレンちゃん。そういうことばかり言ってフランくんに構ってもらおうとするのは良くありませんよ」
「何言ってるの?フランくんに構ってもらおうなんて――」
フランはカレンに言われたことが脳内を駆け巡る。パーティのためを思って強くなろうとしている自分と、自分の実力が上がった程度では何一つ揺らぐことのないパーティの戦力。
何のために強くなろうとするかを考えても、他人に迷惑を掛けないようにすると言う他人が主体の考え方であり、フランは怖気づきながら他人の顔色を伺うことでしかパーティに居ることが出来なかった。自分に自信を持つために強くなりたいと心の内では思っていた。
「フラン」
「なに?ノックスさんも俺のことを煽るの?」
ノックスはフランの見当違いの言葉に呆れながらため息を吐いた。
「カレンはああ言っているが気にするな」
「気にするなって言われてもさ、無理だろ。そんなん」
「ああいう子供は案外言っていい相手と悪い相手を弁えている。俺やレイラに対してはフランに言うような言葉を投げかけてきたことはない。何故フランに対してだけあの対応をしているのか分からないが嫌われているという訳ではないだろう」
「単純な話、俺を下に見てんだろ。舐めてるからあの態度だ」
「曲がりなりにもあいつは勇者であり、パーティリーダーだ。口では悪態をついているがフランを見捨てたことなど一度もありはしない」
ノックスに言われずともフランは自分で気付いている。戦闘になった時も、他のパーティに絡まれた時もカレンは俺のことをかばう。そして相手が居なくなったら俺のことを煽ってくる。
正直フランにはカレンの真意が何一つとして分からなかった。本当に勇者だから弱いフランを守っているだけなのだろうか、はたまた何か目的があるのか。
「そんな事、分かってるよ」
「年上として適度に流すことも大切だということだ」
「人生の先輩からの意見どーも」
カレンはレイラからのお説教が思いの外辛かったのか、先ほど見たときとは違い目に涙をうっすらと浮かべていた。いつもよりも頭が低い位置にあると思えば、ギルドの床に正座させられていた。涙を浮かべているのは足のしびれもあるのかもしれない。
レイラはチラチラとフランの方を見ていたらしく、偶々フランと目があった時には助けを乞うように何度も目配せをしてきた。
元はと言えばフランに対して煽り散らかしてきたカレンが悪いのだ。しかしノックスは全く動かずレイラもお小言をやめる気配がない。
ギルド内のため周りの目も多いこの状況をどうにか出来るのは俺しかいないのだ。
「レイラさん。俺は気にしてないのでそろそろカレンを解放してあげてください。周りの目も気になりますので」
フランはレイラに近寄ってカレンの解放を提案した。希望の糸を垂らされたようにカレンは目を輝かせてフランの方を見つめる。
「フランくんが良いのでしたら今日はこの辺で止めておきます。止め時を見失ってきたので助かりました」
「またこいつが何かやらかしたらその時は再度説教をしてください」
「ええ。必ず」
カレンにとっては死刑宣告とも呼べる約束を取り付けると、足が痺れて動けないカレンの手を引いて立ち上がらせる。
「取り敢えず今日は解散でいいですか?」
「問題ない。また明日いつもの時間に」
依頼が終わったすぐに解散する。それぞれが1日の残りの時間を好きに過ごせるようにと決められたパーティーのルールだ。
ノックスとレイラはそのままギルドから出ていく。勿論ふたりがその後何をしているかは全く知らない。
カレンはスカートについた埃を払うように衣服を叩き、服装を軽く直してからフランに向き直った。
「助けるのが遅い!」
「助け舟出しただけ感謝してほしいわ」
「それはありがと」
「んじゃ解散で」
カレンに挨拶をしてギルドから出ていこうとするフラン。この後の予定は特にないため宿に帰って惰眠を貪る程度。何を食べようかと考えながら歩き出そうとするとカレンから声がかかる。
「あ、フランくん」
「なんだよ」
「明日の依頼、フランくんの魔術で頑張ってもらう奴受けるから」
「は?」
明日からもカレンからの嫌がらせがフランを襲うのだ。
メスガキってイキって良い相手とそうじゃない相手を見極めてると思います。だからガキなんです。




