メスガキ勇者に俺は負けない
短編です~
この世界には魔王が存在している。
魔王がいればそれを討伐する勇者もいるわけで、魔術師の青年フランも一つの勇者パーティーの一員だった。
他のメンバーは、タンクのノックス。
こいつはガタイが大きく寡黙だが、パーティの要になっている。後衛が敵を攻撃するために、相手の注意を引いてくれたり、攻撃から守ってくれたりする。
次にヒーラーのレイラ。修道服に身を包んだ教官で働いている修道女だった。
前衛である勇者が傷ついた時などに活躍してくれるのだが、専ら怪我をするのはタンクであるノックスか魔術師であるフランだった。
そして最後に。
「えー。フランくんまた怪我しちゃったの?後衛にいて守られてるだけなのにー?」
このパーティで勇者をやっているカレン。
風貌は魔術師の胸くらいまでしか無い身長に、発育が止まってしまったような体つき。
今も身長の高いフランを見上げるような形でニヤニヤと笑っている。
「仕方ないだろ。お前の打ち漏らした魔物がこっちに来たんだから」
「いつもみたいにノックスさんに守ってもらえなかったの?よわよわだから鍛えられちゃったのかな?」
「うっさい。ノックスさんはレイラを守ることに集中してたんだよ」
「じゃあフランくんひとりぼっちじゃーん。一人だとよわよわなフランくんはすぐに私に守られに来ちゃえばよかったのにー」
この場にはフランとカレンしかいない。
他の二人は今日の依頼を達成した旨をギルドに報告しに行っている。
勇者パーティーとは言えど地道に依頼をこなして功績を積んでいくのが重要だ。この世に魔王が1体しか居ないとはいえ、勇者が一人しか居ないとは限らない。この街のギルドだけでも勇者パーティーは5つ以上あるのだ。その中でいい評価を貰うことで初めて国から魔王討伐の依頼が降りてくる。
「俺も、ひとりで戦えなきゃ。勇者パーティーの一員として足手まといになりたくない」
「フランくんは今のままじゃ足手まといだもんねー。でもでもフランくんにもいいところはあるよ」
「いいところ?例えば?」
フランが落ち込んだ様子で自分の不甲斐なさを投げていているとカレンはすぐにフォローをしてきた。
「んー。えーっと。んー」
小さい体でフランの前をウロウロと歩きながら必死に考えていた。普段自分を小馬鹿にするカレンから良いところがあると言われた時には少しだけ浮かれてしまったフランは考え込むカレンに不安感を募らせてしまう。
「ごめーん。すぐには浮かばないや」
カレンは考えるのをやめてにやにやと僕の方を見てくる。からかわれていることに気付いたのはその時だった。
「また僕のことを誂ったな?」
「だってフランくんを誂うと表情がコロコロ変わって面白いんだもん。でも私とお話してくれるのは良いところかも」
「そんなの他のパーティーメンバーも一緒だろ」
「そう言えばそうじゃん。じゃあフランくんにはいいところ無いかも」
ギルドの隅で繰り広げられているフランとカレンの問答はもはや名物となっていた。
特徴もない青年と子供にしか見えない小柄な勇者が仲睦まじく話しているように周りからは見えているのだ。少し近づいて話を聞けば、青年がタジタジになるようなからかいの言葉を勇者が投げかけているだけなのだが。
「はあ。魔法も普通程度にしかつかない僕がなんで勇者パーティーなんかに……」
フランは元々一人で雑用の依頼をこなしていた。ギルドで休憩している時にカレンから勇者パーティーへの誘いが来て了承した。その時は自分が勇者パーティーに加入できることに喜び勇んで参加してしまったが、勇者パーティーは猛者の集まりで実力のない自分が浮き彫りになってしまう。
「フランくんはよわよわだからこのパーティーに入れるんだよ」
「は?どういうことだよ」
フランが寄りかかっている壁に横並びになるようにフランも寄りかかる。カレンが目の前から居なくなっても、フランの見える景色はほとんど変わらない。
それなのに、横にいれば勇者としての存在感を感じてしまう。どんなに小さくて、フランのことをからかっていてもパーティメンバーのカレンは勇者なのだと実感してしまう。
「勇者って弱い人たちを守るのが使命だってママが言ってた。だからパーティメンバーに雑魚のフランくんがいることでみーんな力が出せるんだよ」
「じゃあ俺じゃなくてもいいじゃねーか」
「そ。誰でもよかったの。でもずっとパーティーを組むと信頼とか信用とか色々大きくなるでしょ?今はフランくんしかパーティーメンバーは考えられないかなー」
この問答は今回が初めてではない。フランは自分の不甲斐なさを感じる度に考え込んでしまい、何かがある度に弱音を吐いては誰かに慰めてもらっている。
嫌悪感を抱いているが中々抜け出せないまま今に至っているのだ。
「カレン……。でもそれで俺が死んだら元も子もないだろ」
フランが下を向きながら弱音を吐くと、横にいたカレンから腰のあたりを指で突かれた。強くない可愛らしい攻撃は擽ったさを感じたが、カレンに呼ばれた合図だと理解しカレンの方を向く。
面倒くさい男の弱音を聞いたカレンだったが、いつもと変わらない人をからかうような表情でフランのことを見あげていた。
「フランくんがよわよわで雑魚でも死なないよ。ノックスさんもいるしレイラさんもいる。それにさいきょーな勇者のカレンちゃんもいるからね。死にそうになったら私を盾にしてもいいよ。全部蹴散らしちゃうし」
自信満々なカレンはそれに応じた功績を挙げている。僕はカレンが怪我をしたり、負けたりするところをパーティーに入ってから一度たりとも見ていないのだ。自由奔放に戦っているようで相手をしっかりと殲滅し、被害もほとんど出さない。
今日カレンが魔物を打ち漏らしたのも、フランが魔法を発動する準備が整ったのを確認してから、既に弱らせた魔物を僕の方へと向かわせただけなのだ。その結果、魔法を外して怪我をした。
その魔物は片手間のようにカレンが処理してくれた。
「それでも俺はもっと強くなりたい」
「そうだよね。おっきいお兄さんがこんなに小さい女の子に守られてるのはダッさいもんね」
「ぐっ……。人が気にしている事を……」
前方からギルドに報告を終えたノックスとレイラが戻ってきた。
「ま、強くなりたいなら良いと思うよ。フランくんに出来るかは知らないけどね」
クスクスと笑いながらカレンは戻って来るふたりのパーティメンバーの元へと駆け寄っていった。
フランの半分程しかない歩幅だが、実力としての距離はとても遠く感じてしまう。
僕のことをからかってくるが、ちゃんと世話を焼いてくれる小さな勇者に聞こえないように独りごちるのだ。
「あのメスガキ勇者……。絶対見返してやる……」




