4・違和感
「ふむ。出来ん事はない」
翌日、次のクエストを決めるために集まり、ノルムルに着装型ゴーレムについて聞いてみた。
「本当か!」
「ああ、ドワーフには居ったぞ。鍛冶ではなくゴーレム使いだったからと、金槌を持たずにゴーレム錬成で武具を作り、扱う奴がな」
なんだ、既に居るんじゃないかと俺は半ば呆れ、そして期待した。
「じゃが、鎧と同等の重さが意思に従って自由に動くのは、着る者には負担が大きい。魔法剣の様な付与術を施した武器程度の効果しか出せとらんかったの」
それなら豪傑や剣豪の方が上ではないか?
「仮にお前さんがそんな鎧を着込んだとして、脚が潰れ、腕が折れ、体もかなり痛めるだろうのう。ドワーフでさえ、普通に鎧を着込む何倍も疲弊しておったからのう」
ノルムルより遥かに年上のそのドワーフは、既に引退して普通のゴーレム使いとして余生を送っているらしい。
結局、俺の予想通りの結果しか残していなかったのかよ・・・
「これと言って依頼は出てないみたいね」
ガラドミアがそう言ってやって来た。
S級にもなると、依頼毎の報酬額もとんでもないが、そんな依頼が毎日の様に出ているはずもなく、大迷宮都市ビルゼンですら、良くて月にひとつ程度。小さな迷宮だと数年に一度という事もある。
俺たちパーティーもそれを見越して周辺迷宮の依頼まで調べ、どの依頼を受けるかを決めるのだが、あいにく、今は不作であるらしい。
そんな時は、ノルムルなら鍛冶をやり、ガラドミアはエルフらしく森での間引きなどで時間を潰している事が多い。
ターヤはギルドの依頼で年少冒険者に迷宮について教えている。
マタザは暇さえあればマツとイチャついており、そろそろ三人目ではとの噂がある。
この夫婦、どこまで驚異の記録を伸ばすつもりだ?
俺も、暇な時はソロで鉱石が出る迷宮で鉱石漁りをする事が多い。
「なら、しばらくは様子見か。10日くらい空ければ、どっかでS級依頼も出るんじゃないか?」
俺がそう言えば、すぐに受付けへ向かおうとするマタザ。
「待ちなさい。話は終わってないでしょう」
すかさずガラドミアが制止し、話の続きを促して来る。
「10日間は自由で良いとして、何か集める物とかは?」
パーティーとしての活動は無くとも、それぞれの活動場所で採集出来る鉱物や薬草などの材料、或は今後に繋がる情報など、必要としているものがあれば共有しておく。
「ジャン、鉱石拾いに行くなら、ミスリルを分けてくれんか」
ノルムルがいつもの様にそう言って来る。
「はいよ」
そして、互いに情報共有し、解散となった。
それから俺は、鉱石拾いに向かうため、ゴーレム共々、ゴーレム車に乗る。
何を言ってるのか田舎者には分からないかも知れないが、ゴーレム輸送ギルドがビルゼンと周辺迷宮を結ぶ輸送事業を行っており、完全武装の冒険者やゴーレム使いを駅馬車よろしく、各迷宮まで運んでくれる定期便を運行しているんだよ。
ゴーレム使いは戦闘センスが無くとも、この様な働き先が存在する。
何なら生家を離れる事なく、牛馬の代わりにゴーレムで畑を耕す者もいるらしい。
だからこそ、ゴーレム使いは万能なのである。
鉱山迷宮はビルゼンから北西に輸送ゴーレムで半日、鉱石商会なども集まる街となっている。
鍛冶師も多く、ゴーレム使いも多い。
「適当に鉱石拾いだ」
俺はギルドでそう申請して迷宮へと入る。
今回連れてきたのは斫り師というゴーレム。その名の通り、迷宮から鉱石を削り、或は徘徊する鉱物ゴーレムを削る。
適切な冒険者ランクは概ねC級と、敷居の低い迷宮とあって人が多い。
「ほら、とっとと歩かせろよ」
スキルを覚えたてなのだろう、ゴーレム使いらしい少年が覚束ない足取りのゴーレムを何とか歩かせている。ここではよく見る光景だ。
中には自ら背負子を担いで鉱石拾いに入る者もおり、入り口の混雑はビルゼンの大迷宮を遥かに凌ぐ。
まだ昼を回ったくらいの時間のはずだが、出てくる人もそれなりに多い。
この出入りの多さが他との決定的な違いだろう。
ハズレのロックゴーレムに当たると時間ばかりを食うが、アイアンゴーレムに当たれば、その一体でその日の仕事を終えて良いほどの稼ぎになるというのがその原因だ。
中には複数の荷役を連れ歩く鉱石商人なんかも迷宮に入っており、彼らは鉱脈やゴーレムに当たる毎にそれを持った荷役を外へ向かわせたりする。
そんな賑わう入り口で、ひとりの少年が空間拡張行李らしき物を背負って出てきた。
内容量がそれなりにありそうな行李を背負っているのに、まるで重さを感じさせない足取りに、強化魔法使いかと思ったが、どうも違う気がした。
「おじさん、何?」
俺をおじさんだと?まだ20代の若者に向かって失礼な奴だわ。
「いや、重そうな行李を背負っている割に、足取りが軽いと思っただけだ」
本音を隠し、そう返事をする。
「軽くはないけど、別に平気だよ」
強化魔法使いなら、自然な動きで行李を担ぎ直したりするが、如何にも重い物を担いでいる様な仕草を見せている。が、その割に、それを感じさせない姿勢に違和感が半端ない。
「おじさんの推測通り、僕は強化魔法使いじゃないよ。ゴーレム輸送ギルドのゴーレム使いなんだ。これでも」
俺がゴーレムを連れているからだろう。彼はそう胸を張る。
「ゴーレム使いが自分で運ぶなんて聞いたことも無いがな」
「うん、普通なら居ないね。あ、行かなきゃ、じゃあ!」
彼はふと後ろを見て、そそくさと歩き出す。その歩みはどう見ても自然だったが、それが逆に違和感に繋がっていた。




