３・出来ない理由
査定を終え、報酬を得た俺たちは酒場で食事を行う。
と言っても、今日は昼過ぎに帰って来たので少々時間が時間で周りは閑散としているが。
「かー、仕事明けの一杯は美味いのう」
ノルムルが早速グイグイやっている。大体コイツは酒とツマミがあれば事足りる。それもだいたいがキツイ蒸留酒に枝豆である。
「ドワーフって、どうしてアレで大丈夫なのかしら」
ガラドミアが呆れた顔でそう言い、ターヤが我関せずチビチビ飲んでいる。
マタザはと言うと、マツが心配なのか受付に付きっ切りのようだが、あれは邪魔にしかなっていない。あ、怒られてこちらへやって来る様だ。
俺も注文したエールと豆のスープを口にする。
そこへマタザがトボトボやって来た。
「邪魔だって・・・」
誰がどう見ても邪魔でしかない行為をマツに咎められ、しょんぼりしている。
「マスター、骨付きとエール！」
の割に、ガッツリ行くらしい。大体コイツは、この後に皿に残った肉汁に白米を載せて食うのがいつものパターン。
いつもと変わらないこのスタイルに、俺だけが納得できない。
「何で俺だけなんだよ！」
皆がハァ？と言う顔でこちらを見る。
いや、ノルムルは我関せずで何杯目だかを煽り、枝豆を食っている。
「お前は何を言ってるの？」
ガラドミアが呆れてそう聞いて聞いてくる。が、その手には揚げ物がある。
「いきなり何？いつもの発作ぁ？」
ターヤがそう聞いてくる。
「うまいぞ、お前も食えよ」
マタザも割と気にしていなかった。
「何でお前ら、そんなに染まってんの？」
「いつもの事だけど、一体何が不満なの？」
そりゃあ、肉をあまり食べないエルフにはそうだろうさ。
「ジャン、アンタの拘りって自国料理に対してみたいだけど、今食べてんのって、中央諸国の豆スープじゃん？だいたい、エールの時点で間違ってるし。ワインどした～？」
ターヤが痛い所を突いてきやがる。
ここのワインはマズいんだからしょうがないだろ。口が裂けても言えんが。
「だいたい、食えたら一緒だろ。金持ちじゃねぇんだから」
割と高級な骨付き肉を食いながらマタザがそう言う。確かに、ギルドの酒場に求める事じゃないのは分かるんだが、なんでこうもレパートリーが多いんだ？いや、多すぎるんだ？
あのマスター、いつも「あるよ」って何でも出してくる。ドコで仕入れてるのか謎だ。第一、ガラドミアが食ってるテンペとかいう揚げ物、たしか東南熱帯地方の食いもんなんだろ？なんで知ってんだ？あのマスター。
「どうでもいい事を気にし過ぎよ？だからゴーレム使いなのに、自分で戦いたがるんでしょうけど」
ガラドミアの呆れかえった言葉に何も言えねぇ。
が、出身地と真逆の料理を知ってたコイツも何なんだと思う。
結局、ギルド酒場の謎具合にいつも通りはぐらかされた俺は、未だ夕暮れには遠い家路をトボトボと歩いていた。
ゴーレム使いの欠点は、簡単に宿に泊まれない事だ。
冒険者御用達であっても複数のゴーレムを置ける倉庫など備えていないし、整備する場所などもちろんあるはずもない。
必然的に倉庫を備えた家を借りる必要が出てくる。
ゴーレム使いのメリットは、ゴーレムさえ作れて操れるならば、仕事に困らない事だろう。整備さえすれば飼い葉も不要な荷駄が出来上がるので、いくらでも仕事の引き合いがある。
そこから戦闘用ゴーレムを操れるかは、センス次第だが。
「あー、酔った勢いで何を書いたんだ？俺は」
翌日目覚め、自分が昨日書いた訳の分からん走り書きに頭を悩ませる。
なにせ、酔った勢いでの事、余りに意味不明な発想の数々が書き連ねられている。
まず、搭乗型ゴーレムなんてのは却下。迷宮は下層に行くにしたがい複雑さを増すため、上層でしか使えない騎乗タイプなんて、いくら便利でも有り得ない。
「いつもの事だよなぁ」
書き殴りを眺めながら、これが今回だけの話ではないとため息が出る。
自身に戦闘センスがあり、ソロで迷宮に挑んでいるうちにC級に上がった。
普通は荷物持ちから始めるゴーレム使いがソロで上層を席巻。
話題にならない方がおかしい。
だが、やっかみも相当にあり、特に「ゴーレム使いなんて実力じゃない」という嫌味を散々に聞かされ、今度は自分の戦闘能力を身に着けていった。
そんな時、迷宮巡りをやっていたノルムル、ガラドミア、ターヤのパーティーに出会い、仲間に加わり、国を出た。
その後、中央国家にある大迷宮都市ビルゼンに腰を据え、今があるのだが、S級になった今でも、俺に「実力じゃない」という噂をする声が耳に入る。
だから自分で戦いたいのだが、いつも堂々巡りの考えしか浮かんで来ない。
「騎乗ゴーレムなら万能なのは確かだが、迷宮下層じゃなぁー、ん？」
そして、もはや判読不能に近い文字で書かれたソレを見つける。
「鎧型ゴーレム？ま、誰もが考えるが、ゴーレム使いしか操れないんだから実用性が・・・、あ、俺が着るのか。なら、イケるか？」
誰もが一度は考える鎧型のゴーレム。人間が着込んで動かすという発想だが、実現したって話は聞いたことがない。
泊まりのクエスト明けの休日という事もあり、俺は鎧型ゴーレムの試作品を作る事にした。
「カタチはともかく、これで動けたら成功だ」
ノルムルの鎧みたいな造形美なんて皆無。単に可動部をどうにかした箱を組み合わせただけ。
先ずは脚部に足を突っ込み、胴を被る。
「重い・・・、これは動く以前の問題だな」
まさか総ミスリルで作る訳にも行かず、ゴーレム鋼で作ってみたが、ノルムルじゃあるまいに、動けやしない。無理にゴーレム化して魔力で動かしたら、俺の体が無事では済まない。
「ダメだこりゃ。装置型ゴーレムが世に出ない訳だぜ」
せっかくの休日を無駄使いしてしまった。
「ころから豪傑の整備かよ〜」
やべー
