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1・突撃!

「防げ、豪傑!」


 ヒュドラがブレスを吐く兆候を見せたので、俺はそれを防ぐために豪傑へと命じた。


 豪傑は俺の命令を受けてシールドを展開し、吐き出された毒のブレスを防ぐ。


「ジャン、よくやった!」


 東方の鎧、甲冑を着込むマタザがそう声を上げると頬面を着け、自慢の槍を振るいながらヒュドラへと突貫していく。


「待たんか、このイノシシ武者!」


 それを追いかけるようにドワーフらしい重厚な鎧を着こむノルムルが軽快な足取りでそれを追う。


「よし、俺も!」


 そう言って追いかけようとしたのだが、一歩も踏み出せない。


「アンタは後衛、何回言えば分かるの」


 振り向けば、エルフの弓使いガラドミアが呆れた顔で俺の襟首をつかんでいた。


「離せ!ガラドミア!俺も必殺の剣を奴に浴びせるんだ!」


 俺がそう訴えるが、隣に影が寄って来る。


「またまたぁ~、ジャンの必殺剣は剣豪でしょうが」


 ヤレヤレと俺にそう言って来るのは斥候のターヤである。剣豪は俺の攻撃型ゴーレムの名だ。


「今日は豪傑で皆のガードをしてるんだ、剣豪なんか出せるわけないだろう!」


 俺はターヤを睨みながら藻掻くが、ガラドミアの力から逃れることが出来ずにいる。


「じゃあ、ジャンの役割は前衛じゃなくタンクじゃない?」


 ターヤがコテンと首を傾げながらそんな事を言って来る。


「何を言ってるんだ。俺はオールラウンダーで万能ゴーレム使いだぞ。当然、俺が突っ込んで勝負を決めるに決まってんだろ!」


「ジャンの武器は剣や槍ではなくゴーレム。ジャンが突っ込む必要も、前衛で振り回す武器も持っていないじゃない」


 すかさず反論してくるガラドミアであるが、俺はそこらの軟弱ゴーレム使いとは訳が違うのだ。自身の力も当然把握している。


「そりゃあ、ジャンは単体でC級だけどさ、ヒュドラはS級モンスターだし、アタシらってS級パーティじゃん?」


 ターヤまでもが俺を否定してくる。


 確かにこいつらほどの力はないが、ゴーレムの支援下であれば、俺だってやってやれないことはないはずなのだ。


 だが、ガラドミアが俺を離さないので前へ出る事は叶わず、ヒュドラの首はマタザとノルムルによって次々と落とされていく。


 すると、不意にガラドミアが俺を離し自由になったのだが、その理由が察せられたので飛び出していくことが出来ない。


 案の定、首を落とした二人もヒュドラから離れる動きを見せている。


 そこへ、ドンという音を発して矢を放つガラドミア。


「終わりね」


 ガラドミアが確信したように呟けば、首を失い蠢くヒュドラの胴体へと矢が吸い込まれ、再生しようとしていた首の動きがピクピクと痙攣したかと思えば、停止した。


「いやー、見事なもんだのう」


 ノルムルが豪快にそんな声を上げ、マタザはヒュドラの胴体へと飛び乗り、早速魔石を取り出そうとしている。


「俺だって出来るんだ!」


 そう叫んでみたが、誰もその言葉を聞いてくれる奴は居なかった。


「ジャン、頼む」


 マタザが俺の言葉などまるで聞かずに魔石を投げ渡してくる。


「はいはい」


 おれはそれを受け取り、豪傑の背中にある行李へと放り込み、素材を切り分けているみんなの元へと向かった。

 拡張機能を付与してある行李は、ヒュドラ程度でも十分収納することが出来る。


「なあ、その機能を袋とかに付与できないのか?」


 マタザがいつものように聞いてくるが、俺が答えるまでもなくノルムルが口を開いた。


「付与ならワシやガラドミアでも可能だが、入れたモノの重量軽減が出来んじゃろう。収納できたとして、誰が袋を持つんだ?」


 そう、拡張機能は付与術が使える者なら誰でも作成出来るが、それで作ったマジックアイテムであっても、モノを入れれば重量はそのまま掛かって来るので負担が変わる訳ではない。

 いくら収納量を増やしたところで、持てなければ意味をなさないのである。


 こうして、深層からゴーレムの行李にヒュドラを収納した俺たちは外へと向かう。


「ジャンのスキルは便利で良いな。いっそ、俺たちも運んでくれよ」


 槍を担いだマタザがそう言って来る


「迷宮でどうやって大型ゴーレムを動かすんだ。お前専用のゴーレムなんか作らん。誰が動かすんだ?」


 迷宮は広い所は広いが、通路部分は場所によって人がひとりようやく通れる程度に狭まっているため、あまり大きなゴーレムは持ち込めない。出来る事なら俺だって、歩くよりも馬型ゴーレムで移動したいさ。

 それに、ゴーレムだって万能ではない。ゴーレム使いが自分の意志で動かしているので、操作できるのは1体が基本。索敵専用の虫型ゴーレムなどの小型ゴーレムなら別で動かせるが、アレでは斥候の代わりにもならない。所詮は斥候の持つ探知スキルの下位互換でしかない。わざわざ斥候が居るのに使うのは力の無駄使いだ。


 ゴーレム使いには夢がある。意思を持って自動で動くゴーレムであるとか、ゴーレム使いに依らず、誰でも動かせるゴーレムを作る事だ。

 そうなれば、生活が便利になり、ゴーレム単体で迷宮探索が出来るので地位が向上するだろうと、怠けた考えを持つ者が多い。

 が、俺はそんな夢には断固反対だ。他のスキル持ちが自らの力で剣や槍を振るい、弓を引いて魔法を放つように、俺は自ら剣を振るって前衛として活躍したい!


「便利な道具作りはワシらドワーフの夢でもあるがのう。中々技巧だけでは上手くいかんわい」


 ノルムルも俺の思いを察したのか、そう言ってマタザを嗜める。



※空間拡張魔法はあるが、質量保存の法則は無視できない世界なので、マジックバックは作れても、拡張すればするだけ重たくなって扱いにくいモノが出来上がる。そんな便利なようで、少々不便な世界なのであった。

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