第4話:提案と葛藤
クレアの警告後の沈黙は、重く息苦しい覆いのように部屋を包んだ。
かつて白檀と怒りの香りで満ちていた空気は、今は灰と恥辱の味がした。
私は、アーミル聖父は、彼女たちの目を見ることができなかった。前腕にはまだ、クレアの蹴った正確で衝撃的な一撃からの痺れが残っている――、それは、私を焼き尽くす屈辱よりもはるかに痛くはないが。
私は暴力を振るおうとしていた。自分の聖堂で。その考えだけで胃が締め付けられた。
クレアの言葉は、脅しとしてではなく、壊滅的な診断としてこだましていた:
「あなたはもうその違いを見分ける能力を失ったんですの?」
文明人と野蛮人との。聖職者と粗暴な者との。
私はゆっくりと、 意図的にに息を吸い、肩の力を抜くよう自身を強制した。
ほんの少し前まで拳だった手を開き、磨かれた低いテーブルの表面に平らに置いた。その身振りは降伏のように感じられた。
「…申し訳ない」
私は言った。
言葉は舌の上で異質で厚く感じられた。
私はテーブルに向けてそれを発し、ジュリエットを見ることができなかった。
............
「それは…ふさわしくない行為だった。許してくれないか?」
その告白は私にすべてを費やさせた、しかし、それは私が提供するために残っていた唯一の通貨だった。
私が危険を冒しそうになって丸く収まった今で、やっとジュリエットは私を見ていた気がする。
以前の怒りは、好奇心と警戒心が入り混じった、複雑で、読めない表情に取って代わられていた。
クレアは自分の席に戻り、その姿勢は完璧で、介在した瞬間はほんの短い、不快な気晴らしに過ぎなかったかのようだった。
「謝罪は受け入れますわ」
クレアは返事した。
彼女の声は温かみはないが、さらに非難することもない。それは取引だった。
進行するための必要なステップ。
「わたしたちは皆…やっぱり自分たちの信念に情熱的ですのよ。なので、さっきの見苦しいところを抑制の価値としての教訓としましょう」
彼女のオレンジ色と灰色が混じった目は必要以上長く私の目を捉え、その教訓が私の魂に焼き付けられることを確実にした。
彼女は自分の長椅子の横に手を伸ばし、以前は気づかなかった細身の革張りのポートフォリオを取り出した。彼女はそれを私たちの間のテーブルに、柔らかく、決定的な音を立てて置いた。
その音は境界を定めたかのようだ;一方側には感情的な大荒れ、もう一方側にはその理由で。
「始めましょうか?」
彼女は尋ねたけど、人に対して聞く質問ではないニュアンスだったが...
私はうなずいた。喉が詰まって。
「どうぞ」
クレアはポートフォリオを開いた。中には細心の設計図、アルブレヒティアの紙に印刷された財務予測、そしてジュリエットの作品に違いない見事な水彩画が入っていた。
「わたしたちの会社はシャルム・エ・シフル(Charme et Chiffre)です」
クレアは始めた。
彼女の声は女性CEO(最高経営責任者)の鮮明で効率的な調子に変わった様子だ。
それは顕著的な変身だった。私の腕に蹴りを食らわせたばかりの女は、今や市場と物流のボスになったかのだ。
「アルブレヒティアの産業とガリエンヌの藝術性との合弁事業ですわ。わたしたちは、ナバル王国内で商品を製造し小売するための許可を付与された最初の外国企業となることを提案します」
彼女は一枚の書類を私の方に滑らせた。それは優雅なブティックを描いていた。
その建築は、ナバル王国のアーチ型の窓とガリエンヌの鉄工品の驚くほど尊重された融合だった。それは美しかった。陰険にそうだったようだ。
「 製品ラインは レクラ・ソレール( Solaire) ――太陽の輝き――と呼ばれます。要するに、これは高級品のコレクションですわね。香水。化粧品。絹のアクセサリー」
彼女は完璧に手入れされた指で、その模様が私たちの周りの壁の書道そのものにインスパイアされたスカーフの絵をトンと叩いた。
「ナバル自身の豪華さと神聖な美にインスパイアされている商品ですわ、これ」
その厚かましさは私の息を奪った。
彼女らは単に製品を売っているのではない;まるで私たちの神聖さを購入用の商品に包装しているかのようだ。
「君は…香水を売りたいと?」
私は信じられないという意味を込めて、声を見つけながら言った。
「聖堂では、強い香りは虚栄心、祈りからの気晴らしと考えられてきた。つまり、君たちが売りたいと言っているそれらは単なる誘惑の道具ばかりだ」
ジュリエットは口を開けた。おそらくもう一つの辛辣の返答の準備ができていたが、クレアの微小な首振りが彼女を沈黙させた。悔しいけどすごい! やっぱり予想した通りにただの普通の女じゃなくて、クレアが今この場を制御していると言っても過言ではないかもしれん。
「わたし達が模索する準備ができている文化的誤解ですわ」
クレアは滑らかに答えた。
「わたし達は地元の原料――砂漠の花、珍しい香辛料、ウード――を使って香りを調合します。ナバル王国には固有の香りばかりで、したがって親しみやすく、不快感を引き起こす可能性が低い。これなら文化的侵略ではなくなるでしょう、アーミル聖父?きっと協力と捉えられるでしょう、ここのローカルの住民から。そして、あなた達の資源の祝賀は結果的に私たちの専門知識によって洗練される完全商品へ昇華していきますのよ」
それは賢い論点だったように聞こえるのは腹立たしい。まるで私たちナバル王国人自身の木で建てられた『トロイの木馬』かのようだ、くッ!
「そしてこれらは?」
私は口紅とコールアイライナーの絵を指さして尋ねた。
「化粧品のこれらだ。つまり、『偽りの顔』への応用は、ここでは欺瞞と見なされるんだ。それは調和の価値である信憑性と透明性に矛盾してるぞ」
「またですね」
とクララは肩をすくめながら困惑してる素振りも見せずに軽くそれだけ言ってきた。
彼女の忍耐は無限のように見えた。
「 それは単なる視点の問題だけですわ。ガリエンヌでは、化粧品は仮面ではなく、個々人からのアクセントですわ。自分の自然な特徴のハイライトですの。 そして同時にアートの形でもあるのです。最終的に、私たちは地元の職人達、採集師と鉱夫や工場員を雇用し、これらの制作技術を教えます。これは仕事を生産するでしょうから、絶対にあなた達ナバル王国の経済を促進すると断言しますわ」
彼女はその後、財務予測を提示した。数字は驚くべきものだった。ここナバル王国の王都、『ザハラ=ケデシュ』だけへの税収は変革的なものとなるだろう。私は即座に、聖堂の承認の有無にかかわらず、王室がなぜ興味を持つかもしれないかを理解した。
最後に、私は最も深い恐怖を声に出した。
「君は我が国の裕福なエリート層を客としてターゲットにしていくつもり満々だな。要するに、君達は彼らに虚栄心のための道具を売り、目に見える社会階級の区別と格差の形を増やしていくだろう。...つまり、これらの事業は私たち『光輝諧律』の信仰の共同的、謙遜な理想に反する行いであることは確かなのだぞ!よって、君は単にスカーフを売っているだけではないんだ;君は不和と不調を売っているのだよ」
「ふふふ、あら、そうかしら?」
初めて、クレアは打診的な意図も軽蔑するための意図でもなく、自然に面白いと思ったから微笑んだかのように見える微笑を浮かべた。それでも、小さく、鋭いものだった。
「わたしたちはただ選択を売っているだけなのですわ、聖父さん。あなたがほんの少し前まで熱烈に反論した時のと同じ選択をね。...つまり、ナバル王国民の女性が自分自身で美とは何か、そしてどのようにそれを表現したいかを決定する選択を提供したいだけですわよ。結果的に、わたし達は単にその方法を商売として供給しているだけに過ぎませんわ」
彼女は前に身を乗り出した。
彼女の漆黒の髪は、彼女の情熱的な、 シリアスな顔の暗いシンボルとなりそうだった。ビジネスウーマンの姿は消え、 革新家のそれに取って代わられた。
「わたし達は高級品ビジネスを専門としている企業であり、国際社会とナバル国民のあなた達の文化を抹殺しに来ているのではありませんわよ。わたし達はただそれらと交流し、社会がもっと現代に変化し生きやすくなるために商品を販売しに来ているだけですわ。このブティック、この企画は、 両国、いいえ、3国民との間の架け橋になり得ると信じています。ナバルの伝統と外部世界が、ナバルの条件で出会える場所を我々がここで立ち上げ、提供しているだけに過ぎませんからね。そして、あなたを安心させるためにも、わたし達は光輝諧律側のあなた方が課していくありとあらゆる規則とルールを守ります。場所、営業時間、 マーケティング。あなたにはこれを形作る権限があること事だけは認めていますわ、さすがに。結論を言いますと、あなたの人々の魂を変貌させに来たのではなく、それが彼らに利益と恩恵を齎してゆくことだけを保証します。だからそれがわたし達の提案した企画書になりますわよ」
彼女はそれだけ言い放ってソファに座り、彼女の言葉の重みをこちらが飲み込むまでそっとしてやった。
私は目の前の書類を見た。美しい絵、冷たく学者的な数字、「 架け橋になる」という誘惑的であり前向きな宣言。そしてそれと同時に、私も信じられない繁栄の可能性と完全な文化的希薄化の両方のポテンシャルと弊害も同時に見れたんだ。なので、私にはその利点の多そうなコラボレーションを前にしても冒涜的な侵略のように見えた。
聖職者である聖父の私は異端の化身である二人の女を見た。
彼女たちは私を自分自身の人間性の端まで挑発し、そして今、私の国にそれらの企画発想が誰もローカル人間が想像したことのない『未来への可能性』として、蜂蜜のように魅力的に見せながら提供していた、危険な淫魔であるかのようだ。
対立はもはや中庭にはなかった。それはここに、このテーブルの上にあり、それは私の中にあった。
「私は…」
私は始めた。
私の心は複雑な気持ちで一杯だ。
「...私はこの企画書について十分に考慮しなければならない。そして聖典を一読し、確かめなければならないんだ。…神様からのお導きを承りに祈らなければならない...今すぐに」
それは引き延ばしだった。私が残していた唯一の誤魔化しと延期だ。
「そうですわね」
クレアはうなずいた。
彼女がそれ以上を期待していなかったかのように。
「もちろん。ポートフォリオはそちらがお持ちください。それを研究して良く考えてから決断してください。弊社はあなたからの返事をお待ちにしていますわ」
商談は終わった。
彼女たちは退室するために立ち上がった。今回は、石の床での彼女たちのヒールの音は私には違って聞こえた。もはや単なる挑発ではなく、すべてを変えるための決定へのカウントダウンしてる最中の時計の針のそれだった......




