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第18話:毒されたペン

『ナバル・センチネル』は、決して洗練された文章で知られる新聞ではなかった。


安価でややざらついた紙に印刷され、大豆インクのかすかな匂いが漂うそれは、この街の伝統主義者や職人、そして「道徳的確信」をたっぷり添えたニュースを好む人々にとって定番の一紙だ。


編集長は、ナバル王国が北方諸国との外交関係が始まった60年も前の頃から創設されたこの新聞の前責任者みたく思考が化石のように凝り固まってしまった人物で、外の世界は堕落の温床であると信じて疑わず、それを裏付ける記事を常に求めていた。


そして今朝、彼らはついに“ご馳走”を得たのである。


記事は一面ではなかった。

第二面の隅、行方不明のヤギの掲示と、川船の蒸気汽笛がうるさすぎると非難する論説の間に、さりげなく紛れ込んでいた。

その控えめな位置が、かえってその毒性を強めていた。


見出しは、名誉毀損すれすれの暗示を散りばめた“傑作”だった:


〈聖父の美徳、試される? 北方使節との衝撃的な路上遭遇〉

― 懸念する市民より


この慎ましき筆者の胸は、昨日東方広場で目撃した最も憂慮すべき光景を伝えるにあたり、重く沈んでいる。

敬虔さの象徴たる我らが聖父アーミル殿が、あの栗髪のガリエンヌ使節モロー嬢と、きわめて――不穏な――やり取りをしていたのだ。


情報筋によれば、二人は激しい口論を交わし、それが高尚な討論ではなく、驚くべきことに肉体的な抱擁へと発展したという!


聖父殿は異国の女を力強く掴み、女は慎みや怒りを示すどころか、正義の憤りではなく芝居じみた仕草で応じたというのだ。


この遭遇は、聖父が顔を打たれるという――なんとも不徳で大胆な――結末で幕を閉じ、女はまるで“戯れ好きな誘惑者”のような様子でその場を立ち去った。


考えずにはいられない。――これが彼らの訪問の真の目的なのか?

文化交流ではなく、我らが若き聖職者たちの精神を堕落させるためなのか?


我らの神聖なる伝統は、異国の扇の陰で囁かれる一瞬の甘言と引き換えにされてしまうのか?

かつて非の打ちどころがなかった聖父の判断力は、今や疑われねばならない。

これほど容易く――“惑わされる”――男に、我らが〈光輝なる調和〉の守護が務まるだろうか?


.....................................


............


クレアの視点:


新聞は、クレアの机の上に「とん」と静かな音を立てて置かれた。


地元紙の動向に詳しくなったアルブレヒト出身の事務員が、青ざめた顔で持ってきたのだ。


クレアはそれを一読し、もう一度読み返した。

表情は一切変わらなかったが、ガラス張りの執務室の空気が数度冷えたように感じられた。


彼女はその“巧妙な操作”を一瞬で見抜いた。

すべての事実は「技術的には」真実だった。しかし、それらは歪められ、醜悪なパロディへと変えられていた。


救出劇は「不穏な接触」に、ジュリエットの恐怖と狼狽は「媚びるような誘惑」へとすり替えられている――まさに剃刀のような筆致による人格暗殺だったー!


「“媚びるような誘惑”ですって?! 見せてやるわよ“誘惑”ってやつを!」

肩越しに記事を覗いていたジュリエットが、苛立ちの声を漏らした。


「この“心配する市民”とやらを見つけ出して、“芝居じみた仕草”の新しい定義を、私のヒールで叩き込んでやるんだから――!」


「静かに、ジュリエット」

クレアの声は危険なほど落ち着いていた。

彼女は内線電話を取り上げる。


「エロディ? 『ナバル・センチネル』の記事ですよ。名誉毀損の内容がありますわ。正式な外交抗議文を準備して。“防御的”ではなく、“遺憾と誤解”を滲ませて。私たちは誠意を持ってここにいますってね」

少し間を置き、「ええ、脅しはまだですよ」と付け加えた。


受話器を置くと、クレアは怒りで頬を紅潮させたジュリエットに視線を向けた。

「これはただのゴシップじゃありませんわ。戦略的な一撃ですわね」


「コレットよ!」

ジュリエットはその名を吐き捨てるように言った。

「この嫉妬深い凡庸女の指紋がべったり付いてる。“芝居じみた仕草”なんて、あの女がよく使う皮肉そのものじゃない。」


「出所は今は重要じゃありませんわ」

クレアは指を組んで言った。

「大事なのは“損害”よ。コンラードはこれを目にします」


まるで合図のように、隅の電信機がけたたましい音を立てて動き出した。

読むまでもなく、内容はわかっている――「株主が不安視している」「説明せよ」「封じ込めろ」「あるいは帰還せよ」。


今まで静かに唸っていた圧力が、今や耳をつんざくほどの轟音へと変わっていた......


............................


........


アーミルの視点:


新聞は、手にしているだけで穢らわしいと感じた。


私は聖殿図書館の静まり返った廊下に立ち尽くし、その言葉が視界に焼き付いた。


“不穏な接触”――“媚びる誘惑”――“堕落”――“惑わされた”。


羞恥の熱波が押し寄せ、その後を追って冷たい怒りが体を満たす。


彼らは、命を救うための本能的な一瞬――不器用で奇妙ではあったが、深く人間的な繋がりの瞬間――を、下品で安っぽいスキャンダルへと変えてしまったのだ。


私を貶めただけではない。彼女をも辱めた。


彼らはジュリエットを、私が知りつつある“才気に満ち、苛立たしくも情熱的な芸術家”ではなく、“ありふれた誘惑者”として描いたのだ。


「まことに嘆かわしい光景ではありませんか、兄弟よ」


振り向くと、ジャバリが同じ新聞を手に立っていた。

その表情は痛ましい失望を浮かべていたが、瞳の奥には――熱狂と勝利の光が宿っていた。


「これは嘘だ」

私は声を絞り出した。

「歪曲だ。」


「そうでしょうか?」

彼は静かに問い、一歩近づいた。

「“抱擁”は? “平手打ち”は? それらは起きなかったのですか? 事実は争えません、アーミル聖父。ただ“解釈”だけが問題なのです。王都聖殿の最高責任者が、足首も脛も太腿の一部の肌も露わな異国の女と街中で揉み合っている――信徒たちはどんな“解釈”を選ぶと思いますか?」


彼はさらに近づき、まるで“心配”を装うような囁き声で続けた。

「民は噂していますよ、アーミル聖父。あなた様の判断は曇っていると。あの白い肌と異国の風習に魅了されたのだと。この“試練”とやらは崩れつつあり、あなた様の評判もろとも沈もうとしているのですぞ」


彼は私の肩に手を置いた。その感触は焼印のようだった。

「あなた様の名誉と、この場所の神聖を守る唯一の道は、この茶番を公然と終わらせることです。彼らの影響を否定し、追放する。それしかありません」

「それを決めるのは私の一存だけではない。いくら王都のサンジハールの最高責任者とて彼らをここにお招きになった国王陛下と相談しないことには......」

それに対して、言い訳のように返した私。


「......まあ、良い。決断は今日すぐではなくともいいんです。でも数日後からまたも窺います。その頃になったら、...あなた様が良い判断をするように、と...期待させて頂きます」

ター、ター!


............


彼は毅然とした足跡で去っていった。


私は古の書に囲まれたまま立ち尽くし、彼の言葉と紙面の嘘が、物理的な重圧のように肩にのしかかった。


火災の後にはっきりと見えていた道筋は、今や毒されたインクに覆われ、霧の中へと消えつつある。


自らの家の壁が狭まり、兄弟たちの囁きが、私自身の良心の声よりも大きく響いていた――。


............

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