第11話:事務所とオリーブの枝
アーミルの視点
東の広場は、サンジハールの静謐な中庭とはまるで別世界だった。
ここでは商いと人々の喧噪が空気を震わせ、香辛料や焼き肉の匂いが、新しく導入された活版印刷機の熱い金属の匂いと入り混じって漂っている。
目的の住所はすぐに見つかった。
白く塗り直されたばかりの二階建ての建物。その入口には真鍮の小さなプレートが掲げられている。
――Charme et Chiffre、ナバル支店。
深く息を整え、自分の聖父用のローブの袖を直す。これから私は獅子の巣窟に足を踏み入れるんだ。そして今日は初めて、私は自分の国で「外の者」となるのだ。
カチャ―!
扉は私が手を伸ばすより早く開かれた。
淡い肌の若い男が簡素なチュニック姿で立っており、無言で中へと導く。
そして――衝撃が走った!
そこは巣だった。女たちの巣だ。
仕切りのない広間は活気に満ち、十数人以上の女たちが忙しなく動き回っている。
皆、アルブレヒトやガリエンヌ出身特有の白い肌を持ち、机に座って電話機に向かい、低く抑えられた声で事務的に話していた。
磨き上げられた大理石の床に響くのはハイヒールの乾いた音――全員がスティレットだ。
その規則的な打音が、まるで効率そのものを音にしたように空間を支配している。
服装もまた統一されていた。クレアやジュリエットが纏っていたような、鋭く仕立てられた濃色のスカートとスーツ。髪はきっちりと結い上げられ、隙のない姿。彼女たちは強く、洗練され、そして私にはあまりに異質だった...
視線を走らせ、馴染みの拠り所を探す。数人のナバルの男たちもいたが、その役割は一目で分かる。荷を運び、家具を動かし、複写機の騒音に合わせて紙を扱っている――つまり肉体労働だ。
頭脳と指揮は、完全に異国の女たちが握っていた様子だ......
秩序が逆転している。胃がきしむ感じがする。
「アーミル聖父。時間通りですわね。私たちはその美徳を重んじますよ」
ガラス張りの奥の部屋からクレアが姿を現す。その漆黒の髪は、この女の巣の中心を支配する指令塔のようだ。
「エーデルワイス社長……」
かろうじて声を絞り出す。
すると仕切りの影からジュリエットが現れ、手に書類を抱えていた。
「まあ、『聖性の番人』が視察に来たわね」
軽い調子だが、言葉は鋭い。
「何かお気に召さないものでもあったかしら? 露出しすぎたふくらはぎと足首? それとも女の頭脳が働いている光景そのもの?」
胸の奥に熱い炎が一気に燃え上がる。怒りだ。だが必死に抑え、持参した条件書を強く握りしめる。
「私は調和を欠いた職場を見ているのです」
低く張り詰めた声が出る。
「物事には相応しい場所がある。そして、それぞれの役割も然るべき場所に」
「つまり女の居場所は机の前ではない、と?」
ジュリエットが踏み込む。そして彼女のスカートの裾もつられて揺れる。
「交渉も契約も、考えることすら許されないと?」
「女の本分は家庭の中心にある!」
声が荒れるのを抑えきれない。
「我々の女性の強さは慈しみにあり、共同体を支え、次の世代を敬虔で健やかに育てることにある! こんな……こんな殺風景な喧騒ではなく!」
「つまり彼女達の価値は生むことだけ? 歩く子宮だというの?」
ジュリエットの瞳が鋭く光る。
「半分の人口にそんな『崇高で満ち足りた』運命を押し付けているつもり?」
「私の言葉を捻じ曲げるな!」
思わず声が大きくなり、周囲の白い顔の女たちが視線を寄越す。
「私は神聖な責務を語っている! それに反して君は利己的な野望を語っている!」
「あたしは『選択』を語っているのよ!」
ジュリエットも声を張っている。
「母になるか、商人になるか、その両方か! 心も頭も使う自由よ! あんたの言う『調和』は、それを力ずくで否定しているだけだわ!」
互いの顔は数インチの距離。
空気が火花を散らす。
胸は激しく脈打ち、かつての暴力衝動が蘇る。
彼女の瞳の奥にも同じ炎が見える。手が震える。条件書を握りつぶしたい衝動に駆られる。
――その時!
裾を小さく引かれた。
見下ろすと、八歳ほどの少女がいた。
小麦色の髪に大きな青い瞳。
間違いなく彼女らの民――だがその表情は純粋な好奇心に満ちていた。
怒れる聖職者ではなく、まるで絵本に出てくる王子を見るような眼差しで。
「このローブ、とってもきれい……」
小さな指が袖の金糸をなぞる。
「まるで……太陽の光みたい」
「あ...」
怒りは一瞬で霧散した。文化の衝突も、胸を焦がす憤りも、子供の無垢な驚きの前に崩れ落ちる。
私はただ立ち尽くすしかなかった......
ジュリエットも言葉を失い、少女と私を見比べて沈黙する。
すぐにクレアが駆け寄り、少女の頭に優しく手を置いた。
「レナ、この方はアーミル聖父。とても大事なお客様だから、失礼のないようにね」
レナと呼ばれた少女は、急に恥ずかしそうに目を伏せる。
「ごめんなさい……」
声を取り戻す。意外にも柔らかい声だった。
「謝る必要はない。……確かに、この刺繍は太陽の光のように見えるだろう」
「「「.........」」」
気まずい沈黙。事務所の全員がこちらを注視していた。
クレアがその空気を断ち切る。
氷の仮面をかぶり直したが、声は先ほどよりわずかに和らいでいた。
「レナ、帳簿のお手伝いをしてきなさい」
「うん~!」
少女は頷き、駆けて行った。
クレアが灰色とオレンジ色が混ざった瞳を私に向ける。
「主任会計士の娘ですわ。これもまた現代的職場の一面ですね」
それは謝罪ではなかった。単なる事実の提示だった。
私は深く息を吐き、手にした条件書が滑稽に思える。
支配を主張するために来たはずが、子供の一言で完全に武装を解かれてしまった。
「こ……これが最終条件だ」
かすれた声で告げる。
「ええ」
クレアはガラス張りの部屋を指し示す。
「オフィスで話し合いましょう。昼食を取りながらで。地元の料理もいくつか用意してありますの」
私はただ頷くことしかできず、言葉が出なかった。
クレアの後に続きながら、去っていくレナの小さな背中を振り返る。
――それは、戦いを一瞬で静めた思いがけないオリーブの枝だった...




