王家主催!多種族婚活パーティー
オッス!私、女冒険者。
ギルドでは『七色魔弓』って二つ名で呼ばれていて本名は……って、私の名前とか今はどうでもいいな。
それよりも大切なのは、この千載一遇のチャンスである『多種族婚活パーティー』で素敵な旦那を狩ることだ。
何故、『多種族婚活パーティー』が千載一遇のチャンスなのかって?
私の年齢的な問題だよ!
言わせんな恥ずかしい!
過日、外部との交流も殆どない田舎村が退屈で嫌になり、飛び出して冒険者になった私。
どうやら魔法の才能があったらしく、基本的にソロでブイブイ言わせながら楽しく世界中を旅してしたんだけど、ある日ふと「あ、そろそろ結婚して子供とかも欲しいなー」となって村に戻ったのね。
そしたら、村の男達が口を揃えて言うのよ。
「年上すぎてちょっと……」
ガッデム!
どうやら冒険に夢中になっているうちに結婚適齢期をすぎていたらしい。確かに同世代は皆結婚していて、それなりの年齢の子供もいた。
冒険中、酒場で「お姉さん綺麗だね」とか言われて調子こいていたが、大分お世辞が入っていたみたい。ちょっと焦る。
そこで私は考えた「オラ東王都さ行くだ」と。
この世界、他種族との文化的交流は少なく、私のような冒険者が他種族の国に入ると珍しがられる。
ただ、人間が治めている多民族国家は現在、色んな種族の移民を受け入れているのだ。だからその首都である東王都には、私のような行き遅れでも喜んで貰ってくれる種族の男がいるかもしれない。
そうして、たどり着いた地でちょうど『多種族婚活パーティー』なる王家主催の神イベントが開催されていたので、喜び勇んで参加した次第である。
ちなみにこのイベント、目玉としてイケメンな第三王子が参加していた。もちろん、彼の前には玉の輿狙いの行列ができていたが私は並ぶ気はない。
社会経験豊富な私は知っている、あれはお祭り屋台のくじ引き一等と同じだ。
客引きで展示しているだけで絶対に当たらない。話しかけるだけ時間の無駄なのだ。
なおこのイベント、同種族とのマッチングが成立してもいいらしいが、私は異種族一本釣りを狙っている。
さあ、どこからでもかかってきなさい!
誰も声かけてくれんやんけ!
はあ、横着せず自分からいくしかないかぁ……
「えー、マナが経年劣化してるし」
「腐葉土みたいな加齢臭がちょっと……」
「枯れ木のような外見は好みではない」
パーティーも終わりに差し掛かる頃、私は机に突っ伏していた。全敗だったのだ。
参加割合は男女比率1:4くらいで男が選べる立場のようだが、それにしても悔しい結果である。
ノームも獣人もオーガも、結局年齢がネックかよ。はあ、凹むわぁ……
誰でもいいから一人くらい声掛けてよ……
「あの、今お話よろしいでしょうか?」
「ほえ?」
気づくと、第三王子から声をかけられていた。
アイエ!?ナンデェ!
「い、いいけど……」
「よかった、貴女の事を色々教えて下さい」
輝くような笑みを見てわかった。
ああ、これはサービス的な奴だと。
冒険者酒場で男達が話していたのを小耳に挟んだことがある。
うっふんなお店のキャスト達は、閉店間際に男達を立てて自慢話を沢山させるのだと。それで、「凄ーい、もっと聞きたーい」といいながら閉店。
男達はまた来店できるよう仕事を頑張る……
OK、なるほど理解した。
この婚活パーティーは王家主催で定期的に開かれている。つまり、カップル成立しなかった参加者にはリピーターになって欲しいのだろう。あと、悪いウワサとかも流されたくはない。
なので、凹んでいる私をおだてにきたと。
ならば、その思惑を理解した上で、私は全力で乗っからせてもらう!
今日の鬱憤晴らすための、わたしの自慢話をきけぇー!!
「そうして、やっとボスドラゴンを討伐した訳よ」
「す、凄い!!」
丁度キリ良いところまで話したタイミングで、パーティー終了の鐘が鳴った。
ふうースッキリした。
そのタイミングで王子はやはり「ああ、もう時間か。もっと聞きたかったな……」と。うん、知ってた。
いやー、王族の腹芸、凄いわぁ。
第三王子は、いち冒険者にすぎない私の自慢話オンパレードに、一切嫌な素振りを見せることなく上手に相槌をうっていた。「コイツ本当に私に好意があるんじゃない?」って思わず勘違いしそうになるレベル。
「熱心に聞いてくれてありがと、楽しかったわ」
「そんな、こちらこそ。本当に、まだまだ貴女のお話を沢山聞きたいです。」
演技とわかっていても潤った。
これだけで参加費払った甲斐があったよ。少なくとも悪い噂は流さないから安心してくれい。
次はもう参加はしないけどな!
「なので僕達、結婚しませんか?」
……ほえ?
◇
東王都は現在、男女比が大きく女性側に偏っており男の移民を歓迎している。多種族婚活パーティーもその一環だ。
その理由は八年前、スタンピードにより東王都近郊に魔物の大群が出現したことだった。
当時十七歳だったアラゴルンも一部隊を率いて出撃したが大きな被害をうけ、国も彼自身も危機にさらされる。
その窮地を救ったのが共同戦線を張っていた冒険者ギルドから派遣されてきた『七色魔弓』だった。
雨のように降り注ぐ七属性の魔法。八面六臂の大活躍で前線を立て直した美しき英雄が、アラゴルンの初恋である。
そんな第三王子アラゴルン、結婚適齢期になったこともありそろそろ初恋にケジメをつけなければとパーティーに参加していた。
ただ、そこは王族。
伴侶には王族に利となるなにかしらの『力』が求められる。彼に声をかけてくる女性達は皆それなりの人物ではあったが、王族に相応しいほどの『力』は持ち合わせてなかった。
そうして今回は見送りかなと、女性陣の目が定住して欲しい他種族の男に向くように会話をコントロールしながら会場の様子を確認しーーそこで彼は『初恋』に再会する。
他の女性達からの猛烈なアプローチに丁寧に対応していたアラゴルンが彼女を認識したのはパーティーの最終盤。
もう誰かいい相手を見つけてしまったかと慌てたが、どういった訳かまだフリーのようだった。
意を決して話かけると、彼女は上機嫌で応対してくれた。
「そうして漸くボスドラゴンを討伐した訳よ」
「す、凄い!!」
あの日以来、冒険者や英雄譚と言うものに興味津々のアラゴルン。彼女の話はめちゃくちゃ面白く、また王族に利益となる『力』を感じさせるものだった。
好感触だったがふと、「なぜ彼女のような特上の玉がこの場に?」と言う疑念がよぎった。
実は、ただこう言った場が珍しく経験として参加しただけではないか、お祭りくじ引きと同じで絶対に当たらない奴ではないかと。
しかし、彼は王族だった。
本当に欲しければクジを全て買い占めて、交渉の末に目当ての商品を頂戴できる男である。
「なので僕達、結婚しませんか?」
カップル成立とか色々すっ飛ばして求婚した。
彼女は「……えっ?」とポカンとしていた。
振り返ると自分でもどうかと思う暴挙だったが、返事はまさかのOK。しかも返事もわりと即答だった。
◇
いやー、まさか玉の輿に乗れちゃうとは。
人生ってわかんないものだ。
「ノームにも獣人にもオーガからも敬遠されていたのに」
「ノームはマナ、獣人は匂い、オーガは身体つきで異性の第一印象が決まるらしいですね」
じゃあ人族は?
「……失礼を承知でぶっちゃけると外見です。」
「私800歳だけど、いいの?」
「むしろウェルカムですね、ティターニアさん、外見は僕と同じくらいに見えますし。」
人族って最高ね!
私達の種族の平均寿命って860歳位だから、余命も夫といい感じにつり合いそうだし。
私、エルフに生まれて良かったー!