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お付き合いするまで

あれから、スティカさんと何度かお出かけをした。

幸いなことに、不快感を抱かれている様子はなく、むしろ彼女から届くメッセージはいつも明るくて楽しい。


「今度の日曜日にお茶に行きませんか?」

そうLINEを送ると、驚くほど早く返信が返ってきた。


「ぜひ行きたいです!」


あまりにも早い返事に、思わず笑ってしまう。スティカさんらしいな、と。


待ち合わせの場所に着くと、彼女はすでに到着していて、緊張したように立っていた。もう見慣れたような、でも新鮮に彼女を可愛いと思える自分に面映い気持ちになるような、浮き立つ気持ちで彼女に声をかけた。


「お待たせしました」

声をかけると彼女が振り向き、微笑む。


「いえ、私も来たばかりです」


その温かい笑顔に心がふわりと和らぐ。


今日の店はニュースで話題になっていた店だ。スティカさんが好きそうな雰囲気だから気に入ってもらえるだろうか。

店へ入ろうとすると──そこで問題が起きた。


「あの……デフォリアさん、これって……」


スティカさんが指差した先には、小さなプレート。

──「昆虫族お断り」


「……僕のリサーチ不足でした。すみません、他の店を探しましょう」


「いえ……いいんです。私も昆虫族の方とお付き合いするのは初めてで、そこまで気が回りませんでした」


スティカさんが申し訳なさそうに言う。


「……でも、私はデフォリアさんとこうしてお出かけできて嬉しいですよ」


「僕もです」


そう答えながらも内心は穏やかではなかった。

スティカさんは僕との時間を心から楽しんでくれていることが分かるし、それはとても嬉しい。けれど、彼女は本当に昆虫族とこうして付き合ってもいいと思ってくれているのだろうか? そんな不安が頭をよぎった。


種族差別を無くそうとする運動は活発だが、やはり色濃く残る地域もある。

この都市では薄くなってきたために暮らしやすいと思っていたが──

やはり、この都市でも根強い偏見はあるのだと実感した。


結局行きつけのカフェでランチを楽しむことにした。


「デフォリアさんはどんなインテリアがお好きなんですか?」


「僕はあまりインテリアにこだわりはありませんね。スティカさんはあるんですか?」


「私はやはりドライフラワーを飾るのが好きで──」


やはりスティカさんは素敵な人だ。彼女と話すと滅多に笑わない僕でも自然に笑える気がする。


「あっ、ごめんなさい。私ばっかり話してしまいましたね」


「いえ、スティカさんとお話するのとても楽しいですよ」


そう伝えると彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。あぁ……本当に可愛い人だと思う。そんな彼女を僕だけのものにしたいと思うのは、夢のまた夢なんだろう。何せ僕は仕事ばかりで面白味もない昆虫人だ。到底彼女に釣り合う気がしない。そんなことを考えつつ彼女を眺める。


「スティカさんには夢はありますか?」


「うーん、そうですね。夢だった香りの雑貨屋は開けたし…あ、賑やかな家庭を築くのが夢ですね。」


「それは、スティカさんらしくて素敵な夢ですね。」


「デフォリアさんには夢はないんですか?」


「僕は…今が幸せで夢みたいだと思っていますよ。」


「あはは、何ですかそれ!でも今が幸せと思えることは素敵ですね!」


彼女の夢は僕には叶えられないものだ。そもそも彼女の夢を叶えられるかもしれないと考えた自分に驚く。

もう、諦めようと思っていたのに彼女を想う心が僕を苦しめる。

いっそ、玉砕してしまうか。


「…スティカさん」


彼女の名を呼ぶと、彼女は少し照れたように首を傾げた。


「どうしました?」


「僕は……スティカさんのことが好きです。」


一瞬の間があった後、スティカは目を大きく見開いた。


「その……突然ですみません。きっかけはあのいい香りの香り袋でしたが、僕はあなた自身のことを知るうちにあなたに惹かれていったんです。…ただの茶飲み友達では満足できない。」


緊張しながら言葉を紡ぐと、彼女はしばらく黙ってこちらを見つめた後、口を開いた。


「……はい、私も同じ気持ちです」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥から嬉しさが込み上げてきて、思わず抱きしめそうになったがカフェの店内なので我慢した。

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