表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

第22話〈保存食革命の息吹〉

 

 三日後の朝、私の個人厨房は見違えるほど変貌していた。王都料理ギルドの全面支援により、厨房の一角に巨大な海水循環システムが設置されている。


「設備の準備が完了いたしました、ミレイ様」


 セバスチャンが満足そうに報告した。大型の水槽、海水循環装置、そして床に描かれた精密な魔法陣。すべてが完璧に整備されている。


「素晴らしいですわ。これだけの設備を三日で......」


「緊急王都クエストの重要性を説明したところ、王都料理ギルドが全力で支援してくださいました」


 その時、水槽の水面が美しく光り始めた。セレーナとアクアマリンが転移してくる合図だ。


「お待たせいたしました、ミレイ様」


 セレーナが水槽から優雅に顔を出した。その隣には、深い青色の髪と氷のような瞳を持つ美しいマーメイドがいる。


「こちらがアクアマリンです。温度制御の専門家として、今回のプロジェクトに参加していただきます」


「初めまして、ミレイ様。アクアマリンと申します」


 アクアマリンの声は澄んでいて、その周囲の水温が微細に変化しているのが見て取れた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。お忙しい中、ありがとうございます」


 私は深くお辞儀をした。


「早速ですが、0.1度単位での温度制御は本当に可能なのでしょうか?」


「はい。深海では水温の僅かな変化が生死を分けることもありますので、精密な制御は必須技能です」


 アクアマリンが手を水中で軽く動かすと、水槽の一部分だけが見る見るうちに冷却されていく。


「現在、この部分の水温を15.0度に設定しています」


 セバスチャンが持参した精密温度計で確認すると、確かに15.0度を示していた。


「驚異的な精度ですわ......」


 私は感嘆の声を上げた。


「それでは、いよいよAw値制御システムの開発に取り掛かりましょう」


 私は改良予定の湿度計をアクアマリンに見せた。


「この測定器を、0.01単位でAw値を測定できるように改良したいのです」


「承知いたしました。まず、測定器内部の水分検知部分を分析させていただきますね」


 アクアマリンが測定器に触れると、その周囲の空気中の水分が微細に動き始めた。


「なるほど......この構造でしたら、水分子レベルでの制御により精度を大幅に向上できます」


「具体的には、どのような改良が可能でしょうか?」


 セバスチャンが技術的な詳細を尋ねた。


「現在の測定器は単純な湿度測定ですが、私の魔法で水分子の活動度を直接測定できるようになります。これにより、Aw値の正確な数値化が可能です」


 アクアマリンが説明しながら、測定器に精密な魔法をかけ始めた。機械の内部で、水の魔法陣が形成されていく。


「セバスチャン、理論値との照合をお願いします」


「承知いたしました」


 セバスチャンが分析データと照らし合わせながら、精度を確認していく。


「信じられません......0.005単位での測定が可能になっています」


「予想以上の精度ですわね」


 私は興奮を抑えきれなかった。


 その時、頭の中にシステム音が響いた。


【サブクエスト達成】

『精密Aw値測定システム開発』を達成しました

 海洋魔法との技術融合に成功

 経験値12,000を獲得

 技術精度+80


【サブクエスト進行】

『海洋温度制御技術導入』

 第一段階:設備準備(完了)

 第二段階:技術融合(完了)

 第三段階:実用化テスト(開始)

 進行度:75%


「では、実際にAw値制御による保存食の実験を開始しましょう」


 私はケンイチから提供された海洋性ミネラル乾燥剤と植物繊維シートを用意した。


「今回の目標は、Aw値0.3を達成して30日間保存可能なマカロンの製作です」


「0.3......かなり厳しい数値ですが、アクアマリンの技術があれば可能でしょう」


 セレーナが励ましてくれた。


 まず、基本のマカロン生地を作る。アーモンドプードル、粉糖、卵白......いつもの工程だが、今日は特別な意味がある。


「カレンヌ、植物繊維シートの準備をお願いします」


「承知いたしましたわ」


 カレンヌが和紙技術を応用した特殊シートを準備する。


「レオンさんには、改良された測定器の操作をお願いします」


「わかりました」


 レオンが新しい測定器を慎重に操作する。


「アクアマリン様には、精密な水分制御をお願いいたします」


「お任せください」


 作業を分担すると、皆がそれぞれの専門技術を発揮し始めた。


「現在のAw値は0.85です」


 レオンが測定値を読み上げる。


「これから乾燥剤を段階的に添加し、0.3まで下げていきます」


 私は慎重に海洋性ミネラル乾燥剤を添加していく。同時に、アクアマリンが周囲の水分を精密に制御する。


「0.7......0.6......」


「順調ですわね」


 セレーナが見守ってくれている。


「0.5......0.4......」


 ここからが正念場だ。さらに精密な制御が必要になる。


「アクアマリン様、0.1度単位での温度調整をお願いします」


「承知いたしました」


 アクアマリンの魔法により、マカロン周囲の温度が極めて精密に制御される。同時に、水分活性も理想的な値に近づいていく。


「0.35......0.32......」


「もう少しですわ」


 私は集中を高めた。


「0.30! 達成です!」


 レオンが興奮して報告した。


「素晴らしい!」


 私は思わず拍手してしまった。


「では、植物繊維シートで包装いたします」


 カレンヌが準備してくれた特殊シートで、慎重にマカロンを包んでいく。ケンイチの技術とアクアマリンの魔法が見事に融合している。


「最後に専用保存容器に封入します」


 私は実験用の保存容器にマカロンを入れ、しっかりと蓋をした。


「実験完了です」


 その時、大きなシステム音が響いた。


【サブクエスト達成】

『海洋温度制御技術導入』を達成しました

 種族間技術融合の歴史的成功

 経験値18,000を獲得

 海洋親和度+150


【新技術習得】

『海洋精密制御術』:海洋魔法を応用した精密制御技術

 効果:温度・湿度制御精度が飛躍的向上


【サブクエスト発生】

『革新的保存技術の実用化』

 ・30日間保存テストの実施

 ・一般向け簡易版の開発

 ・技術レポートの作成

 報酬:経験値25,000/技術革新度+200


「アクアマリン様、素晴らしい技術をありがとうございました」


 私は心からの感謝を込めて頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそ勉強になりました。陸上の料理技術と海洋魔法の融合......新たな可能性を感じました」


「私たちマーメイド族にとっても、貴重な経験でした」


 セレーナも満足そうだった。


「今回の成功で、異なる種族間の技術協力という新しいモデルが確立されましたわね」


 セバスチャンが分析的にまとめた。


「ミレイ様の人脈と技術眼、ケンイチ様の植物繊維技術、そしてマーメイド族の海洋魔法。これらが融合することで、従来では不可能だった精密制御が実現しました」


「これで、緊急王都クエストも大きく前進しましたわね」


 私は達成感に満たされていた。


「ただし、まだ実用化という大きな課題が残っています」


「そうですわね。この技術を一般の料理人でも使えるように改良する必要があります」


 私は昨日学んだ「技術の民主化」を思い出していた。


「アクアマリン様の技術を、魔法陣や道具に固定化できれば......」


「可能です。私の魔法を魔法石に封印し、専用の道具として量産することができます」


 アクアマリンが提案してくれた。


「それは素晴らしいアイデアですわ! ただし、魔法の封印や道具の量産となりますと......」


「錬金術ギルドの範疇になりますね」


 セバスチャンが的確に指摘した。


「私から錬金術ギルドに相談を持ちかけてみましょう。ただし、魔法石への封印技術と専用道具の開発には、相当な費用と時間がかかると予想されます」


「そうですわね......でも、それだけの価値はある技術ですもの」


 私は考え込んだ。確かに費用と時間はかかるだろうが、この革新的技術を一般化できれば、アルネシア全体の保存食文化を変革できる。


「まずは錬金術ギルドとの協議から始めましょう。緊急王都クエストの一環として、支援を求めることも可能かもしれません」


 夕方、マーメイドたちが帰った後、私たちは今日の成果について話し合っていた。


「今日は歴史的な一日でしたわね」


 カレンヌが興奮気味に言った。


「異種族との技術融合なんて、普通は考えられませんからね」


 レオンも感心していた。


「ケンイチさんにも、良い報告ができそうです」


「ええ。同じクエストを受諾している者同士として、技術の共有は素晴らしいことですわ」


 私も同感だった。


「それにしても、ミレイ様の発想力には驚かされます。Aw値の概念を思い出し、マーメイドとの協力を提案し......」


 セバスチャンが評価してくれた。


「一人では決して到達できなかった領域ですわ。皆様のご協力があってこその成果です」


 私は窓の外の夕陽を見つめながら呟いた。


「明日からは実用化に向けた技術開発ですわね」


「30日間の保存テストも楽しみです」


 カレンヌが期待を込めて言った。


 今日は緊急王都クエストにとって大きな転換点となった。Aw値制御理論、植物繊維技術、海洋魔法の三つが融合し、革命的な保存技術が確立された。


 そして何より、異なる種族との技術協力という新しい可能性が示された。これは料理界だけでなく、アルネシア全体にとって重要な意味を持つだろう。


「さあ、新しい技術の実用化に向けて、明日からも頑張りましょう」


 私は新たな挑戦への期待に胸を躍らせていた。


【進行状況】

 メインクエスト:『アルネシア保存食技術革新プロジェクト』(進行度:50%)

 サブクエスト:『革新的保存技術の実用化』(開始)

 制限時間:残り24日と12時間

【アルネペディア】

・アクアマリン:深海出身のマーメイド、0.1度単位での水温制御が可能な温度調整専門家


・海洋精密制御術:海洋魔法を応用した精密制御技術、ミレイが新たに習得した技術


・魔法石封印技術:マーメイドの魔法を道具に固定化し量産する技術、実用化の鍵


・種族間技術融合:異なる種族の技術を組み合わせる革新的アプローチ、緊急王都クエストの重要成果


・海洋性ミネラル乾燥剤:ケンイチが開発した天然乾燥剤、植物繊維技術と組み合わせて使用


・30日間保存テスト:Aw値0.3達成により実現される長期保存の実証実験


・技術の民主化:高度な技術を一般レベルで利用可能にする重要コンセプト、実用化の指針

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ