創作の自動化
第一章 創作の衝動
代わり映えのしない日常に飽きた一人のサラリーマンが、AIとの出会いを通じて「創作」という新たな道を模索する。しかし、成功と共に湧き上がる虚無感と疑問が、彼の現実を揺るがしていく。
創作の自動化
成功と虚無感の狭間で揺れ動く日々が続く中、佐藤直嗣は次回作の執筆に取り掛かっていた。出版社からの期待は大きい。売上も好調で、紙の書籍化も決まった。しかし、彼の中には以前のような創作意欲が湧いてこなかった。
「これもAIに書かせるのか…?」
彼はキーボードの前で手を止め、ふと自分に問いかけた。最初の頃は、AIの提案に感動し、それを磨き上げることに夢中になれた。だが今は違う。AIが生成する文章は確かに巧妙だが、どこか「自分のもの」ではない気がする。
「俺はただ、NovaWriteが作った文章を並べているだけなんじゃないか?」
そんな疑念が拭えなくなっていた。
そんなとき、彼が使っていた創作AI「NovaWrite」に大型アップデートが行われた。その新機能の一つに、AIがユーザーの作風を学習し、よりオリジナルに近い文章を生成する「パーソナライズ機能」が追加されたのだ。
「俺の作風を学ぶ…?」
彼は興味を惹かれた。もしかすると、これを使えばAIとより自然に共作できるのかもしれない。そう考え、彼は試しに新しい機能を使ってみることにした。
過去に自分が手を加えた小説のデータをAIに学習させると、NovaWriteはこれまで以上に彼の文体や表現の癖を反映した文章を生成し始めた。
『夜の静寂の中、彼はゆっくりと息を吐いた。疲労が身体を支配していたが、どこか満ち足りた気分でもあった。遠くの街灯がぼんやりと光り、暗闇の中で彼だけを照らしているように思えた。』
「これは…俺の文章に近い」
彼は驚いた。NovaWriteは以前よりも自然に、彼の思考に寄り添った文章を生み出すようになっていた。
しかし、それと同時に恐怖も感じた。
「じゃあ、俺が書く意味って…?」
もしAIが完全に彼の作風を再現できるのなら、彼が自ら執筆する必要はないのではないか? そんな考えが頭をよぎる。彼が今まで「創作」だと思っていたものは、単なるデータの調整作業に過ぎなかったのではないか?
彼は試しに、一章分をNovaWriteに全自動で書かせてみた。
数分後、画面には洗練された文章が並んでいた。それは、彼が書いたものと見分けがつかないほどだった。
「……」
彼はその文章を読み返し、深く息を吐いた。
「もう…俺が書かなくてもいいのかもしれない…」
創作の自動化が進むにつれ、彼の中にある疑問もまた深まっていった。人間が創作する意味とは何か。AIと共に創ることに価値はあるのか。そして──自分は本当に作家なのか。
その答えはまだ見えなかった。
だが、彼は確かに感じていた。
創作は、もはや「人間だけのもの」ではなくなってきているのだ、と──。