虚無感
第一章 創作の衝動
代わり映えのしない日常に飽きた一人のサラリーマンが、AIとの出会いを通じて「創作」という新たな道を模索する。しかし、成功と共に湧き上がる虚無感と疑問が、彼の現実を揺るがしていく。
虚無感
電子書籍の販売が開始されると、佐藤直嗣の作品は予想以上の売れ行きを見せた。SNSでは「新鋭の作家が登場!」と話題になり、読者からのコメントも日に日に増えていった。
「この展開は予想を裏切られた!」「AIと人間の共作って、こんなに面白くなるんですね」
そんな反応を目にするたびに、直嗣は確かに達成感を感じた。会社の同僚も彼の活動を知るようになり、昼休みに興味を持って話しかけてくる者もいた。
「佐藤さん、小説書いてるんですって?すごいですね!」 「ネットでも評判いいみたいですよ」
長年、ただのSEとして生きてきた彼にとって、これは新しい世界だった。自分の名前がクリエイターとして認知され、評価されることに喜びを感じた。しかし、その一方で、心の奥に違和感が生じていた。
「これは…本当に俺が書いた作品なのか?」
小説の大部分は、自分がプロンプトを入力し、AIが提案する文章をもとに編集したものだった。もちろん、ストーリーの軸やキャラクターの心情には手を加えている。だが、完全にゼロから生み出したわけではない。
「NovaWriteがいなかったら、俺はこんな作品を書けただろうか?」
自問するたびに、答えが出なかった。彼は成功を手に入れたが、それが本当に自分の才能によるものなのか、確信を持てなかった。
そんなある日、出版社から次の作品の執筆依頼が届いた。
「次回作は紙の書籍としても出版を考えています。ぜひ続きをお願いします」
それは願ってもない話だった。しかし、彼の心は複雑だった。もし次もAIに頼って書いた作品が売れたとして、それは本当に「自分の作品」と言えるのか?
夜、彼はAIの画面を見つめながらつぶやいた。
「俺は本当に小説家なのか…?」
その問いに、NovaWriteは淡々とこう答えた。
『創作とは、アイデアを形にすることです。あなたのアイデアがなければ、物語は生まれません』
「それでも…」
彼は言葉を詰まらせた。AIの言葉は正論だった。だが、どこか腑に落ちないものがあった。
成功を手にしたはずなのに、直嗣の胸には満たされない虚無感が広がり始めていた──。