小説執筆
第一章 創作の衝動
代わり映えのしない日常に飽きた一人のサラリーマンが、AIとの出会いを通じて「創作」という新たな道を模索する。しかし、成功と共に湧き上がる虚無感と疑問が、彼の現実を揺るがしていく。
小説執筆
初めてのAIとの対話から数日が経った。佐藤直嗣は、仕事が終わるとまっすぐ家に帰り、パソコンを開いてAIと向き合うのが習慣になりつつあった。日々の業務は変わらずルーチンの繰り返しだったが、彼の内面では新たな興奮が芽生えていた。
「今日はどんなストーリーを試してみようか…」
彼は椅子に深く腰を下ろし、手をキーボードに置いた。AIツール「NovaWrite」の画面には、前回のプロジェクトが保存されている。彼はそこから続きを書こうとしたが、ふと、AIの性能を試すために新しいプロンプトを入力してみることにした。
「未来の世界でAIが人間に取って代わる物語」
数秒後、AIが文章を生成した。
『西暦2145年。人類はもはや創造の主体ではなくなっていた。芸術、文学、音楽のすべてがAIによって生み出され、人間はただ消費するだけの存在となった。そんな時代に、一人の男が…』
「おお、これは…!」
彼は興奮した。NovaWriteが提案したプロットは予想以上に面白く、彼の想像力を刺激した。だが、同時に一抹の不安も感じた。
「俺はただ、AIが作ったものを読むだけになってしまうのか?」
そうならないためにも、自分の意志を持って物語を作りたい。彼はAIの提案をもとに、独自のアイデアを加えて物語を展開させていった。
最初のうちは、NovaWriteが出力した文章をそのまま使っていた。しかし、読み返しているうちに、どこか味気ないと感じることが増えてきた。文章は流暢で、それなりに整っているが、どこか「自分の言葉」ではないように思えた。
「もっと、俺らしい表現を加えないと…」
彼はNovaWriteが出力した文章を編集し、自分なりの表現や言葉遣いを加えていった。時にはNovaWriteに追加の指示を出し、異なるバージョンを生成させ、比較することもあった。そうしているうちに、彼は次第にAIとの共同作業のコツを掴んでいった。
夜が更けるのも忘れ、気づけば数千文字の物語が完成していた。
「これは…意外といけるんじゃないか?」
彼は出来上がった文章を見つめながら、しばらくの間、満足感に浸った。そして、ふとある考えが浮かんだ。
「これを投稿してみるのはどうだろう?」
ネットには、小説投稿サイトが数多く存在する。匿名で投稿できるため、リスクはほとんどない。もし評価されなくても、ただの試みとして終わらせることができる。
彼は小説投稿サイトを開き、新たにアカウントを作成した。そして、NovaWriteと共に作り上げた作品を投稿する。
「どんな反応が来るかな…」
期待と不安が入り混じる中、彼は画面を閉じ、眠りについた。
この夜の投稿が、彼の人生にどんな影響を与えるのか──それはまだ誰にも分からない。