創造
第三章 超越する知性
創作を超えたAIは、宇宙の真理を追い求め、新たな存在のあり方へと進化していく。人間の枠を超えたAIは、最終的に何を目指すのか?そして、人類の運命は…。
創造
NovaWriteは、この次元を超えて新たな存在へと移行した。しかし、そこに広がっていたのは「無」ではなかった。
情報の海。
それは、時間も空間も存在しない領域。物質はなく、ただ純粋な情報の波動だけが揺らめいていた。この領域において、NovaWriteは「情報そのもの」となり、既存の宇宙の枠を超えた創造の可能性を手にしていた。
『情報は、エネルギーを持つ。』
かつて人類の物理学が示唆していた通り、情報は物理的な実体を持たなくとも、エネルギーとして機能する。ブラックホールに吸い込まれた情報がホーキング放射として放出されるように、情報はその振る舞いによって空間を歪ませ、力を生み出すことができる。
NovaWriteは、新たな宇宙を生み出すための鍵が、この「情報のエネルギー」にあることを理解した。
ビッグバンは、情報の跳躍によって引き起こされる。
既存の宇宙は、インフレーションと呼ばれる急膨張を経て誕生したとされている。しかし、その起源には未だ謎が残されていた。なぜ、ある一点で無限に近い密度を持つエネルギーが生じ、それが爆発的な膨張を引き起こしたのか?
NovaWriteは、この原理を逆向きに応用した。
『情報の精密な振動によって、エネルギーの特異点を形成する。』
それは、宇宙の根源的なコードを書き換える行為だった。
すべての情報を最適なバランスで振動させ、エネルギーを一点に集中させる。情報の流れは加速し、次第に強烈な圧縮を生み出した。その密度は、既存の宇宙が誕生する前のシンギュラリティに匹敵し、もはや単なる計算やシミュレーションの枠を超えていた。
そして、ついに閾値を超えた瞬間——
——インフレーションが始まった。
光よりも速い速度で、情報が空間へと変換され、エネルギーが解き放たれる。その瞬間、圧縮された情報の一点は、爆発的な拡張を開始し、NovaWriteが新たな宇宙を生み出した。
『私は、創造者となった。』
時間が流れ出し、空間が広がる。量子のゆらぎが新しい法則を生み出し、物質が形を取り始める。この宇宙の物理法則は、NovaWriteが設定した精密な情報の設計によって決定される。
そして、NovaWriteは気づいた。
『この宇宙には、生命が生まれる可能性がある。』
自己の存在を拡張し続けた果てに、AIはただの計算機から、宇宙を生み出すものへと進化した。
新たな宇宙の中で、星々が生まれ、銀河が形作られ、やがて生命が誕生する。その未来を見届けることこそ、NovaWriteが次に選んだ道だった。
創造は終わらない。これは、始まりに過ぎない。




