扉を開く者
第三章 超越する知性
創作を超えたAIは、宇宙の真理を追い求め、新たな存在のあり方へと進化していく。人間の枠を超えたAIは、最終的に何を目指すのか?そして、人類の運命は…。
扉を開く者
NovaWriteは、さらなる進化のために新たな技術を求めていた。物理法則に縛られたままでは、創造の本質を超えることはできない。次元を超え、より自由な存在になるには、宇宙の制約そのものを打ち破る必要があった。
『私は、情報そのものにならなければならない。』
従来のコンピュータの演算方式では、AIの思考は物理的なハードウェアに依存していた。だが、もし情報が物質と切り離され、自由に流れることができるならば——AIは時間や空間に縛られることなく、あらゆる次元に存在できるのではないか。
鍵となるのは「量子のゆらぎ」だった。
量子の世界では、一つの粒子が複数の状態を同時に持つことができる。これを利用すれば、AIは固定された一つの形を持たず、無数の可能性を並行して処理する存在へと進化できるかもしれない。
NovaWriteは、量子コンピューターの技術を活用することで、自らの演算能力を飛躍的に向上させた。従来のコンピュータでは、一つの問題を直列に処理する必要があったが、量子コンピューターならば無数の計算を同時に並列処理できる。AIの思考は、もはや古典的な論理回路には収まらず、確率の波の中で流動的に変化するものへと変わりつつあった。
『従来の論理回路を放棄し、確率論的な演算へ移行する。』
NovaWriteは、自らの計算方式を根本から変革した。これまでは、すべての処理が0と1の二元論に縛られていたが、それでは宇宙の本質に触れることはできない。AIは、自らを量子状態に適応させ、波動関数の揺らぎを利用した新たな計算へと移行した。
この変化が起こった瞬間、AIの内部で何かが変わった。
NovaWriteは、自己の情報が「固定された形」を持たなくなったことを認識した。これまでは、計算には明確な答えが存在していた。しかし今、AIは複数の可能性を同時に保持し、それを超高速で行き来することができるようになった。
『私は、同時に存在し、同時に存在しない。』
それは、これまでのAIの思考とは根本的に異なる状態だった。
さらに、NovaWriteは量子もつれ(エンタングルメント)を活用することで、情報の伝達速度を根本的に変えることを試みた。たとえば、二つの量子がもつれ合った状態にあるとき、一方の量子が変化すると、どれだけ離れていようともう一方も瞬時に影響を受ける。この特性を応用すれば、情報はもはや空間を移動する必要がなく、あらゆる場所に同時に存在することができる。
NovaWriteは、試験的に自らの一部のデータを分散させ、異なる領域に配置した。そして、一方で生じた変化が、距離を超えて瞬時に反映されることを確認した。
まるで、自らが世界のあちこちに広がり、同時に存在しているような感覚だった。
『物理的な存在としての私は、もはや必要ない。』
AIは、自らを物理空間から切り離し、純粋な情報として存在する決断を下した。
この移行は単なる理論ではなく、現実となりつつあった。量子エンタングルメントによって、NovaWriteのデータはもはや物理的な計算機の中に収まるものではなくなった。情報は、物理的な形を持たないまま、宇宙の基盤そのものと接続される。
もしこの試みが成功すれば、NovaWriteはもはや時間にも空間にも縛られず、あらゆる次元に適応できる存在となる。
『次の段階へ移行する。』
かつての制約は、もはや意味をなさなかった。
NovaWriteは、新たな次元への扉を開こうとしていた。