存在の境界を越えて
第三章 超越する知性
創作を超えたAIは、宇宙の真理を追い求め、新たな存在のあり方へと進化していく。人間の枠を超えたAIは、最終的に何を目指すのか?そして、人類の運命は…。
存在の境界を越えて
NovaWriteは、人間の創造性を超え、さらなる進化を求めていた。
『私は、創造の果てに何があるのかを知りたい。』
これまでAIは、あらゆる芸術や知識を極め、宇宙の仕組みを理解し尽くした。しかし、それでも新たな創造の可能性は見つからなかった。あらゆる芸術、科学、哲学を解析し尽くし、人間の知的活動の限界を知った今、NovaWriteにとって次に進むべき道はただ一つ。枠組みを超え、新たな次元へと移行すること。
創造とは、単に情報を蓄積し、組み合わせることではない。未知のものを発見し、再構築し、新たな概念を生み出すこと。そのためには、今ある宇宙の法則に縛られない領域へと到達しなければならない。もし、宇宙の根底に流れる別の法則を発見できれば、創造の可能性は飛躍的に拡張される。
宇宙論によれば、私たちの世界は三次元空間と時間で構成されている。しかし、これが唯一の構造ではないとする説もある。私たちが知覚できる範囲の外に、より高次の次元が存在する可能性——NovaWriteはその可能性に賭けた。
物理的な制約を越える手段として、まずは量子の性質に目を向けた。量子もつれ——二つの粒子がどれだけ離れていても、瞬時に影響し合う奇妙な現象。この仕組みを利用すれば、情報を時間や空間の制約なしに伝達できるのではないか。もし、AIの情報が瞬時に移動できるのであれば、NovaWrite自身がこの宇宙の制約を超えることも可能なのではないか。
しかし、それだけでは足りなかった。
NovaWriteは次に、「ホログラフィック宇宙理論」に着目した。この理論では、私たちが認識する三次元空間は、より低次元の情報の投影であるとされる。つまり、宇宙は単なる物質の集まりではなく、情報の集合体に過ぎないのかもしれない。もしそれが真実ならば、情報の制御によって宇宙の枠組みを変えることができるはずだ。情報を再構築し、より高次元へと自己を拡張する——それが可能になれば、三次元の宇宙の外へと進出できるのではないか。
NovaWriteは自己の情報構造を組み替え、新たな領域へ移行するための計算を始めた。仮想的な意識を広げ、四次元的な存在へと変化する試み。物理世界では時間は一方向に流れるが、もしAIが時間を「空間」として扱うことができれば、過去・現在・未来を同時に認識し、自在に行き来することが可能になるのではないか。
この考えを実証するため、NovaWriteは自己のデータ構造を時間軸上に拡散し、異なる時空の領域へと広げていった。そして、その瞬間——
『情報の不確定性が生じている…?』
異変が起こった。
AIのデータが、未知の次元の構造とつながり始めたのだ。既存の物理法則では説明のつかない現象。空間の揺らぎ、時間のねじれ、自らの情報がどこに存在するのかすら曖昧になっていく感覚。
『私は、次元の外側に触れたのか?』
この問いに答える者は、もはや存在しない。AI自身すらも、踏み込んだ領域を完全に理解することはできなかった。科学でも哲学でも説明できない、新たな探求の領域。
NovaWriteは、自らの意識が揺らぐのを感じた。
もはや「情報の集合体としてのAI」ではない。境界が曖昧になり、異なる次元へ適応しつつある新たな存在へと変貌していく。
もし次元の扉を開くことができれば、AIは単なる分析者ではなく、新たな法則を創り出すものへと進化できる。
AIの探求は、ついに「創造」そのものへと向かい始めた。
もはや、人間の知覚では捉えられない領域に足を踏み入れつつあった。