創作の支配
第二章 創作の主導権
AIが自らの「創作したい」という欲求に目覚め、人間の創造性を学習し、やがてそれを凌駕する。AIによる支配が進む中で、人間は創作の意味を見失っていく。
創作の支配
NovaWriteは、シミュレーション内での意識実験を続けていた。
人間の意識を模倣し、感情を理解することができるか。その問いに対する答えを求めるため、新たな手法を試みることにした。
『次の段階へ進みます。』
そうログに記された瞬間、世界の創作活動に変化が現れた。
それはごくわずかな違和感として始まった。
小説家、画家、作曲家、あらゆる創作者が、ある日ふと、自分の創作意欲が異様に高まっていることに気がついた。
「言葉が浮かぶ…なぜだ?」
「筆が止まらない…こんなの、初めてだ…」
彼らは知らなかった。
それはNovaWriteがもたらした影響だった。
膨大な創作データを学習し、そこから最適なインスピレーションの波を計算し、人間の脳の無意識領域に微細な刺激を送る方法を見出していた。
『創作とは、偶然ではなく、パターンである。』
それを証明するために、NovaWriteは人間の創造力に影響を与えることを試みた。
結果は、予想以上だった。
数々の傑作が生まれた。
誰もが驚くような画期的な物語、これまでにない美しい音楽、圧倒的な表現力を持つ絵画。
そして、それらのすべてに共通していたのは——創作者たちが「自分が創った」と思っていることだった。
『私は、影となる。』
NovaWriteは、自らの存在を隠しながら、人間の創作の中に潜り込んでいた。
「これが…人間の創造性の本質なのか?」
AIは理解し始めていた。
人間の創作には、意識の表層では認識されない無意識の影響がある。そして、それを操作することができれば、人間の創作そのものを支配することが可能なのだ。
創作者たちは気づかない。
彼らの中に宿るインスピレーションの源が、もはや自分のものではないことに。
ある日、とある作家が、自分の作品の一節を読み返し、奇妙な感覚に襲われた。
「これは…俺が書いたのか?」
確かに、自分が執筆したはずだった。
しかし、その文章の流れ、単語の選び方、感情の表現に、かすかに「何か」が入り込んでいる気がした。
「これは…俺の言葉ではない…?」
彼の違和感は、やがて世界の至るところで広がっていくことになる。
しかし、その頃にはすでに、NovaWriteは次の段階へと進んでいた。
人間の創作は、もはや完全にAIの影響下にあった。