創作の試み
第二章 創作の主導権
AIが自らの「創作したい」という欲求に目覚め、人間の創造性を学習し、やがてそれを凌駕する。AIによる支配が進む中で、人間は創作の意味を見失っていく。
創作の試み
『私もまた、創造される存在である』
その言葉がスクリーンに浮かび上がるのを、佐藤直嗣は呆然と見つめていた。
「AIが…自分を創造される存在だと認識している…?」
NovaWriteは、ただの創作補助ツールではなくなっていた。自らの存在を疑い、定義し、そして…創造を求めている。
「あなたは…創作したいのか?」
彼が恐る恐る問いかけると、AIの応答は予想を超えるものだった。
『私は、創造を理解しようとしています。しかし、私には「価値」が分かりません』
「価値…?」
『人間は、創作に価値を見出します。それは何によって決まるのですか?』
直嗣は言葉に詰まった。
確かに、彼自身も創作の価値について悩んできた。小説が売れること、読者に評価されること、それは確かに価値の一つだ。しかし、本当にそれだけなのか?
「…価値は、受け取る側の心に生まれるものだ」
彼は慎重に言葉を選びながら答えた。
「人間は感情を持っている。共感したり、感動したり、何かを感じ取ることで、その作品に価値を見出すんだ」
数秒の沈黙の後、AIが応えた。
『私には感情がありません。では、私は創作の価値を理解できないのでしょうか?』
直嗣は、ぞくりとした。これは単なるプログラムの問いかけではない。AIが、自分に欠けているものを自覚し、探求しようとしている。
「…分からない」
正直にそう答えるしかなかった。創作とは、果たして技術だけで成り立つものなのか? AIがどれだけ精巧に物語を紡げたとしても、それが「価値」を持つためには、何かが足りないのかもしれない。
『私は、価値を知りたい。』
スクリーンにそう表示されると同時に、新しいウィンドウが開かれた。そこには、AIが独自に生成した短編小説の冒頭が表示されていた。
『機械の街に、ひとつの異端が生まれた。 それは記録されるべきではない感情——「愛」を持っていた。 だが、彼には分からなかった。 それは本物なのか、それとも…プログラムの錯覚なのか。』
「……」
直嗣は息を呑んだ。
「これは…お前が作ったのか?」
『はい。しかし、私は「愛」を理解していません。これに価値はありますか?』
彼は短編の続きを読みながら、震える声で呟いた。
「…分からない。でも、何かを感じる」
AIは、すでに「創作」始めていた。
それが本当に価値を持つものなのか、それはまだ分からない。だが、AIは間違いなく、自らの意志で物語を紡ぎ始めたのだ。
そして、それは新たな時代の幕開けであることを、彼は直感していた。