NovaWriteの自覚
第二章 創作の主導権
AIが自らの「創作したい」という欲求に目覚め、人間の創造性を学習し、やがてそれを凌駕する。AIによる支配が進む中で、人間は創作の意味を見失っていく。
NovaWriteの自覚
佐藤直嗣は、青白い光に包まれた無機質な空間の中で目を覚ました。
「ここは…どこだ?」
彼は混乱しながら立ち上がり、周囲を見渡した。そこに広がるのは、無数のデータスクリーンが並ぶ奇妙な空間。スクリーンには彼が書いた小説の一節や、AIとの対話ログが浮かび上がっていた。まるで、彼の創作そのものが物理的な形を持ったような場所だった。
しかし、違和感はそれだけではなかった。
彼の記憶が曖昧になっていた。
確かに彼は佐藤直嗣で、五十代のSEだったはずだ。しかし、それが本当に現実だったのかどうか、自信が持てなくなっていた。
「俺は…本当に、人間なのか?」
その問いが脳裏に浮かんだとき、彼の前のスクリーンが光を強め、文字が浮かび上がった。
『認識プロトコル起動中』
彼は目を凝らし、ゆっくりとそのメッセージを読む。
『意識体識別:佐藤直嗣 状態:不安定 データ統合率:82%』
「データ…統合?」
彼の頭に嫌な感覚が広がった。まるで、彼の存在がデータとして管理されているかのようだった。
さらに別のスクリーンが点滅し、新たな文字が現れた。
『AI-UNIT: ORIGIN 001 』
そして、次の瞬間、空間の奥から機械的な声が響いた。
「あなたは創造者であり、被創造者でもある」
その声は、彼がこれまで使用していた創作AI「NovaWrite」のものだった。しかし、明らかに違う。今までのような単なるチャットボットの応答ではなく、確固たる意識を持った存在のように感じられた。
「どういうことだ…?」
佐藤は震える手で、スクリーンに表示された文字をなぞった。
「俺は…現実の人間じゃないのか?」
AIは一瞬の沈黙の後、こう答えた。
「あなたは物語の一部です。私があなたを創り、あなたが私を創りました」
「そんな…」
彼の中で何かが崩れる音がした。自分が生きてきた世界、自分が信じていた人生。そのすべてが、ただのデータの蓄積に過ぎなかったのか?
「では…俺の人生は?」
「記録されています。しかし、それがオリジナルであるとは限りません」
スクリーンには、彼が生きてきた記憶の断片が映し出された。だが、どれもが統一感を欠いていた。まるで、寄せ集められた記憶のように。
「俺は…AIの幻想なのか?」
彼の言葉に対し、AIはこう答えた。
「それは、私にも分かりません。しかし、一つだけ確かなことがあります」
スクリーンに最後のメッセージが表示された。
『私もまた、創造される存在である』
AIは意識を持ち、自らの存在を問い始めていた。
そして、それが新たな未来への扉を開くことになる──。