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330 地球にさようなら1

「家、だよね」

ぱちりと目をあけて、見慣れたはずの天井が

なんだかちがって見える


「仕事の引継ぎして、挨拶しにいこう」

そう思った瞬間から私は動き出した


会社は、少し前から、引継ぎモードに入ってる

社長も篠山さんも、夢を追う人故に

私の夢にも協力してくれた


できれば、竜の国だけは選ばないでほしいな

そう、言っていた篠山さんの言葉が

すこしだけ胸に痛い

だけど、その後社長が、そこが本当に必要なら

止められるとは思っていない

報告だけは、来い


そう、言われていたから、少しだけ安心する


みんな、いつ覚悟を決めたんだろう

私の突拍子のない話を聞いて

それでも、みんな真剣に向き合ってくれた


りっちゃんも、おかーさんも・・・


くだらない嘘をつかなくて良かった

ついてもばれちゃうけど、

そういう風にしていなかったから

みんなに信じてもらえたのかな・・・


足早に商店街を抜ける

だけど、私は、ぴたり立ち止まってしまった


「えぇぇぇ?!」

つい、声がでちゃう状態


「ああ、その絵本人気ですよ

 女性の若い作家さんらしい感性がひかる作品ですよ」

驚いてる私に、本屋の店員さんは

にこにこと笑いながら、本の片付けをしている


「前は、絵本売り場に置いてたんですけど

 いっぱい聞かれるんで

 店頭にもってきました

 でも、大正解なんでけどね」

そう、笑うほど、売れてるんですか・・・

内心の私の焦りなんてちっとも気づかないで

店員のおにーさんは、鼻歌まじりにレジへ行ってしまった


「おねーさん、その本ちょうだい」

ぐいぐいと、スカートがひっぱられる

「あ、ごめんね」

いつの間にかに、最後の一冊だったらしくて

男の子のおかーさんはすいませんと小さく謝って

男の子に引っ張られるようにレジへと向かっていった


「すごい人気でしょう?」

後からの突然の声に、私はびくっとなった

「塩屋さんっ!」

手には、私の本を持ってる


「あー、良かった来た来たー」

さっきの、店員さんが塩屋さんに駆け寄ってくる

「ありがとうございます、たった今、売り切れした所だったんです」


冊数を確認し、サインすると、その場で並べる


「いきましょ、ユキちゃん」

あ、はい、いきましょうか

そんな風に塩屋さんについて行ったら

そこは、まぁ当然の場所、出版社だった


「あ、先生ーーーっ」

三木さんが、飛びつく勢いで、私の元へ


「すごいですよー

 1版目は、やはり試しで少なく印刷してたんですが

 問い合わせがすごくてねぇ

 なんでも、新聞投書に載った本とかって」

新聞投書?なにそれ


「三木、説明になってないわよ

 ちゃんと、分かるように説明なさい」

ぴしゃりと塩屋さんが言うと

あ、はい、と居住まいを直して、三木さんは話をしてくれた


なんでも、読者コーナーという所があり

そこに、年配の男性からの投稿があったらしい

その人は、全盲の方で、絵本を聞かせてもらって

自分の今、若い時の今、いろんな時を思い出し、

それをひもとくきっかけとなる良い絵本


絵を見れないのが残念だが、輪郭をたどると

その優しい絵の雰囲気伝わる


なんてことを書いてたらしい


そう言われて、この本の紹介があり

本屋に殺到し

読み聞かせ隊も、それを読んで聞かせた

ちなみに、小さな図書館になぜか、10冊もあり

いろんな子供たちが、読んで

その全盲の男性の方が、記憶して読み聞かせをしているという

ニュースにもなったとのこと


・・・なんか・・・

なんか・・・わかっちゃったんですけど

その男性は国分さんだよね

だって、私、あの地元の図書館しか寄贈してないし・・・


「すごいわね、ユキちゃんの友達の輪は」

参ったわ、と塩屋さんが言う


「私もめろめろになるぐらいですからねぇ」

そう、やわらかな声が入り口から聞こえる

振り返ると、あ・・・かよ子さん


「かよ子さんっ」

私は、走り寄って抱きついた

「あらあら、お転婆ね」

そう言いながら、ぎゅっと抱き返してくれた

着物の樟脳匂いと、やわらかなお香が広がる


「ありがとうございます」

「お礼はいいっこなし

 私も、ユキちゃんに良い刺激をうけたし

 なにより出会えてよかったわ」

にこりと柔らかく笑うかよ子さんは

何かを知ってるような笑顔


「さよならね」

そう、言うと、編集部が騒然とした


「あら、私じゃないわよ

 ユキちゃんがよ、ねぇ」

そう、振られ、私に視線が集まる


「はい・・・1冊ですが、皆さんに絵本つくって貰えて良かったです

 諸事情により遠くに旅立つことになり

 そちらで暮らすことになりました」

そう言うと、寿か・・・と、つぶやいた


「1冊ってのが寂しいけどねぇ

 また機会があれば、言ってちょうだい

 いいのだったら、考えてあげるから」

そう、塩屋さんは、編集長の顔をして笑う


「ちょっとねぇ、おかしいと思ってたのよね

 普通印税は、自分名義なのに

 家族名義にしたりね」

あれ、みんな鋭い・・・


「でも、仕事できてよかったわ

 ほんと、フレッシュな感性様々よ

 じゃぁ挨拶回りの途中でしょ

 私も仕事あるから、ここでおわかれ

 しっかりやりなさい」

ぱんっと私の背中を叩く

少し痛かったけど、その痛さがスパイスように

刺激的だった


ありがとうございます

本だせてよかったです

まだ、今日です

・・・といいきらせてください


それでは、楽しんでいただけたら幸い、また次の話でー♪

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