317 世界の境界線2
「あら、びっくり、帰ってきてたのね」
おかーさんが、部屋に入るなり一言
んー、やっぱり、連絡なしは駄目だったかなぁ
「とりあえず、かぁさんに譲るけど、後で聞かせろよ」
それを合図に、咲良と海人、そして、深徳が立ち上がった
「別に大丈夫だよ?」
あ、そうなの、という顔をして、全員着席
「座る前に、お茶ぐらい差してちょーだいな」
おかーさんがそう言うと
それどころじゃないの、という顔をした海人に
どんな風に伝言ゲームされたのかちょっと心配になる
おかーさんは、どこ吹く風で、手洗いうがいを済ませて
その間に用意したお茶をすすって一言
「で、結婚でもするの?」
まぁ、うん、そう言いますよね
うん・・・
「結婚は、んー、まだわからないけど
ある意味そんな感じかな」
「なんだよ、それ」
そういきり立った咲良がおかーさんの視線で着席
話は最後まで聞きなーい、と言う前の顔ですね、それは
「信じてもらえるかどうか、わからない話だから
えっと、まずこの本見てもらえる?」
そう言って絵本を差し出すと、
おかーさんは、黙ってその本の表紙を見て
広げた
「ユキの絵ね」
「え?ねぇちゃんの絵なの?これ?」
ぱらり、ぱらりと、ゆっくりとした動作で
絵本をめくりながらおかーさんは、
目線は絵本のままそう言うと
弟たちからは、驚きの声が上がる
まぁ、私、そこまではうまくなかったもんね
それに、本になってるなんて
みんな思わないよね
でも、おかーさんは流石かな
「是非、おとーさんにも見て貰わなきゃね
みんなは、後でゆっくり読みなさい
話の続きをしましょ」
そう言っておかーさんは私の目を見た
何を言ってもいいよって言われてる気がする
そうやって、話が聞ける時は、ちゃんと聞いてくれたおかーさん
忙しくてもみんなのことちゃんと考えてくれてて
私のことも考えてくれてるって感じたのは
優しい手と、笑い声と、この視線
うん、ありがとう、おかーさん
「あのね
前来た時にも話たけど、
いっぱいいっぱい進みたい道ができちやったの
その一つは、今の会社で働いて
ちょっとおつきあ
いしようかな、と思ってる人たちのどちらかと親密になること」
「え、ねぇちゃん、彼氏って、いてぇよ」
ばしっと後頭部を深徳に叩かれた海人が頭をさすりながら
言葉を止める
「で、親友のりっちゃんと、今着てる服とアクセサリーのお店を作ること
私一人の夢は、今みんなに見て貰った絵本を書くこと
それが、ここで出来る夢なの
絵本ね・・・昔、おばさんの編集者の方に見て貰ったの
そしたら、おばさんったら、私のこと頼むねって書いてあって・・・」
そう言葉に出したら、声が震えてしゃべれなくなった
ありがとう、おばさん
ありがとう、塩屋さん
ぼろぼろ涙をこぼす私に、おかーさんは
ぽんぽんと頭をなでてくれた
「大事だね、人とのつながりってのは
絵本つくってもらえて良かったね」
そう言って、私が泣き止むまで、
みんな待ってくれた
みんなおばさんを覚えてる
覚えてなくてもあの絵本の人って、ちびちゃんたちでもわかる
それぐらい私たちにとって大事な人
そのおばさんが、私を一等かわいがってくれて
編集者である人にたくして
そして、夢を叶える足がかりを作ってくれた
出来て良かった
みんなに言えて良かった
人とのつながりが大事だって理解できて良かった
だけど、あと1つの夢は
その絆を失う夢・・・
どうやったら、言えるんだろう
でも、あちらの絆も切りたくない
もう、あえなくなるのは、いやだから・・・だから・・・
家族には、私の大事な人には伝えたい
私は決心して、口を開いた
319話までは、書き終えてるので
毎日更新予定ですが、帰宅時間が不明なので
何時更新とはいえないけど、
ちょっとの間だけでも、昔のようにたのしんでねー