316 世界の境界線1
「ただいま~」
からり、と玄関を開けるとちょうど通りかかっていた
芙遊ちゃんにびっくりした顔で
「あれぇ、おねーちゃんだ、どうしたのー?」
なんて言われちゃった
そりゃぁ、帰るともいってないもんねー
驚かしてごめんね
と思いつつ、学校であった出来事とか
お茶とか、夕食の準備を手伝うというより
教えながらいたら、弟たちがうぉーーーなんて叫びながら入ってきた
「誰かと思った」
そう言って、おずおずと手を伸ばしたのは深徳
骨張った男らしい手が、私の髪の毛を掴んで放す
その仕草が、なんだか男らしくて
大事だよっていう表現に思えて、いなくなると寂しがるかななんて思うと
じわりと涙がにじみそうになった
「ねぇちゃん?」
ふるふると首をふると、少し困ったように笑って
あとで、と昔と同じ仕草合図された
あらら、心配されちゃった
それもそうよね~、用もないのにかえって来てるとは思わないし
泣きそうになったら心配するよね
とおもったら、ぽすっと足と腰に重みが・・・
「ただーいま」
えへへへと、花ちゃんと太郎くんが笑い
玄関からのかけっこで、他の子より走って勝って私に抱きつく権利をゲットしましたー
みたいな顔で、にこにこ顔
いやん、可愛い
可愛すぎる
他の子は、残念そうに、ちぇーって顔
後でぎゅっとしますよ、おねーちゃんは、ぎゅっとしたいから
あーもー、やっぱり可愛い
ある意味子竜ちゃんたちは、ちっちゃな時期って短かったもんね
人間より大人びてるところもあったしね
そういう意味で手はかからなかったよねー
「みんな、手洗いうがいしてこよーね
おやつにしよう」
そう言うと、ぱっと手を放して、一目散
早いけど、ちょっと体温が恋しくなっちゃった
「おねーちゃん、こっちはー?」
料理最中の子たちがちょっと困り顔
あはは、目放しちゃだめだよね、ごめんごめん
「ユキねぇが、台所に立ってるとなんか嬉しいよなぁ」
隣の部屋から、ちょっと顔を覗かせて笑う弟たち
「ずっとだったもんねー」
私がそう答えると、そーそー、と笑いながらうなずく
当たり前の日常
だからこそ、幸せ
その日常が終わったのは、高校を卒業した時
その時までは、この幸せが幸せだとは気づいてなかった
私の日常は、家事と弟妹の世話一色で
一緒にいられることは嬉しいけど、嬉ばかりじゃなくて
友達と遊べなかったり、勉強がしにくかったり
自分の時間がとれなかったり
そんな風に不平に思ってた
いざ、一人になって
あの暖かさが恋しくて仕方なかった
そして、この暖かさに戻ると家族という幸せのぬくもりだったことに
気付けた
私も、そんな家族がほしい
おかーさんは、きっと、私は外にでないと気付けないって知ってたのかな
それとも、誰でもなのかな
弟妹たちは私の不在という穴に、家族の大事さを理解してるみたい
だから、声に出して言うんだよね
そして仕草で表すんだよね
泣きそうになったから、今も隣の部屋で、ぼそぼそと作戦会議
ちょっとこちらを覗いては
目があうと、にこっと笑ってくれる
そんなことされたら、困るじゃない
私、出て行っちゃうかもしれないんだよ
ほんと、困ったな・・・
どうやったら説得できるんだろう
新しい副題で、続きです
さーて、仕事は連日規定時間をかるーく2.3時間オーバーしてますが
口内炎と闘いつつ、今の所は元気です
書きたい欲に押しつぶされる前に書いちゃいましょうー