313 広がる世界12
「ユキちゃん、行くよー」
そう言って、篠山さんは運転席に座る
私は、現場の人たちが使う資料入れに奮闘中
A1サイズのポスターが入る二つ折りの鞄なんだけど
軽くていいんだけど
風が吹いてるとながされるぐらい、大きくて
ちょっと扱いに困ってます
「あんたってほんと、器用なのか不器用なのかわかんない子ねー」
なんて言いながら、先輩が片方を支えてくれて
私は、荷物の詰まった後部座席の隙間に鞄を置いた
「じゃ、いってらっしゃーい
楽しみにしてるわー」
そんな鼻歌歌いそうな感じに先輩に見送られると
ぷすり、と篠山さんが笑った
「何、約束したの?」
「エクレアを買ってくる約束・・・ですかね?」
疑問系で答えちゃうけど
約束っていうとこれしかない
「エクレア・・・
ああ、シュークリームだね」
まぁ、似たものですが、ちょっと違うものかな・・・
そして、シュークリームだったら
私はまだ、うれしかった・・・
「お使い・・・というか、お土産頼まれてますし
せっかくなので、かよ子さんのところで一緒にたべませんか?
風月のエクレア」
私がそう言うと
「そうだね、手土産買ってないしね」
そう言って、篠山さんは車を軽快に走らせる
風が強いのか、所々で、ぐるぐる渦巻いてるビニール袋や
ぴんっと張り詰めた旗
それに、髪やスカートを押さえる女の人たち
「風、強いね」
「そうですね」
なんてたわいのない話をしながら
私は、竜の国のことを考えてた
風の強い夜
ちょっと怖かった日があって
子竜ちゃんたちは何とも思ってなくて
普通に遊んでたけど
いつの間にか私の周りに集まってたよね
私が怖い、とかそう思うと
みんなそばにいてくれて
おかーさんなのに、護られてたんだよね
だから、おかーさんじゃないって言われてもしょうがないのかな・・・
護れないけど、護りたかった
大事にしたかった
みんなといたかったんだよね
寂しさと、暖かさが胸に染みてくる
「風が強い日ってさ
なんか、楽しいよね」
そう言われて、篠山さんと一緒ってことにはっとした
「楽しい・・ですか?」
「あれ、ユキちゃんは違うのかなぁ
僕は子供の頃、風が吹く音聞いて
外に行きたがって、親に止められたなぁ」
あはは、そういえば、弟たちも、雨、風かまわず
外で遊んでたよね
むしろ、飛び出していったよね・・・
やめなさーいっとか言ってたのは
あとで風邪引くからで
なんで、そうするのかなんて考えなかったな
「弟たちが、そうでしたけど
私は、どっちかというと怖かったかな・・・」
「あー、確かに怖いってのもあるねー
特に夜とかはね
ただ、わくわくするんだよね
何か起こりそうって気分になってさ」
そう言う篠山さんの顔は、少年のようで
弟たちや、子竜ちゃんたちが飛びたいって言った時の顔に似ていて
素直に笑ってしまった
「あはっ何言ってるんだろうね」
そう言って照れて篠山さんがちょっと可愛かった
「男の人って、いつまでも男の子なんだなぁって
ちょっと思いました」
図書館で三木さんにあったりしながら
私は久々に絵本をたくさん読んだり、借りて帰った
男の子は王様や王子さまになりたいんじゃない
冒険者や勇者になりたがって
女の子は、お姫様やお嫁さんになりたがった
どこから、男の子と女の子の違いって生まれるのかなぁ
女の子でも冒険好きな子もいて
男の子でもきらきら可愛いお話がすきだったり
だけどいつの間にか、変わって行っちゃう
でも、私も篠山さんも、きっとみんな
心の中に記した最初のときめきは、忘れてないんだろうなぁって
そう思えた
お話って・・・確かに・・・降ってくるのかも
「はい、どーぞ」
私がごそごそと鞄の中を探してると
篠山さんは、ノートとボールペンを差し出してくれた
「え・・・あ、はい」
受け取って、かりかり今浮かんだ話と絵を描いて行く
子竜ちゃんたちと、冒険にでかけた少女
少女は、みんなの宝物をみせて貰う
きらきらしたり、とがってたり、みずみずしかったり
いろんな宝物
少女の宝物は何?
みんなが聞く
そんな・・・話
ふー・・・かけたー
「篠山さん、ありがとうございます」
そういって、顔を上げた時、目の前に空が広がっていた
「わぁ・・・」
雲が見る間にぐるぐると渦巻き、形を変えていく
真っ青な空に、真っ白な雲
なんか・・・篠山さんの言ったことわかったかも
いつの間にか車を降りて、
ぐっと肩の上に手を伸ばして大きくのびをしている篠山さんの姿が
一枚の絵のようだった
「なんか、わかりました」
篠山さんに向かって叫ぶ
「何がー?」
逆光で顔は見えないけど、篠山さんはきっと笑顔
そんな楽しげな声が、響いて来た
「風の強い日、何かが起こりそうってことですー」
そう言うと、そうだろーっ
って駆け寄って来た
「外に出たら世界が違うんだよ
ユキちゃん」
そう言って、篠山さんは、私をひょいっと抱き上げた
ええぇぇぇ?
「少し目線を変えてもね」
そう言ってくるりと回る
目が回りそうだけど、世界が、ぐるりと360度
青と白とそして木々の緑
そして篠山さんの笑顔
私たちは笑いあった
少年と少女のように
おかしくてたまらない世界に、そして、どこまでも続く世界に
世界は怖くないよって
冒険してもいいんだよって、太鼓判押された気がして
安心して笑えた
・・・くっ・・・復活まで約2週間かかりましたか
時がたつのは早いですね
そんな私の小説を変わらずみてくれてありがとう
そして、まだ待ってくれている人、応援メッセージくれてありがとう
まだまだ続きます、がんばりますよー