世界の階(きざはし)12
「ユキちゃん、これを本にしたい?」
口調は、昔と、そしてさっきまでと変わらない塩屋さんなのに
目は、私を射すくめるような強い視線
でも、私はその視線に負けない
だって、本当に本にしたいって思ってるから
おばさんも言ってた
半端なものをお金だして買ってもらっちゃ駄目
絶対あとで後悔するから
そう、言ってた
もし、私が服でも、本でも
半端なものを売ろうとしたら、
まず周りの人が止めてくれると思う
でも、私も嫌だと思う
ま、いっか・・・で済まされないよね
お金払うんだし、好きが、ま、いっかじゃ
両思いにはなれないよね
だから、私の片想いが誰かに届くようにって
大好きや大切や幸せっていう気持ちを込めて
作ってる
子竜ちゃんたちの服も自分の服も
まだ知らない誰かの為にも
だから、私は、本もそうしたい
いつか、読んでくれる人に
私か思う大事な気持ちやみんなを好きだってていう気持ち
自分でちゃんとしなきゃいけないっていう事を伝えたい
だから、塩屋さん、私に強力してください
「塩屋さん、私、本にしたいんです
誰かに、読んで貰って
私がずっとおばさん誰かの本を大切に想うような本にしたいんです」
そう言うと、苦笑した
え、苦笑されちゃうんですか・・・
なんでだろう・・・
「あの人の血筋だねぇ
いつも、誰かがいるんだよね」
おばさんも、そうだったんだ・・・
嬉しいな
「解った、じゃぁ、ユキちゃん
これ、9月までに仕上げて
12月に出そう
今年最後のプレゼント商戦に間に合うように」
・・・プレゼント商戦
子ども向けのクリスマスプレゼントなのね
凄い、なんか一気に現実味を帯びちゃった
「次来たときに、契約書用意するから
判子持ってきてね
あと、作家名も考えおいてね
作品名もね
こっちでも、考えておくから」
そう言って、話しは終わったとばかりに席を立つ塩屋さん
私に構ってる暇はないよね
実は、さっきから、何度もぶーぶーって携帯のバイブの音が聞こえてた
でも、出ないで私に付き合ってくれたのは
塩屋さんの優しさであり、
私という新人に対する、仕事の在り方を教えてくれたような気がする
「ありがとうございます
よろしくお願いします」
私も、立ち上がって、ぺこりと頭を下げて上げると
塩屋さんは、扉の前で、にこりと笑った
「ユキちゃん応援してるよ
でも、その分期待大だからね」
そう言って、扉を開けて出て言っちゃいました
あはは、有り難うございます
私も出ようとしたら、もう、塩屋さんの声が
フロアに響き渡る
鳴る電話に、対応する声
その活気溢れる声が、1歩進んだ私を包み込んだ
「さ、行きましょう」
かよ子さんは、ソファーで待っていたみたいで
私の姿を見つけると、立ち上がって手招きをしてくれた
「はいっ」
そう言ってかよ子さんに近付く
「先生方、お疲れさまです」
そう、三木さんが、深々とお辞儀をした
「はい、三木さんもお疲れさま
皆様にも宜しく申し上げてね」
そう言って、かよ子さんが言う
先生方・・・私も???
「せ・・・先生?」
つい、呟きが漏れちゃって三木さんは、頷いた
「はい、期待のホープです!
是非、担当になれるように交渉するつもりです」
あれ、なんか話しが大きくなってる・・・
でも、確かに頑張れば、そう呼ばれるんだよね
「まだ、先生じゃないですが
これから頑張ります
どうぞ、宜しくお願いします」
私も負けじと、ぺこりとお辞儀をした
なんか、ホントにいろんな人が応援してくれてる
うん、頑張ろう
予約20時です
3日連続予約になるけどごめんなさい
そして、祝300話
まだまだ長くなりますが、2章終わるまでは区切りません
見づらくてごめんね