当たり前の日常14
私は、りっちゃんとデート中です
仕事帰りに待ち合わせして
兎の穴に行く予定なのです
からんっと涼しげな音を立てて鳴る
ドアベルを開けると
短髪のおねーさんが、いらっしゃいませと
言おうと口が動いたのに
「あ、佐藤さん、八重坂さん、こんにちは」
って言われちゃた
「「こんにちは」」
二人同時に挨拶をしたから、顔を見合わせて
くすくす笑っちゃった
同じテンポで、同じようなこんにちは
びっくりするほど、はもっちゃった
「二人は仲良しだね~」
そう言って、後ろの紐カーテンを覗く
「今、佐藤さんの服試着してる子いるよ」
そう言って、カーテンを掻き分けたままの状態で
どうぞ、と誘われる
「あ、ありがとうございさます」
ちょっと、緊張するかも
そういえば、りっちゃん以外で
自分の服着てるのって子竜ちゃんたちだけで
買ってくれた人が服を着てるのって初めて見るかも
それも、買う前だし・・・
中に入ると、まずまずのお客さん
私たちのブースにいるのは、2グループかな?
それとも、3人と1人と1人の3グループかな?
私たちもお客のふりをして、ブースに近付く
「手縫いなんだって・・・」
その声は、感心と呆れを含んでた
「あり得ない」
3人グループの子の2人がそう言う中
1人だけ、私の服を真剣に見てる子が私の服を抱き締めて
彼女たちに振り返った
「大変かもしれないけど、私はこっちが好き」
こっちが、照れちゃうほど、率直に
笑顔で何のてらいもなくそう言った
「はいはい」
呆れ半分で返す友達を気に掛けず
彼女は、服を見てる
うーん、強いなぁ
私だったら、別の機会に来ちゃうなぁ
「ど、どうかな?」
しゃっとカーテンが滑る音がして、更衣室から
女の子が出てきた
るりちゃん色の紺色のワンピース
形はシンプルだけど
スカートにレースで、ループを描いて表情をつけた一品
「可愛い~」
1人で服を見てた子が、ピンクと白の大きなストライプの服を持ったまま
彼女に近づいてそう言った
「あら、良いじゃない」
店長さんも、上から下までじっくり見てそう言う
「凄く着心地が良いんです
私、敏感肌だから、既製品の返しの所ですら
ちくちくするけど
この服って、そういう返しの所、全部袋縫いにしてるでしょ?
なんで、このお値段で出せるんだろう
手縫いだし、布も柔らかいのに・・・」
あれ?安かったのかなぁ
これでも結構高いって思ってるんですけど
ちなみに、彼女が来てる服は3900円のもの
高いと思うんだけどなぁ
「ね、心配すること無かったでしょ?」
りっちゃんが、ぽそりと囁いたので
私はこくりと頷いた
だって、服に3900円とか、なかなか出せないもん
服買うときって、セール狙って行くしね~
ちなみに、袋縫いにしたりしてるのは
子竜ちゃん達が、引っかけちゃうから
自分の服とかだといいかなぁと思ったけど
たしかに、一度、袋縫いしたの着ると合わせ目が気になるし
あと、ロックミシンもないから、端の始末ができないからってのも
理由の1つだよね
でも、良かった、彼女みたいに
敏感肌の人は、タグとかそういうのも駄目っていうもんね
「私、これ着てみたい」
もう1人の彼女は、ピンクと白のストライプの服を試着しに更衣室に
入っていった
「こんにちは」
するり、と店長さんが私たちの方に来てぽそぽそっと挨拶をしてくれた
「凄く好調に売れてるわ
さっきみたいな肌の弱い方や、素材感を活かした服の好きな方が手に取るわね
追加があるなら持ってきてほしいわ
予備のも出してる状態だから」
そう言うと、さっと離れて、他の方の接客に行っちゃった
うーん、黒兎さん今日も忙しそうです
「行こっか」
りっちゃんがそう言ったので、私たちはその場を離れた
でも、もうちょって見ていたいなぁ
りっちゃんの装飾品ブースにも、じっくりと眺める人がいる
真剣そのもので、その瞳に吸いこまれそう
イベント会場では、あんなにゆっくりは見られないから
瞬間的に決めてーになっちゃうけど
試着して、ゆっくり見たら、何だろう対話っていうのかな
自分と物の、見た目だけでは解らないものが見えてくるもんね
お店っていいなぁ
よ・・・予約するの忘れてたっ
早めに帰る予定にしててよかったぁぁぁぁぁ
ということでただいま、暑かったけど、久々の遠出は楽しかったですヨ