第5話:迷宮の入り口
体調には波があった。
具合が悪い日と、とても具合が悪い日があった。
憂鬱な日と、とても憂鬱な日があった。
相変わらず下痢は続いていた。
ずっとだ、ずっと続いている。
僕は過敏性腸症候群持ちだったから、下痢はよくあることであったが、ここまで続くことは流石になかった気がする。
それまでは大して気に留めていなかった僕も、冬休み前に行われる3年後期試験が迫るにつれて次第に焦りを感じてきた。
このまま後期試験に突入したらどうしよう。
日々の生活でさえなかなか上手くいかないのに、こんな身体で重たい試験の数々を乗り越えられる気がしない。
しばらく休めば元に戻ると考えていた僕も、流石にそろそろ心療内科を受診すべきではないかと思うようになった。
しかし、迫りくる後期試験への準備と日々の講義の忙しさに、受診する機会を作れないまま、時間が過ぎていった。
そんな時だった。
僕が「それ」に気づいたのは。
それは、
【焼き肉のたれを食べると、翌日体調が悪くなる】ということだ。
後期試験のために毎日必死に勉強していたから気づいたんだ。
焼き肉のたれを食べると、どうにも集中が切れやすくなる。
そこで初めて、僕はこの「焼き肉のたれ」が僕の体調不良に何らかの形で関係しているのではないかと疑うようになったんだ。
どうだい、僕の頭がおかしくなったと思うかい?
僕もおかしくなったのかと思ったよ。
だからすぐ周りの人にこの話をするなんてことはできなかった。
うつ病になった上に、頭までおかしくなってしまったなんて思われたくなかったからね。
まさか、この小さな発見がこの先10年以上続く物語のきっかけになるなんて、思いもよらなかったよ。
君だってそうだろ?
『焼き肉のたれ』
これが、このさき連綿と続く迷宮の入り口だったんだ。
(つづく)