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第42話:牽制するシャーレ

ここでペニシリンの話をしよう。


ペニシリンは現在の人類史において最初に発見された抗生物質(抗菌薬)だ。

つまりペニシリンには細菌を殺す作用がある。


極めて人類にとって都合の良いこの物質が、いかにして人類に発見されたか。

その経緯を話そう。


ペニシリンを見つけたのはフレミングという名のイギリスの研究者だ。

彼は細菌の研究をしていた。


細菌を研究するためには、手元に生きた細菌が必要だ。

これを用意するために、研究者は小さなガラス製のお皿(容器)を準備する。

このお皿のことをシャーレと呼ぶ。(検索して画像を見れば理解しやすいだろう。)


この底の浅いガラスのお皿 (シャーレ)の底部に、寒天を敷いて、固める。

この栄養を含んだ寒天の板が、細菌を培養(*)する場となる。

これを寒天培地(*)と呼ぶ。


彼は、黄色ブドウ球菌という種類の細菌を研究していた。

だから、研究室には黄色ブドウ球菌を培養しているたくさんのシャーレが存在していたらしい。


そして、ある時、この黄色ブドウ球菌のシャーレにカビが生えてしまっていた。


カビの生えたパンを思い浮かべてくれたらいい。

黄色ブドウ球菌が生えている部分は寒天が白く濁る。

この全体的に白い寒天培地にアオカビ(青色)が点々と生えていたのだ。


そしてフレミングは、そのアオカビの周囲に環状に透明な部分があることに気づく。

この透明な部分には、黄色ブドウ球菌が居なかったのだ。


彼はこの奇妙な事象を見逃さなかった。

アオカビが周囲に発している物質の中に、「黄色ブドウ球菌を寄せ付けない何か」があるのだと勘づいたのだ。


この透明な環状領域に含まれる物質を抽出することで、人類は初めての抗生物質、「ペニシリン」を手に入れた。


つまり、「アオカビ」は自身の周囲に「ペニシリン」を発することで、「黄色ブドウ球菌」を牽制していたのである。



僕がここでペニシリンの話をしたのは、単に雑学を披露したかったからではない。

これが水銀真菌症に関係があると思っているからだ。



(つづく)



【用語解説】

*細菌の培養:細菌を人工的に用意した環境の中で、育てて増殖させることを、培養すると表現する。

*培地:細菌を培養する場所のことを培地と呼ぶ。

*寒天培地:シャーレに寒天を敷いて固めた培地のこと。細菌培養にしばしば用いられる。

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