第41話:お花畑という名の戦場
それは乳酸菌サプリメントだった。
ナイスタチンの服用ができなかった僕に、ドクターAは残りの三種類のサプリメントによる治療を継続するように助言した。
その三種類のサプリメントのうち、一種類は乳酸菌サプリメント(ビフィズス菌サプリメント)だった。
乳酸菌サプリメントにもまた、カンジダ菌を死滅させる作用があるらしい。
そのメカニズムについては、意外なことに調べてもはっきりとした情報は少ない。
この分野はまだまだ研究途中の内容であって、はっきりとした定説は確立されていないのではないかと考えている。
ちょっと今忙しいから、今自分の中にある知識でざっくり書いていくけど、余力ができたら大幅に追記していくよ。
さて、このビフィズス菌サプリメントの作用機序を知るためには、まず先に腸内フローラを知る必要があるだろう。
フローラっていうのは、「お花畑」って意味だ。
大腸粘膜上には、様々な種類の細菌や真菌が住み着いており、その多種多様な微生物たちが一面に広がっている。
この様子を、「たくさんの種類のお花が咲き誇っているようなお花畑みたいだね」という大変メルヘンなイメージでお考えになった人が居て、それで「腸内フローラ」っていう表現が生まれたらしい。
でも実際の大腸粘膜上は、そんなメルヘンなイメージとは真逆で、むしろ血も涙もない残酷な世界だっていう方が正しいと思う。
詳しく話そう。
大腸粘膜上の微生物は大きく分けて、善玉菌、悪玉菌、日和見菌という3つの勢力に分かれている。
そして、その三つは中国三国時代の魏・呉・蜀のように、絶えず殺し合っているのが実情だ。
ざっくり説明すると、善玉菌は人間にとって有益な微生物だ。
人間の体調をいい方向に整えてくれる作用があるらしい。
悪玉菌は人間にとって不利益をもたらす微生物だ。
人間の体調を悪い方向に引っ張って行く作用がある。
日和見菌は、善玉菌でも悪玉菌でもなく、両者のうち、優勢な方に加担する作用があるらしい。
善玉菌と悪玉菌は両者ともに、いがみ合っている。
その理由は、両者が快適に過ごせる「pH」が異なるからだ。
pHっていうのは、液体の性質の一種だ。
酸性なのか、アルカリ性なのかってやつだ。
pH(液性)については、イメージしづらいと思うから、例え話をしよう。
高校の教室にエアコンがあるとしよう。
一般的に男子生徒は暑がりだ。
できるだけ涼しく教室内を保ちたい。
彼らが快適に過ごせる温度は18度だ。
しかし、一般的に女子生徒は寒がりだ。
エアコンの風は身体に毒だ。
彼女たちが快適に過ごせる温度は23度だ。
さて、男子と女子の快適に過ごせる温度には5度の差がある。
このエアコンの設定温度を巡って、男子と女子は殺し合うことになる。
そして、優勢な勢力の数が増える。
温度が18度に近づくほど、男子は分裂を繰り返し、その数を増やす。
温度が23度に近づくほど、女子は分裂を繰り返し、その数を増やす。
男子は善玉菌、女子は悪玉菌ってことにしよう。
低めのpHを快適に感じるのが善玉菌で、高めのpHを快適に感じるのが悪玉菌だからだ。
男女に例えると怒られそうだけど、他意はないのであしからず。
日和見菌はそのどちらにも加担しないけど、一度傾いた温度からあまり変化しないように、「あんまり温度をころころ変えるなよ」と文句を言って圧力をかけることはするらしい。
善玉菌は自らの快適な環境(pHの低い環境)を作るために、酸性物質(乳酸、酢酸、酪酸など)を分泌する。
悪玉菌は自らの快適な環境(pHの高い環境)を作るために、塩基性物質を分泌する。
お互いに、自分に快適な環境を作ろうとするんだ。
そして、その数と勢力が強い方がその場(大腸粘膜)を広く占領することになる。
大腸粘膜上は微生物たちにとってまさしく「戦場」であって、決して「お花畑」ではないのだ。
(つづく)




