第39話:僕はナイスタチンを愛している
僕はナイスタチンを愛している。
彼もまた、これほどまで自分を愛してくれた人間を知らないだろう。
僕はナイスタチンを愛している。
両想いかどうかは分からないけど。
ドクターAが僕に与えたナイスタチンという薬剤は、僕にとって画期的だった。
ナイスタチンがなければ、僕はこの未知なる病「水銀真菌症」には到達することは到底叶わなかっただろう。
数ある抗真菌薬の中から、ドクターAがなぜナイスタチンを選択したのかは分からない。
いつか尋ねてみる機会があればいいなと思う。
さて、話を進める前に、ナイスタチンについて詳しく説明する必要があるだろう。
【①ナイスタチンは抗真菌薬だ】
ナイスタチンは抗真菌薬だ。
真菌と呼ばれる微生物を駆逐してくれる。
カンジダ菌は真菌の一種であるから、もちろんナイスタチンで死んでくれる。
まぁここまではいいだろ?
ドクターAもカンジダ菌が僕のうつ病の原因だと考えて、カンジダ菌を殺そうとしてくれたんだ。
それは至って当然の帰結だろう。
重要なポイントは次だ。
【②ナイスタチンは腸管で吸収されない】
なんと、ナイスタチンは腸管で吸収されない。
これだよ、これ、これなんだよ。
君にはこの凄さが分かるか?
吸収されないんだよ、腸管から!!
つまりナイスタチンは、「血流に乗らない」。
血流に乗らないんだ。
つまり、ナイスタチンが存在できる領域は、身体の内なる外である「腸管の中の空間」のみに限定される。
すごいすごいすごい、すごすぎる。
まるで僕のために生まれてきてくれた薬剤だ。
凄すぎる、言葉がない。
僕の仮説では、僕の大腸粘膜上に存在するカンジダ菌が死滅すると、それに伴い僕はダイオフ症状を自覚する。
つまりーーーーーーー、
もうお分かりだね。
このナイスタチンを服用することで、ダイオフ症状が生じれば、それはつまり、
「少なくとも、僕の腸管内に!、何らかの真菌が存在している」ことになる。
居場所がはっきりするんだよ。
僕を苦しめている奴が腸管内にいるのか、それとも腸管内以外の身体の中にいるのか。
そしてそれに加え、僕の自覚しているダイオフ症状が、ある種の食材に対するアレルギー症状などではなく、「真菌が死滅することに伴って生じる症状」であると、確定することができる。
つまり、ナイスタチン服用後の僕の反応を知ることで、この仮説(もともとはインターネット上の記述)の真偽が、一部明らかになるかもしれない。
そうさ、次なる実験の名はーーーーー、「ナイスタチン実験」だ。
(つづく)