第36話:霧の中の診察
「カンジダ菌が悪さをしている可能性があります」
彼ははっきりとそう告げた。
僕は夢でも見てるんじゃないかな。
その時僕はぼんやりとそんなことを考えていた。
僕は自分のうつ病がカンジダ菌によって生じているのではないかと確かに疑っていた。
でもその陰で、そのように疑っている自分の思考も同時に疑っていた。
僕は名誉欲に駆られて、都合のいい虚構を信じようとしているのではなかろうか。
本当はただ僕が怠惰なだけで、その言い訳として「カンジダ菌によって自分はうつ病になっている」と信じ込もうとしているだけなのではないか。
この時僕は絶賛「ブレインフォグ」の真っただ中だ。
霞んだ思考の中で僕はカンジダ菌とうつ病との関係について考察してきたが、その中で「単純に自分の頭がいかれてしまっただけではないか」という仮説さえ浮上していたんだ。
こんな怪しい病態を真顔で語る人がいるんだ。
僕が言えた話ではないが、実際にそう思った。
彼はカンジダ菌とうつ病との関係について説明した。
おおよそ、インターネット上で知り得た内容と近かったと思う。
「とりあえず、血液検査をして、体内にカンジダ菌が増えていないかどうか確かめてみましょう。」
採血を行って、その日の診察は終えた。
彼は多くの患者を抱えているらしい。
診察時間は限られていて、すぐにでも次の患者の診療に取り掛かるようであった。
僕は色んなことを尋ねてみたかったが、脳の霧と彼の多忙さによってそれは叶わなかった。
(つづく)