第34話: 沼から見上げた夜空
僕には糖質が足りなかった。
糖質を制限しておいて、糖質が足りないと嘆くなんて滑稽だと思われるかもしれない。
でも、もともと僕は原因不明の体調不良で、脳に霧がかかったような症状があるんだ。
そしてインターネット上に存在する怪しげな治療法に手を出すくらいには、身も心も追い詰められていた。
このまま治らなかったらどうしよう。
そんな気持ちが湧いてきては、頭の中で膨らんでゆく。
糖質が足りないだけじゃない。
ココナッツオイル療法が上手くいかなかった時点で、僕はもう焦っていたんだ。
焦っていたし、思考は霞んでいたし、身体は苦しかった。
人間には糖質が必要だ。
そんな当たり前のことも一旦置いておくくらいには、僕は錯乱していたんだ。
ココナッツオイルによるダイオフ症状、糖質制限と絶食療法による低血糖で、僕は次第に衰弱していった。
濃い霧の中をよろめきながら進み、僕は4年生の講義や小テストをやっとのことで通過していった。
そして、毎夜毎夜、やることは決まっている。
インターネットだ。
インターネットに僕を楽にしてくれる魔法の知識が落ちていないか、ひたすら漁っていた。
ベッドにうなだれ、右手と頭だけを布団から出してスマートフォンをいじる姿は、さながら、沼地に沈み、息絶えようとしている草食動物のようだった。
その時だった。
沼から見上げた真っ暗な夜空に、ようやくひとつだけ、星を見つけたんだ。
(つづく)




