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第31話:抗うつ薬の講義
その日は、抗うつ薬の講義があったんだ。
僕は密かにこの日を待っていた。
僕らの講義を担当する講師のほとんどが、各診療科の医師だ。
それぞれの専門家の実績を積んだドクターが教鞭に立ち、主に彼らの専門分野について学生に講義を行ってゆく。
学生はメモを取りながら講義を聞いて、その講義の重要なポイントが進級試験で問われることになる。
「確かに君の話すその症状なら、抗うつ薬を処方することになるだろうね。」
講義のために教室を訪れた精神科医は、講義後に快く僕の相談に乗ってくれた。
「抗うつ薬を飲むのが嫌かい?」
彼は僕が心療内科の受診を躊躇っていることを悟ったようだった。
「時々、君のように抗うつ薬に対して拒絶反応を示す人がいるよ。
僕はそのような人には漢方薬を出すことにしている。
それが必要なら、僕の外来においで。」
そう告げて、講師は自身の外来診察室へ戻っていった。
彼が予想した通り、僕は抗うつ薬を飲むことを躊躇っていた。
しかし、その理由は彼が予想していたものとは恐らく違ったんだ。
(つづく)




